ポール・サン・ブリス作品のページ


Paul Saint Bris 1983年生。パリ在住の映像作家、アートディレクター、小説家。フラソワ一世に呼び寄せられたレオナルド・ダ・ヴィンチが晩年を過ごしたフランス中西部の町アンボワーズにある<クロ・リュセ城>のオーナー一族に生まれ、フランスの歴史研究家で人気作家のゴンザーグ・サン・ブリスの甥。2023年刊行「モナ・リザのニスを剥ぐ」は、デビュー作ながらオランジュ文学賞やムーリス文学賞をはじめ、20を超える文学賞を受け、大きな注目を集める。

 


                

「モナ・リザのニスを剥ぐ」 ★★☆         
 
原題:"L'allegement des vernis"        訳:吉田洋之




2021年発表

2024年12月
新潮社

(2400円+税)



2025/01/23



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題名だけでもかなり刺激的。
なにしろ、世界にその名が轟く名画「モナ・リザ」の、その表面に塗られたニスを剥がす、というストーリーなのですから。
そう聞いただけでも、とんでもないこと、と言ってしまいそうです。

ルーヴル美術館の新館長であるダフネは、これまでのような学芸員ではなく、元渉外担当ディレクター。そのため最大の関心事は来館者数を増やし増収を図ること。
そのための有効策として絵画部門の責任者である
オレリアンに命じたのは、古くなった緑がかってしまった「モナ・リザ」のニスを剥がして本来の色にするという修復作業の実施。それにより世間の注目を集めよう、という魂胆。

本心では修復に反対のオレリアンですが、やむなく修復師探し。反対意見、プレッシャーによる辞退もあり、最終的に決まったのはイタリア人の伝説的修復師=
ガエタニ・カザーニ
そしていよいよ修復作業が開始されますが・・・。

多数の細かい章が積み重ねられて一つのストーリーを形作っていくところは、モザイク画を見るような面白さと、程良いリズムが感じられます。
それに歩調を合わせるかのように多数の人物が登場し、彼、彼女らのドラマも大小様々に語られていく展開は、修復作業に関わる人物の多さを示すかのようです。
そして最後は、スリリングどころか、心底怖くなってくる程。

修復作業における主人公はオレリアンですが、彼と対になるもう一人の主人公が
オメロ。モロッコ出身のシングルマザーが早くに死去し、家政夫、執事を経て、ルーヴル美術館の清掃員となる人物。彼のストーリーへの関わり方が独特で、極めて興味深い存在です。

いずれにせよ、絵画の在り方、絵画に関わる様々な人たちの人生模様、セックス模様まで描かれるうえに、名画についての記述もあって、絵画に興味ある方にとっては圧巻というべき作品になっています。 お薦め。

※私がルーヴル美術館で「モナ・リザ」の絵を観たのはもう45年も前ですが、その時はせいぜい4、5人が観ているという程度でしたね。

    



新潮クレスト・ブックス

   

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