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「大いなる不満」 ★★☆ |
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2014/06/30
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“新潮クレスト・ブックス”で紹介された作品の感想を書いていると「類稀な」という言葉を度々使っているような気がするのですが、本書もまさにそんな短篇集。 どれもごく短い作品ばかり。そしてそのどれもが“不条理”を描いたストーリィ。でも詳細に語ろうとするとどう言い表せばいいのか、正直言って困惑してしまいます。唯一付け足して言えることは、不条理であってもどこかユーモア、可笑しさがあること。 作者はどこか達観しているのでしょう。そうでなければこうしたユーモアは生じない筈。 以前に行われたインタビューで作者のフリードは、「自分たちの不条理を、僕たちは笑うべきだ」と答えていたそうです。 収録11篇の中には判りにくいストーリィもあります、「格子縞の僕たち」「包囲戦」「筆者僧の嘆き」のように。 一方、冒頭の「ロウカ」「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」「ハーレムでの生活」辺りは唖然としてしまうくらいに面白い。 ・「ロウカ」は、山岳地帯で発見された2000年前のミイラ=ロウカに、研究者たちが研究そっちのけで感情移入してしまう話。 ・「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」は、毎年多くの惨劇を起しているというのに、何故か住民たちは毎年そのピクニックに参加してしまう、という話。 ・「ハーレムでの生活」は、王様の不興を買った老事務官がいきなりハーレムに投げ込まれてしまう話。 ・また、触れずにはいられない篇が「エデン」。エデンの園を舞台に、そこに住む生き物たちが混乱と不安の気配を充満させていくストーリィ。その不穏さ極まれり、といった雰囲気には行き詰まるような圧迫感があり、凄い!としか言いようがありません。 奇想でもあり、幻想でもあり、被虐的でもあり。ここに至るともう創作に何の縛りもなく、自由自在と言う他ないでしょう。小説の領域もここまで至ったのか、と感じます。 ロウカ発見/フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺/ハーレムでの生活/格子縞の僕たち/征服者の惨めさ/大いなる不満/包囲戦/フランス人/諦めて死ね/筆写僧の嘆き/微小生物集-若き科学者のための新種生物案内 |