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「アコーディオン弾きの息子」 ★★ 原題:"Soinujolearen Semea" 訳:金子奈美 |
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2020年05月
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5百頁を超える大部な一冊なので読もうかどうしようか迷ったのですが、「現代バスク語文学を代表する巨編」という案内文を無視することは出来ず、読むに至りました。 冒頭は米国カリフォルニア。1999年、ダビの死を聞いて友人のヨシェバが故郷からやってきます。 ダビの妻メアリー・アンがそのヨシェバに託したのは、タビがバスク語で書き遺した、故郷スペインのオババ村時代を中心に綴った回想録。 ただし、本作、結構凝った構成です。 冒頭はタビによる手記。そしてスペイン時代は、タビが遺した手記を基に作家であるヨシェバが書いた、もう一つの回想録。 そして本編の中には、タビ、そしてヨシェバそれぞれが書いた短編小説が入り込んでいます。 それでも、タビとヨシェバたちの物語が浮かび上がってくることに支障はありません。 スペインのバスク地方、オババ村。 タビの父親がプロのアコーディオン弾きだったことから、題名の息子とはタビのこと。 仲間たちとの少年時代~青年時代、そしてスペイン内乱時代、反政府組織に加わった時の出来事が綴られ、当時の社会情勢が描き出されます。 タビは何故、妻メアリー・アンが読めないバスク語で回想録を書いたのか。 そこには故郷オババへの想いと、故郷を捨ててアメリカに移り住んでしまったという負い目があったからではないかと思えます。 そしてそれは、文中に引用されるヘルマン・ヘッセの「なぜ、幸せになるために必要なすべては、私から遠く離れてあるのだろう?」という文章とシンクロします。 バスク人、バスク地方という背景があるからこそ、本作の重みを感じる次第。 言葉の死と生/始まり/名前(リズ、サラ フアン メアリー・アン ルビスとほかの友人たち) 内部の献辞/炭のかけら(オババで最初のアメリカ帰りの男 殺し屋ピルポとチャンベルライン)/木の燃えかす(蝶のトランプ)/八月の日々(バスク解放運動とトシロー 三つの告白) |