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●「空高く」● ★☆ |
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2006年05月
2006/07/03 |
ロングアイランドに住む60歳間もない主人公ジェリーは、家業の会社を息子に譲り渡し、今は旅行会社で週3日働きながら中古のセスナ機でただ一人大空を飛ぶのが何よりの楽しみ。 悠々自適、何不自由ない引退生活なのだろうと思えますが、実はそうではないことが次第に判ります。 妻がプール事故で死んでから20年来付き合い、子育てにも手助けしてくれてきたリタから別れを告げられてまもなく、内心かなりジタバタしている。 年老いた父親を老人施設に入れているが何かと手間はかかり、家業の造園業を譲り渡した息子は経営順調と言っているが、実は過大投資が回収できず資金繰りに詰まっているらしい。娘は妊娠と時を同じくしてリンパ性癌に冒されていることがわかり子供と自分の生命の二者選択を迫られている状況にあることが判る。 ジェリー自身についても過去と現在を行きつ戻りつ語られているうちに、実は人間関係をうまく築くことの苦手な人物と判ってきます。 ジェリーが大空で一人になることを楽しむ理由は、自分が苦手な人間関係から逃れてホッとできるからなのでしょうか。でも、再び地上に戻れば、人間関係から逃れることはできないのは歴然としたる事実。 引退したからといって人生から自由になる訳でも、煩わしい人間関係から自由になる訳でもない、ということをいみじくも本作品は語っているように思います。ジェリーはやむを得ずなのでしょうけれど、人間関係の煩わしさに踏み込み、家族関係をもう一度再構築していく、そんなストーリィです。 最初、どういった作風なのかつかみきれず、率直に言ってかなり読みにくかった。まず、ひとつひとつの文章が長い、話がとめどなく前後ししかも長ったらしい。何度も書いていることですが、現代アメリカ小説は頁数が多いことで評価する傾向が在り過ぎるのではないか、と改めて感じざるを得ません。 |