
1996年発表
2004年09月
新潮社刊
(2000円+税)
2004/10/20
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ヴィクトルは売れない短篇作家。女友達が出ていった後、動物園が譲り分けた皇帝ペンギンをもらってきて、一緒に暮らしています。
ミーシャと名づけたそのペンギンは何と憂鬱症。不眠に悩むペンギンは、夜中のぺつ部屋の中をペタペタと歩いている。
そんなヴィクトルに新聞社から仕事が舞い込みます。まだ死んでいない人の追悼記事を書いて欲しい、という依頼。いずれという時のため、予め記事を用意しておくのだという。
しかし、奇妙なことに、ヴィクトルが哀悼文を書いた相手が次々と死んでいく。その一方、友人となった相手からは突然に娘の世話を頼み込まれたりと、不可解な出来事が次々とヴィクトルの身の上に起こっていきます。
事情をはっきりさせようとすることもなく、ヴィクトルは淡々と周囲の出来事を受入れていく。不可解ではあっても、そこには奇妙な安定感、バランスがあります。まるで、ソ連が崩壊して独立国となったウクライナの現状を示唆するかのようです。
本作品の秀逸な点は、ミーシャという物言わぬペンギンの存在。単なる風変わりなペットなのか、それとも主人公と心情を共有し得る親友のような存在なのか。そのどちらとも判断つけることはできません。
ヴィクトルが次第に危地に追い込まれていくにもかかわらず、ストーリィ全体には何となくユーモラスな雰囲気が漂う。その不条理さが本作品の面白さです。
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