海外の秀作を紹介している“新潮クレスト・ブックス”。
いずれも良質の作品ばかりなので、刊行されるたび基本的に読むことにしているのですが、今回ばかりはさすがにお手上げ、と言う他ありません。
本書は、1960年代を代表する傑出したアメリカン・ポップ・バンドであった“ビーチ・ボーイズ”、そしてその音楽を作り上げていたリーダーのブライアン・ウィルソンを、一人の熱烈なファンの目から描いたノンフィクション。
ビーチ・ボーイズのメンバー5人は、米国カリフォルニア州ホーソンの出身。ブライアンとその弟デニスとカール、従兄のマイク・ラブ、それにブライアンの同級生アル・ジャーディンという顔ぶれ。
かのビートルズと肩を並べるほど英米で人気のあった、バンドだという。その特徴はというと、明るく健康的でハッピーなナンバー。
1966年夏に発表されたアルバム「ベット・サウンズ」は、現在までに総計
900万枚を売り上げ、ロックの歴史を変える名盤となった。しかし、発売当初はそれまでのビーチ・ボーイズのサウンドを覆すようなものだったことから、ファンやメンバーの戸惑いを呼んだのだという。
作者ジム・フジーリによるビーチ・ボーイズへの、そしてブライアンへのファン・レターとも言えるノンフィクションですから、これはもうこのバンド、あるいはそのナンバーを知らないとどうにもなりません。
そして私は、このバンドを今まで全く知らず、曲も全く聞いたことがないのですから。
明るいナンバーの曲を作り上げる裏側で、父親マリーの暴君ぶりに傷つけられ、また精神的な均衡を保てず麻薬への依存を高めていくブライアン。その明暗は対照的な構図と言えるのかもしれません。
訳者である村上さんは、中学生の頃からビーチ・ボーイズに馴染み、「ペット・サウンズ」を聞き返すに連れてその深い味わいを理解できるようになったとのこと。
良くも悪くも、ファンのための一冊。なお、曲の詞は原語でこそ味わいがあります。訳文では感慨今ひとつ足りません。
※ビーチ・ボーイズの曲、いつか聴くことがあるだろうか。
|