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「サブリナとコリーナ」 ★★☆ |
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2020年08月
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「コロラド州デンバーのヒスパニック系コミュニティで、やるせない日常を生きるさまざまな世代の女たち」の姿を描き、 「アメリカ建国以前からこの地に根差しながら、非白人として疎外される痛みと苛立ちを描いて、一躍注目を集めたデビュー短篇集」とのこと。 まさに上記紹介文どおりの内容です。 何より印象的なのは、読み始めた冒頭から最後まで、登場する女性たちそれぞれが、最初から重荷というかハンデとかいった哀感を背負っていること。 そこには、米国であって米国(一般的にイメージするような)でないような雰囲気が充満しています。それこそヒスパニック、ラテン系、ネイティブの社会、ということなのでしょう。 本短篇集に、主役として男性は登場しません。すべて主役となるのは女性たちです。 描かれるどのストーリィからも、これは特別に作られたドラマではなく、そこに日常的にある女性たちの生活、人生であるということを強く感じます。 出産、子育てという重荷を元々背負っているから故に、その哀感はさらに濃いからでしょう。 収録11篇の中でも象徴的なのが、表題作である「サブリナとコリーナ」。 1歳違いで幼い頃から姉妹のような近さにあった従姉妹同士2人の生き方は対照的。地味に生きるコリーナの目から、男性関係にも奔放で派手な生き方をし最後に若い身で首吊り自殺したサブリナの姿が描かれます。 本篇だけでなく、女性が米国社会で浮かび上がるためには、白人男性を捕まえるしかないのか、と思われる展開が幾度も。しかし、捕まえたその白人男性の殆どは、ろくでもない男ばかり(「姉妹」「チーズマン・パーク」)。そこにも悲哀を感じざるを得ません。 きれいだからと浮かれ馬鹿な生き方をした、と思われがちなサブリナを救っているのは、最後のコリーナの一言です。 西洋医学ではなく、現代でもなお民間治療に頼る姿を描く「治療法」「彼女の名前をぜんぶ」には、まさしくネイティブを描いたという印象を受けます。 本短篇集は白人系ではない女性たちの悲哀を描いたものですが、広く見れば、未だ未だ男性に比べて劣勢に置かれていることの多い女性たちに通じる、普遍的な作品になっていると思います。 リアリティだけでなく、その点からも、是非お薦め。 シュガー・ベイビーズ/サブリナとコリーナ/姉妹/治療法/ジュリアン・プラザ/ガラパゴ/チーズマン・パーク/トミ/西へなどとても/彼女の名前をぜんぶ/幽霊病 |