バーリー・ドハティ作品のページ


Berlie Doherty 1943年 英国リバプール生。ダラム大学で英文学を専攻。ソーシャルワーカーを経て、79年より執筆活動。詩、脚本、児童文学、小説と分野は幅広い。86年「シェフィールドを発つ日」、92年「ディアノーバディ」にて2度カーネギー賞を受賞。


1.シェフィールドを発つ日

2.ディア ノーバディ

3.蛇の石 秘密の谷

4.ライオンとであった少女

 


 

1.

●「シェフィールドを発つ日」●  ★★☆    86年英国カーネギー賞
 
原題:“Granny was a Buffer Girl”




1986年発表

1990年06月
福武書店刊

 

2001/04/03

 

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本書は児童図書の棚にありました。直訳すると“おばあちゃんは研磨工だった”というのが原題。主人公の祖母ドロシーのことです。
舞台はシェフィールド。かつては金属工業で栄えた町ですが、今は当時のような繁栄はありません。しかし、作者が実際に住んでいる町であり、作者のこの町への愛着が感じられます。
主人公ジェスが1年間のフランス留学に旅立つ前日、母方・父方双方の祖父母、両親、兄がジェスの家に集います。そこで語られるのは、それぞれの祖父母のロマンス(ジャックと亡きブレディ、そしてドロシーアルバート)、父親マイクの失恋、母親ジョウジィとの出会い、そしてジェスが幼い頃に死んだ兄ダニイの思い出等。
ジェスにとって祖父母、両親であっても、彼等がずっとそうであったわけではありません。其々、ロマンスや失恋を味わう若者だった頃があったのです。年頃になったジェスもまた恋愛の一片を知るようになりますが、それは祖父母、両親たちがかつて経験してきたことと同様のこと。次の世代に繰り返し引き継がれてきたことであり、3世代を越えた共感がそこにあります。
それらの思い出を抱きしめて、ジェスはシェフィールドから旅立つ時を迎えます。訳題は、原題とかなり異なるものですが、そうした思いを篭めたものとして、「シェフィールドを発つ日」という題には、爽やかな印象が残ります。

お祝い/ブリディとジャック/研磨工の娘/土曜のダンス/ルウシイ・クラグウェル/ダニイ/少年と鳥/十七歳の影/巨人/ディスコ/家を去る日

    

2.

●「ディア ノーバディ」● ★★★   92年英国カーネギー賞
 
原題:“Dear Nobody”




1991年発表

1994年03月
新潮社刊

1998年03月
新潮文庫
−絶版−

2007年11月
小学館再刊
「あなたへの手紙」

2001/03/30

 
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ヘレンクリスは、18歳の恋人同士。2人が思いがけなく体験した、初めてでたった一度のセックスは、彼等2人に新たな生命を与えます。
ストーリィは、ニューカッスルの大学に出発しようとしているクリスの回想から始まります。その回想の間に、ヘレンが新たな命に“ディア ノーバディ”と呼びかけて綴る手紙が挿入されます。回想と手紙が交互に混じり、1月から10月までの過去1年間が語られていきます。

18歳という年齢からすれば、予想もしなかった衝撃的な出来事。ヘレン、クリス2人とも、その事実に大きく揺さ振られます。作者は彼等2人を温かく見守っていますが、2人の心情を思うと、あまりに切ない。その切なさが、本作品全体を覆っていると感じます。
2人の内、ヘレンの方に動揺が大きいのは、当然のこと。しかし、生命の成長とともに、彼女はしっかりと母親に近づいていきます。それに対し、クリスは男の子の域をなかなか脱することができません。故に、2人の間は徐々に隔たっていきます。
本書の主題は、10代の妊娠+小さな生命への慈しみにあります。しかし、もうひとつ“母親探し”という主題を持っているそうです。確かに、登場人物各々において、母親探しのストーリィが秘められています。

“ディア ノーバディ”と呼びかけるヘレンの言葉を聞きながら、静かに感動を積み重ねていく物語、本書はそんな作品です。

 

3.

●「蛇の石 秘密の谷(旧題:アンモナイトの谷)」● ★★☆  
 
原題:“The Snake-Stone”




1995年発表

1997年12月
新潮社刊

2001年03月
新潮文庫
(476円+税)

 
2001/03/20

  
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15歳のジェームズは、有望な飛び込み選手。両親は彼を愛し、飛び込み練習にも一生懸命協力してくれているけれど、彼は養子。両親はそのことを彼に隠すことはありませんでした。
しかし、飛び込み練習でのふとしたことから、ジェームズは産みの母親のことを気にかけるようになります。そして、彼は、両親に内緒で、自分の出生のことを知るための旅に出ます。手がかりとなるのは「サミーをおねがい」と書かれた紙片にある地名と、“蛇の石”と言われるアンモナイトの化石。

中心ストーリィはジェームズが母親を探し尋ねる旅ですけれど、その間々に、小さな女の子が彼を産むストーリィが断片的に挿入されています。
本書は、ジェームズのストーリィであると同時に、彼の母親となった小さな女の子エリザベスのストーリィでもあります。
ジェームズの旅は、彼が少年から大人へ脱皮するために不可欠なものでしたが、それはエリザベスにとっても、彼女の過去に決着をつけるものだったと言えます。
彼は捨て子ではありましたが、彼の周囲には、彼を温かく見守ってくれる人達が沢山いました。養父母、ホリゲイトの村で出会った赤ん坊の彼を知る人、そして彼の小さな母親さえも。
感動というより、人の温もりがゆっくりと感じられる作品です。そこが気持ち良い。爽やかな読後感のある、少年の成長物語です。

   

4.

●「ライオンとであった少女」● ★★☆  
 
原題:“ABELA”             訳者:斎藤倫子




2007年発表

2010年02月
主婦の友社
(1600円+税)

 

2010/02/24

 

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タンザニアの9歳の少女、アベラ
村から遠い病院まで懸命に母親を連れて行ったのに、その甲斐なく母親は死に、家に帰ると幼い妹も死んでいた。
父親も既に亡くなっていて、祖母と2人きり。それなのに自分のことしか考えない身勝手な叔父に利用され、たった一人で英国ロンドンへ送られ、そこで放り出されるという苛酷な目に会う。

一方、シェフィールドに母親と2人で暮らすローザは、タンザニア人の血を引く混血の少女。
突然に母親がタンザニア人の子を養子にしたいと言い出し、母親の愛情を失うことを恐れ、不安にかられる。

本書は、アベラとローザを代わる代わる主人公にしながら、ローザとその母親に出会うまでのアベラの試練を描いた孤児物語。
幼い少年少女が大人以上の試練に出会うストーリィという点では蛇の石 秘密の谷に相通じると思いますし、孤児物語という点では英国小説の伝統かという気がします。
それはともかくとして、いたいけなアベラが決して泣きわめくことなく、懸命に自分の運命を耐え忍んでいる姿には胸熱くなります。
アベラが何故耐えることができたのかというと、母親が死ぬ間際に言い残した「強くなりなさい。わたしのかわいいアベラ、強い子になるのよ」という言葉を必死で守ろうとしているから。
デヴィッド・コパフィールド」「飛ぶ教室と、子供の不幸を描いた作品は数多くありますが、アベラという少女像はその中でも格別です。
苛酷であっても運命に負けず、志をもって強く生きようとするその姿には、気高ささえ感じます。

子供向けの本でありながら、大人が読んでも深い感動を呼び起こされる、そうしたところはさすがバーリー・ドハティです。
児童文学がお好きな方には、是非お薦めしたい一冊。 

    


 

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