エトガル・ケレット作品のページ


Etgar Keret 1967年イスラエルのテルアビブ生。両親は共にホロコースト体験者。義務兵役中に小説を書き始め、98年短篇集「パイプライン」にて作家デビュー。94年掌篇集「キッシンジャーが恋しくて」で注目され、アメリカでも人気を集める。絵本やグラフィック・ノベルの原作執筆の他、映像作家としても活躍。2006年には「ジェリーフィッシュ」にて妻のジーラ・ゲフェンと共にカンヌ映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞。


1.
突然ノックの音が

2.
あの素晴らしき七年

 


                

1.

「突然ノックの音が」 ★★☆
 原題:
"Suddenly a Knock on the Door"  
 訳:母袋夏生


突然ノックの音が

2010年発表

2015年02月
新潮社刊

(1900円+税)

 


2015/03/30

 


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イスラエルの作家による短篇集、いずれもごく短いストーリィばかりという38篇。

短いストーリィというとすぐ星新一・ショートショートを思い浮かべますが、ユーモアもあるものの、星新一作品のような面白い一辺倒の短篇集ではありません。
表題作でもある冒頭の
「突然ノックの音が」は、ユーモア? それともホラー? いやいや不条理かも?といった内容。
笑ってしまう話もあれば、切ない話もあり、その原因は主人公自身にあるという話もあれば、不条理極まりない話もあり、SFあるいはファンタジーのような話もあります。
最初の半分くらいは丹念に味わっていたのですが、てんでばらばらな趣向からなる掌篇が延々と続く中、終盤に至る頃には疲れてきて何が何だか分からなくなってきたというのが実情。

38篇の中には魅力的なストーリィもあるのですが、一つ一つの篇に捉われず全体を通して読み続ける内に感じるのは、人生にはいろいろなこと、およそ考えられないような出来事も起こり、つまりはままならない、ということ。それは人間のみならず神様にも当てはまることなのです。
それでも、そうした中でも、人は生きていかなければならないのだ、ということなのでしょうか。イスラエルの作家だからこそ抱く世界観のように感じます。

なお、38篇の中で私が惹かれたのは、「突然ノックの音が」「嘘の国」「健康的な朝」「色を選べ」「バッド・カルマ」「プードル」「金魚」「グアバ」といった篇。

突然ノックの音が/嘘の国/チーザス・クライスト/セミョン/目をつむって/健康的な朝/チームを組む/プリン/最近、並みじゃなくたつ/チクッ/お行儀のいい子/ミスティック/創作/鼻水/カッコーの尻尾をつかむ/色を選べ/青あざ/ポケットにはなにがある?/バッド・カルマ/アリ/プードル/勝利の物語/一発/カプセルトイ/金魚/ひとりぼっちじゃない/終わりのさき/あおい、おおきなバス/痔/一年中、いつも九月/ジョゼフ/喪の食事/もっと人生を/パラレルワールド/アップグレード/グアバ/サプライズ・パーティ/どんな動物?

         

2.
「あの素晴らしき七年」 ★★☆
 原題:
"The Seven Good Years"  
   訳:秋元孝文


あの素晴らしき七年

2016年04月
新潮社刊
(1700円+税)

 


2016/05/26

 


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初めての息子の誕生から、ホロコーストを生き延びた父親の死までという7年間におけるあれこれ、その都度の思いを語ったエッセイ集。

それだけを言うと日常的な出来事を語ったエッセイ集と思われるかもしれませんが、作者がイスラエルに住むユダヤ人作家であるだけに、ただの日常では終わりません。
外国に出ればユダヤ人敵視の視線を気にせざるを得ませんし、ユダヤ国内では我が子の兵役という問題に向き合わざるを得ませんし、空襲や爆撃という恐怖も無縁ではない。
それにもかかわらず、作者エレットの語り口には常に軽妙なユーモアがあります。
それはまるで、厳しい現実を背負いながらも前向きに生きていくための術とでもいうかのようです。

ただし、そんなことを考えなくても、各篇エッセイは十分に面白い。電話勧誘を断固拒否することができなかったり、ママ友の中で何故自分だけ話題から除外されてしまったのだろうと戸惑ってみたり、搭乗した航空機の中でのトラブルに思いっきり泣き騒いだりみたり、親子3人でサンドイッチごっこしてみたり(その状況が状況なのですが)と。
ことに息子
レヴにしてやられながら満足げな様子には親バカさが透けて見えて、かなり可笑しい。

各篇エッセイなのですが、ショートストーリィのような面白さを備えています。勿論そこでは、作者のエレット自身が主人公です。
置かれている状況に負けないユーモア精神は、もはやお見事という他ありません。お薦め。

一年目/二年目/三年目/四年目/五年目/六年目/七年目

        



新潮クレスト・ブックス

      

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