アントワーヌ・ローラン作品のページ


Antoine Laurain  1972年フランス・パリ生。大学で映画を専攻後、シナリオを書きながら短編映画を撮り、パリの骨董屋で働く。2007年「青いパステル画の男」にて作家デビュー、同作にてドゥルオー賞を受賞。12年「ミッテランの帽子」にてランデルノー賞およびルシ・デ・ワイヤジュール賞を受賞し、世界的に注目される。14年「赤いモレスキンの女」のドイツ語版がベストセラー、イタリア語版はジュゼッペ・アチェルビ賞を受賞。


1.ミッテランの帽子

2.赤いモレスキンの女

3.青いパステル画の男

 


                                   

1.
「ミッテランの帽子」 ★★★ ランデルノー賞、ルレ・デ・ヴォアイヤジュール賞
 
原題:"Le Chapeau de Mitterrand"     訳:吉田洋之


ミッテランの帽子

2012年発表

2018年12月
新潮社

(1900円+税)



2019/01/25



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1986年の議会選挙で大敗した仏大統領フランソワ・ミッテランが、再びその座を取り戻すまでの2年間を背景にした物語。

うだつの上がらない会計士
ダルニエ・メルシエがふと入ったブラッスリー。何とその隣席に、ミッテランが着席。
そのミッテランが置き忘れて行ったフェルト帽、ダニエルはついその帽子を手に取って店を出てしまいます。
しかし、そのミッテランの帽子が、手に取った人々の運命を変えていく。
まずはダニエル、次いで見込みのない不倫関係から抜き出せないでいた
ファニー・マルカン、長いスランプに沈んでいた天才調香師のピエール・アスラン、そして最後は資産家のベルナール・ラヴァリール

とにかく最初から面白い。何と言っても、あのミッテランの<帽子>が重要な脇役を果たしているのですから。
そして、ストーリィ全体が、温かみのあるユーモラスな雰囲気に包まれていると言って過言ではありません。
帽子が4人の手を次々と渡っていく経緯、その彼らの運命を変えてしまう様子が何といっても楽しい。
ストーリィ展開は歯切れよく、シンプルかつ明快。そしてテンポも良し。

それだけでも十分面白かったのですが、最後のエピローグがまた抜群。
エピローグが、それまでの面白さをさらにもう一段、グン!と引き上げた感じで、もう興奮しました。
軽く読めて面白く、飽きることのない傑作。是非、お薦め!

                            

2.
「赤いモレスキンの女」 ★★★
 
原題:"La Femme au Carnet Rouge"     訳:吉田洋之


赤いモレスキンの女

2014年発表

2020年12月
新潮社

(1800円+税)



2021/01/23



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これはもうサイコー!の魅力。年初からこうした作品に出会えたことは幸せ、という一言に尽きます。

大人の、恋の冒険譚、ミステリという風味付き。

冒頭、一人の女性がタクシーを降り、自宅建物の鍵を開けようとしたところで強盗に襲われるところから始まります。
ハンドバックを奪われ、頭を鉄扉に叩きつけられるという目に遭う。何とか向かい側のホテルに辿り着き宿をとったものの、翌朝昏睡状態にあるのをホテルの従業員が発見します。

一方、本書の主人公で書店主である
ローラン。通りがかったゴミ箱の上に見事な状態のハンドバックが置かれているのを見つけ、とりあえず家に持ち帰ります。
バッグの中には、作家モディアノのサイン本、彼女の思いを綴った
赤いモレスキンの手帳、そして身の回りの品等々。
バッグの持ち主女性に関心を惹きつけられたローランは、
「ロール」という名前しか分からないその見知らぬ女性を捜すため、パリの街を歩き回ります。

とにかくそこからの展開が素晴らしい。偶然がもたらした機会、ロマンティックな香りと、ミステリアスな刺激。これはもう堪りません。
さらに、洒落た品格ある文章の合間に手紙文や日記文が混ざり、本ストーリィの文章を辿るだけで見知らぬ街中を何かを求めて巡り歩くような、ワクワクする楽しさを感じます。

しかし、中年男性の恋は猪突猛進とは行かないもの。そこに思い切った波紋を立てるのが、離婚して元妻と暮らしている15歳の娘=
クロエ
その後の展開が、これまた何とも魅力的なのです。

本作の魅力を感じるには、本作を読んでもらうしかありません。
是非、お薦め!

                     

3.
「青いパステル画の男」 ★★☆
 
原題:"AILLEURS SI J'Y SUIS"     訳:吉田洋之


青いパステル画の男

2007年発表

2022年12月
新潮社

(1700円+税)



2023/01/18



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既刊2作が好評だったからでしょう、作家デビュー作の刊行。
本作も 150頁程度と読み易いページ数、そして面白かったです。

パリの
弁護士ショーモンは、エドガー伯父の影響を受け子供の頃からの骨董品コレクターですが、妻シャルロットには不評。
ある日ドゥルオーの展示室で、自分そっくりの男が描かれた肖像画を見つけ、競売で予想以上の値が付きますが、憑かれたように買ってしまう。
しかし、シャルロットからは全く似ていないと相手にされず、しかも値段を告げて呆れられてしまう。

額縁の紋章が
マンドラゴン伯爵家のものと知ったショーモンは、シャルロットに何も告げないまま、愛車ジャガーに肖像画を乗せてその領地へと向かいます。
そこでショーモンを待ち受けていたものは・・・・。

自分にそっくりな人間がいたと知ったら、その人間に関心を抱くのは当然でしょう。
しかし、向かった先で別の人生を手に入れることができると知ったら、そして麗人とのめくるめく行為まで手に入れられると知ったら・・・。

まるで降って湧いたような冒険、そして他人の人生を送るという夢みたいな出来事、ファンタジーというよりお伽話という方が相応しいでしょう。

しかし・・・・。最後は驚きというより、呆気に取られたという思いです。
最後の数ページが圧巻。こんな結末が待っていようとは・・・。如何にショーモンが自分勝手な人間だったか、ショーモンと一緒にワクワクしていたら、強烈な一撃を喰ったという処。

作家が仕掛けた驚愕の面白さ、是非味わってみてください。


1.モノを愛した男/2.不在の男

 



新潮クレスト・ブックス

      

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