チャールズ・ディケンズ作品のページ No.2



11.リトル・ドリット

12.我らが共通の友

13.エドウィン・ドルードの謎


【作家歴】、ボズのスケッチ−短篇小説篇、ピクウィック・クラブ、オリヴァー・トゥイスト、骨董屋、アメリカ紀行、マーティン・チャズルウィット、クリスマス・カロル、炉辺のこおろぎ、ディヴィッド・コパフィールド、荒涼館

ディケンズ作品のページ No.1

 


    

11.

●「リトル・ドリット」● ★★★
 
原題:“LITTLE DORRIT”

 

1855-7年発表

 

1980年11月
集英社刊
世界文学全集
(第33・34巻)

1991年01月
ちくま文庫
(全4巻)

 

 

1980/11/25
1995/03/05

債務者監獄に20年以上も閉じ込められたドリット一家を中心にした物語であり、資本主義社会の矛盾をつくものと評価される作品です。
初めて本書を読んだ時には、債務者監獄という物語の舞台や、登場する人物が老人くさいことから、その陰気さ故あまり好きになれませんでした。ところが、次に読んだ時には、債務者監獄というディケンズならではの舞台、そして主人公
エイミーの可憐さからディヴィッド・コパフィールドに並ぶ、好きな作品となりました。
“リトル・ドリット”と呼ばれるエイミーは、債務者監獄で生まれた、ドリット氏の末娘。もう一方の主人公アーサー・クレナムは、エイミーがお針子として母の家に出入りしていることから彼女を知り、その縁から債務者監獄を度々訪れるようになります。つまり、エイミーとアーサーは、一般社会と債務者監獄という2つの世界を行き来する人物となります。
このドリット一家とアーサーを中心に、富の変遷によって如何に人間性が損なわれるものか、という姿が描かれていきます。圧巻は、出獄したドリット氏が過去の事実の暴露に常時怯え、パーティ席上であろうことか監獄に居た時のような虚言をしゃべりだす場面。人間の哀しさをつくづく感じます。
本作品で好感の持てる人物は、監獄門番の息子
ジョン・チヴォリー。常に自らの墓碑を創作するところが愉快なのですが、誠実な青年で、エイミーやアーサーへの献身ぶりも男らしい。
なお、本作品の真の主人公は、エイミーやアーサーではなく、資本主義社会そのものだと言うべきでしょう。

  

12.

●「我らが共通の友」● ★★★
 
原題:“OUR MUTUAL FRIEND”




1864-5年発表

1997年01月
ちくま文庫
(上中下)

 

1995/03/05

 

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久々に読んだディケンズ作品なのですけれど、あぁ、こういう小説が読みたかったんだ、というのが第一に感じたこと。あとは、このストーリィから離れ難い思いで、ひたすら読みふけりました。
本作品の魅力は、人間の本質をとことん追求するような、スケールの大きい人間ドラマが展開されることにあります。とくに大きな主題となっているのは、“お金”。
塵芥処理業で築かれた莫大な遺産を相続しにアメリカから帰国した
ジョン・ハーマンが、テムズ川で死体となって発見されたことから、遺産は使用人だったボッフィン夫婦が引き継ぐことになります。
金によって人間はどう変わるのか、変わらないのか。生きていたジョン・ハーマンは、
ロークスミスと名を変えてボッフィンの秘書となり、遺言で結婚を指示されていた娘ベラ・ウィルファーの人間を見極めようとします。
ジョンとベラのラブ・ストーリィの一方で、テムズの川底を漁って生活している男(ジョン・ハーマンの死体を発見)の
娘リジー・ヘクサムと、弁護士ユージン・レイバーンのラブ・ストーリィが、テムズ川を舞台に展開します。こちらは社会的身分の差が大きな障害。
この2つのラブ・ストーリィを中心とする一方、側面において様々な人間の欲深い姿、等々が描かれています。利己主義者、根っからの悪党、詐欺師夫婦、貧しいけれど毅然とした老婆、不幸な環境に負けず健気に生きる人々。悪人と言っても決して一様ではありません。心の隅に人間らしさを残している人間もいます。そうした一通りではない人間の姿を生々しく描けるところが、社会の底辺を自ら経験したディケンズの、大作家たる所以でしょう。
この作品の素晴らしさは、圧巻とも言うべき場面が幾つもあること。そこでは、深い感動を覚えます。そして、
リジー・ヘクサムという女性像の素晴らしさが忘れられません。ベラも魅力的な娘なのですが、可憐で健気、献身的であって自立心のある女性として、リジー・ヘクサムの見事さはディケンズ作品の中でも群を抜いています。
ディケンズ作品としては、完成度の高い作品です。そして、現実社会における様々な人間の姿を描いたこの作品は、サスペンス小説以上にスリリングな興奮を呼び起こします。

 

13.

●「エドウィン・ドルードの謎」● ★☆


1869-70年未完

講談社刊
世界文学全集
(第29巻)

1988年05月
創元推理文庫


1979/11/12

ディケンズ最後の未完かつ推理小説、という作品。
当初、主人公の
エドウィン・ドルードの性格が不明瞭でパッとせず、その他の登場人物も(陰鬱なジャスパーを初めとして)個性が感じられないことから、 つまらないと思いました。

ところが、エドウィンの失踪後はローザの行動が明確になり、クリスパークル師や、ローザの後見人グルージャス、ターター等、如何にもディケンズらしい善良な人物達が活躍し始め、またダチェリーという謎の人物も登場し、面白くなってきます。
しかしながら、これから面白い展開が始まりそうだという段階で未完に終わってしまいました。誠に残念という他ありません。

 

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