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1.ありふれた祈り 2.このやさしき大地 |
1. | |
「ありふれた祈り」 ★★☆ アメリカ探偵作家クラブ賞等 |
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1961年の夏、米国ミネソタ州の田舎町でひとりの少年が列車にはねられて死んだ事故のことからストーリィは語り起されます。 S・キング「スタンド・バイ・ミー」を連想させるような出だしですが、それは生涯忘れることのできなくなったひと夏の序章にしか過ぎません。 一人称の主人公は、少年のフランク。牧師である父親ネイサン、芸術家肌の母親ルース、音楽の才能に恵まれた姉アリエル、吃音症の弟ジェイクという5人家族。 平凡だけれどそれなりに幸せだった家族に、思いも寄らない悲劇が起こります。そして悲劇はそれにとどまらず・・・・。 一応ミステリに分類される作品でしょうけれど、本質的には家族の物語であり、かつ喪失と赦しの物語と言うべきでしょう。 どちらかというと聡明な弟ジェイクに比較して、フランクはかなり無茶な行動をする少年。その分、短絡的に怒りを爆発させ、思い込みも激しい。 人を信じるという姿勢を揺るがすことない父親ネイサン、衝動的なフランク、大人びた処のあるジェイクという3人が対照的。そこから鮮明になるのは、怒りの感情はさらなる悲劇を生みかねないという事実です。 悲劇を前にした人間が行うべきことは、怒りを爆発させることではなく、ただ祈ることかもしれません。 エピローグでの親子3人の姿に、初めて深い感慨を覚えます。 |
2. | |
「このやさしき大地」 ★★☆ |
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1932年、ミネソタ州。 孤児となったオディ(12歳)は、白人でありながら兄のアルバート(16歳)と共に、インディアンの子供たちを収容するリンカーン救護院で暮らしていた。 しかし、皆から「黒い魔女」と仇名される院長のセルマはやたらオディを目の仇にし酷薄に振る舞うのが常。 命の危機に瀕したオディは致し方なく管理人を殺してしまい、アルバート、親友でスー族の少年モーズ、竜巻で母を失い孤児となったばかりの少女エミー( 6歳)と共に救護院を脱走し、カヌーで川を下る旅に乗り出します。 目的地は、兄弟の叔母ジュリアが住むセントルイス。 4人の少年少女が繰り広げる、川を下る旅と冒険&成長の物語。 そんなストーリィからすぐ思い出すのは、マーク・トウェイン「ハックルベリー・フィンの冒険」。 あとがきで作者が“アップデート版”と言っているとおり、本作はまさしく1930年代のハック・フィン物語なのです。 各章ごとに冒険が繰り返されます。 救護院という塀の中から飛び出してみれば、世間は広く、様々な人たちがそこにはいます。 彼らを虐待する人間もいれば、彼らを温かく迎えてくれる人もいます。中でも伝導団のシスター・イヴや、食堂店主のガーティという人物像は魅力十分。 しかし、彼らの行方を追うブリックマン院長夫妻の魔の手が迫るのは何処にいても同じ。そのため安住することはできない。 院長夫妻は何故執拗に彼らを追うのか。追跡と逃亡というストーリィは、単なる冒険に留まらずスリリングです。 旅を続けて来れば互いの考え方の違いも明らかになります。それでも“ひとりじゃない”という気持ちが彼らを強く結びつけています。 技術力を買われたり、恋をしたり、様々な経験によって彼ら一人一人が成長していくところが本作の尽きない魅力です。 そして最後には、あッと驚く展開が待っています。 大恐慌時代、インディアンへの迫害等々、「ハック・フィン」と時代背景も異なりますが、懐かしい物語に再び見える喜びと新しい物語を読む楽しさをたっぷり堪能できる物語です。 是非、お薦め! 1.神は竜巻/2.片目のジャック/3.天国/4.オデュッセイ/5.ザ・フラッツ/6.イサカ/エピローグ |