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5 月××日

1 日目 【晴れ】

 12 時 30 分、西沢渓谷の駐車場に到着し、弁当を食べる。ゆっくりと食べるように心がける。西沢渓谷に向かう人、帰ってきた人が大勢いる。今日も荷造りが済んでいないので、準備に時間がかかり、14 時 50 分になって出発。アイゼンは持たないが、水を 3.5 リットル持ったのでかなり重い。平坦な道を登山道の入り口まで歩くが、それだけで汗が噴き出している。15 時 13 分に登山道の入り口に到着し、少し入った所で休憩。ここまで来れば西沢渓谷に行く観光客がいないので静かだ。10 分ほど休憩して登り始める。樹林帯だが左側に深い谷が見える。所々にワイヤーや鉄骨があり、軌道電車のレールと判明したが、それ程歩きにくくはない。3カ所ほど崖崩れでレールごと無くなっている所があり、細く作られたまき道を注意深く渡る。きれいな水がたくさん流れている大きな川を渡るが、それはヌク沢だった。その後、急に登りがきつくなり、汗が噴き出すようになった。たまりかねて 16 時 30 分に急坂の途中で休憩する。汗で頭から腰までずぶぬれになっている。“汗滝病”と命名し、機会があったら発表でもしようか。

 今回から導入したストックは良い感じで、手も汚れない。すごい急坂が続くが、“苦しく登るのはやめよう”と自分に言い聞かせ、ペースダウンして、でも止まらないようにする。17 時 41 分に笹林の中で大休止。ずっと急坂が続いている。“汗滝病”は背中にひどく、ぐしょぐしょだ。甲武信岳小屋まで水場が無いが、5 リットル位飲みたい。2 時間半も目標物がないのは心許なく、明るいうちに目標の 1,869 m 地点に着けるか心配である。左膝の痛みはまだない。チョコバーを 1 本食べたりして 20 分近く休んだ。

 歩き出すとまた急坂で、上を見上げては立ち止まり、またゆるゆると登る。完投できるとはとても思えない。18 時 34 分にやっと目標の 1,869 m 地点に到着。ここまでヌク沢を通らずに来れるという看板があるが、地図を見てみるとかなりの急坂のようだ。テントを張れる場所まで登らねばならないが、「どうしようか」と困ってしまう。少し暗くなり、風が冷たいのでフリースを着ることにする。20 分近く休んでしまった。歩き出すと、腰ほどの高さにある木の根に靴を乗せ、「よっこらしょっ」という感じだ。フリースは厚手なのですぐに汗が吹き出てくる。ヘッドランプを点灯し、テントを張れる場所を探すが、傾斜地ばかりで具合が悪い。19 時 45 分になってテントが一張りできる場所が見つかり幕営地とした。見晴らしはなく、樹林帯の登山道添いだが、もう誰も通らないだろう。

 テントに入って横になり、ラジオを出して巨人戦を探す。巨人が負けたら下山しようかと思っていたが、やっていない!。ガッカリして夕食の準備を始める。ワンクィックライスを作り、レトルトカレーを温める。スープも作ったが食欲がない。しかもライスを炊く水をケチったせいか、一部に硬い飯粒が残っている。ガソリンバーナーは弱火にできないのが致命的な欠点と思う。シュラフにもぐって外を見るとほぼ満月で明るく、そのためか星はあまり見えない。携帯電話も通じず、GPS も人工衛星をキャッチできない。21 時 15 分に就寝。マットのない膝下が冷たかったが、膝は冷やした方が良いと思ってそのまま寝た。

