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●「祖母の手帖」● ★★☆ |
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2012年11月
2012/12/26
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主人公である「私」の祖母はサルデーニャ島に生まれ、両親に強制されて祖父と愛のない結婚をする。 その祖父も、空襲で妻子を失い、世話になった祖母の両親に対し義理を果たすといった風であった。その結果として2人の結婚生活がどんなものであったかというと、ひとつのベッドで離れて眠り、お互いに何度もベッドから転落するという具合。 しかしある日、売春宿好きな祖父に対し祖母は一つの宣言を行います。売春宿の女たちに金を使ってはいけない、その代わりに自分が売春宿プレイをすると。 その祖母には腎臓結石という持病があり、何度も流産をする。そのため本土の温泉へ治療に行かされた祖母は、そこで“帰還兵”との運命的な激しい恋をします。その9ヶ月後に生まれたのが、私の父だった、という。 主人公の祖母とはどんな女性だったのか。両親や周囲からは、男に媚を売って恥とも思わない狂女と見做されていたようですが、読者には判ります。彼女はただ情熱的な愛を求めていたに過ぎないのだと。 情熱的な愛を求める一方で、合理的な思考の元に売春宿プレイも行う女性、その不可思議さに思わず引き込まれてしまいます。 ゲーテ「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の中に「美しき魂の告白」と題される一篇がありますが、それと対比して本作品には“情熱的な愛を求めた魂の告白”とでも言いたい内容があります。 主人公は結婚を機に亡き祖母のアパートに引っ越すことになりますが、その準備中に偶然、祖母が隠し遺していた一冊の手帖を発見します。その手帖にはどんな真実が記されていたのか・・・。 僅か 140頁と短い長篇作ですが、その簡潔な文章の中に篭められた真実がひしひしと伝わってきて小気味良く、そして心洗われるような気さえします。 原題は「石の痛み」。何かを生み出すために必要な痛みを比喩しているようで、印象的な題名です。 祖母の想いは、その祖母を愛した孫娘へと、その手帖をもってきっと受け継がれたのに違いない。そんなメッセージ性を持つ美しい作品。お薦めです。 |