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「ミケランジェロの焔」 ★★☆ |
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イタリア・ルネサンス期を代表する彫刻家、画家、建築家であったミケランジェロ・ブオナローティ(1475〜1564)の生涯を描いた作品。 単なる伝記小説に留まらないのは、ミケランジェロが死を前にして甥のレオナルドに宛てて書いた手紙、という形式を以てする、自分語りの小説になっているからでしょう。 息子を早く仕事に就かせてその報酬により自分が楽しようと企む父親は、とんでもなく自分勝手でアコギな親。 そんな父親に従わず、揺るがずに彫刻職人の道を志し、20代にして「ピエタ」「ダヴィデ像」という傑作を生み出して名声を確立したミケランジェロは、同時代のレオナルド・ダ・ヴィンチと並んでルネサンスを代表する万能天才。 しかし、その名声故に、ユリウス二世に始まる代々の教皇たちに振り回され、同業者や反対勢力の者たちから、手酷い暴言、非難を浴びせられるといった苦渋をずっと味わいます。 それでも、その生涯を通じてミケランジェロが創り出そうとしていたものは何なのか。ミケランジェロの自分語りだからこそ、読み手の胸にそれが強く伝わってきます。 ミケランジェロという人物に真正面から向き合うことができた、という気分です。 だからこそ読み手も、ミケランジェロと一心同体になって当時の度重なる政治事情の変化による苦渋を味わうことができる、と言えます。 ミケランジェロ、人から非難を受けることが多かったらしい。 人付き合いが下手で孤高を望む性格だったのでしょう。 でも、生身の人間という姿を描き出そうとする芸術家としての想いは真摯で熱く、ひたすら直向きです。 また、多額の報酬を得ていてもその暮らしぶりは質素で、慎ましかったという。 本書によってミケランジェロという等身大の人物像に一歩も二歩も近づけた気がします。 訳者の上野真弓さんが最後に「この本を読むあなたはきっとミケランジェロがすきになるだろう」と語っていますが、まさにそのとおりです。それだけの魅力を含んだ一冊です。お薦め。 |