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「ビリー・リンの永遠の一日」 ★★☆ |
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イラク戦争で戦ったブラボー分隊の生き残り兵士8人は、米国内での戦意高揚という目的のため一時帰国させられ、様々な催しに引っ張り回されます。 その最後は、アメリカンフットボールのハーフタイムショー。 しかし、終了後8人は再び戦地へ向かわされます。 主人公は特技兵のビリー(ウィリアム)・リン、19歳。 彼は同じ分隊のシュルームによって知的感性を目覚めさせられますが、そのシュルームは戦死し、ビリーは生き残って今米国内でヒーロー扱いされている。 本ストーリィは、このビリーの視点から描かれています。 とにかく8人の兵士と、米国内でこれまで通りの生活をしている国民たちとのギャップの大きさが凄い。 彼らはヒーローだから生き残った訳ではなく、たまたま生き残った故にヒーロー扱いされているに過ぎない。そして再び戦地に戻されれば今度は死ぬかもしれないのです。その残酷さたるや何をか況や。 しかし、彼らをヒーロー扱いしている米国民はそれを正しく認識しようともせず、戦場でのことをまるでゲーム上のことであるかのようにあれこれ質問する、という次第。 それに対し、そのことに焦燥感を抱いているのは、自分の所為で弟が戦地に出向くことになったと責任を感じている姉キャスリン唯一人、という具合です。 そうした現実を分かっていて、ビリーらは望まれるままのヒーロー役を演じているのです。 時間と場所を共有していても、ビリーら8人と彼らの周りではしゃぐ人々とは、まるで鏡を間に挟んだ異次元にいるようです。 彼らを戦意高揚のための道具として扱うことに何らためらわない政府側、彼らの置かれた現実に気づこうともしない人々、それらは不気味としか思えません。 それなのに本作から現代ホラーのような印象を受けないのは、どこか突き抜けたユーモア感が語り手であるビリーに、ひいては作者の語り口にあるからでしょう。 最後、ビリーが一時味わったフェゾンとの恋に背を向けて、仲間たちと戦地へ向かうためのリムジンに乗り込む場面は、忘れ難く心に残ります。 |