インドの起業家にして思想家と名乗る“ホワイト・タイガー”ことバルラム・ハルワイから、インド訪問を控えた中国の温家宝首相に宛てた7日間にわたる書簡、という形式をとった小説。
ラジオ報道によると、温家宝首相はインドの起業家にあってその成功物語を聞きたいと要望しているらしい。
ならば教えて差し上げよう、主人を殺すことを手始めに、如何にしてこの自分が起業家として成功するに至ったかを、というストーリィ。
中国の首相へ語るという設定が巧妙です。いみじくも共に目覚しい発展を遂げた中国とインドという両大国を比較しつつ読むことになるのですから。
映画「スラムドッグ$ミリオネア」は、インドのスラム街育ちの少年の苛酷な運命を描いて観客の目を瞠らせましたが、ある意味で本書ストーリィはそれ以上。
何故ならば、インド社会の貧富の格差が如何に究極的なものか、それを越えることが如何に困難なものであるかが、赤裸々に語られているからです。
学才を認められ奨学金が与えられるチャンスを手中にしたというのに、姉の嫁入り資金調達のためという理由で学業を中断させられ働きに出される。長じて運良く金持ちの運転手となることができたとしても、稼ぎの殆どを実家に送金するのが当然の義務であると祖母から執拗に要求される。これでは一生、現在のカーストから抜け出ることなんかできやしない、と言わんばかり。
インドにおける身分格差は、もはや民族における伝統的なものであり、主人公曰く、下層の人間には根っからの奴隷根性が染み付いている。稀にそこから脱するチャンスをつかんだとしても、今度は家族が絡みついてそれを妨げる、といった具合に。
家族がどうなろうと一切意に介さず、手を汚し罪を犯すことなど構わず、それでこそ起業家として成功する秘訣、と言ってはばかりない主人公の言は、インド社会の闇の深刻さをストレートに物語っています。
本書は、インド社会における闇の部分、その原因を、切り裂いて見せるが如くして露わにした作品。スリリングでサスペンスティック、笑いもあるけれどそれはブラックユーモア、それでいて社会派小説。
インドとはどんな社会なのか。その実像を知るのに、本書は格好の案内書です。お薦め。
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