2 日目【晴れ】

 4 時 15 分に起床。烏竜茶を飲み、飴を舐めながら荷造りを始める。テントやシュラフは重いので置いていく。ここはベースキャンプというわけだ。食欲がないのでスポーツマンバーを食べながら歩くことにし、5時に出発。急な登りからすぐに神秘的な樹林帯となり、屋久島の写真のようだ。倒木がやたらに多く、自然に倒れたものと切り倒したものがある。傾斜が急なため、立ち木に倒木が引っかかっている感じだ。場所によって倒木を跨いだり、くぐったり、迂回したりした。 5 時 54 分に見晴らしの良い場所に出たので休憩。昨日はずっと樹林帯の中で GPS が使えなかったが、やっと人工衛星を捕らえることができた。携帯電話は電波マークが表示されても、かけると圏外になってしまう。諦めて歩き出すとまた樹林帯に入ってしまった。足元に薄い氷が見え始め、次第に雪も多くなる。時には靴が潜ってしまうほどだ。滑って困るほどではないが、これを溶かせば水は作れそうだ。 6 時 42 分に T 字の分岐点を左に曲がると、10 分程で山頂らしきところに到着。地図で見たときには気付かなかったが、立派なピークを形成する標高 2,469 m の木賊山(とくさやま)だ。展望は全くないが、三等三角点やベンチもある。さっそく GPS に登録。後で地図で確認してみるつもりだ。諦めていた携帯電話だが、家にかけたら通じた。

 7 時に歩き始めるが、下るのが恐いくらいの急な下りとなり、登り返しを考えて憂鬱になる。そのうち「バウッ、バウッ」と犬の吠える声が響いてきた。15 分で甲武信小屋に到着。アルプスの少女ハイジに出てきたような大きな犬が跳ねていて、若いカップルと暗い感じの浪人生が出発の準備をしている。水場を聞くと小屋で 2 リットル 50 円で売ってくれると言う。小屋に入り、髭を蓄えた主人に水を汲んでもらった。感じの良い主人で、小屋の前で自分の写真を撮ってもらった。ニコンの F90Xs は「僕のと同じだよ」と言っていたが、小屋を後にしてからもっとゆっくり話をしてくれば良かったと後悔した。7 時 30 分に甲武信岳に向かって登り始めるが、いきなり方角を間違え、小屋の裏を回って行けと教えられる。急な登りだが整備されていて登りやすい。登山道が整備されているとこれほど登りやすいものかと感心する。あの小屋の主人が整備したのだろう。カップルよりも先に登り始めるが、中間くらいで抜かれる。ペースが全く違い、比較にならない。小屋から山頂まで自分が 16 分、彼らは 14 分位だ。体力の差は明らかだ。携帯電話で家に登頂報告をし、妻に地図を見るように言ったのだが判ってないようだ。自宅には登山計画書として地図のコピーを赤線でなぞった物が置いてある。

 8 時 12 分に下山開始。10 分程で小屋を通過する。さっきの犬はなぜか吠えていない。木賊山への登り返しをさけてまき道を行く。アイゼンの踏み跡があり、雲取山登山を思い出す。今回の雪道は気温も高く、凍ってないのでアイゼンは不要だ。変わった人がいるもので、雪がなくなってもアイゼンの後がずっと続いた。木賊山の方に少しだけ登り、8 時 50 分に先ほど通った戸渡尾根への分岐点に到着した。いよいよここから 2 時間半の下りが 2 本だが、途中でテントと荷物も撤収しなければならない。小屋でもらった水がとても美味しいので 1 リットルは飲まずに持って帰ろうと決めた。倒木の多い樹林帯をストックの突き方を工夫しながら下るが、スプリングがカチャカチャと音を出すのが耳障りだ。

 9 時 42 分にベースキャンプに到着。休憩しながらの荷造りはすぐに終わったが、汗を大量に吸ったフリースはとても重い。薄手の長袖があれば良かったが、ウエアーを買うのは面倒くさいので苦手だ。35 分間も休憩した後、いよいよ下りにかかる。左膝が心配だし、バテもきている。また別の 5〜6 人の学生パーティーとすれ違うが、テント持参で頼もしい。軽装の中年パーティーともすれ違った。20 分程で早くも休憩。左膝が痛くなってきた。整形外科医になった同級生に教えてもらったストレッチを繰り返す。もう少しで 1,869 m 地点のはずだ。頑張って歩き出すと 2 分で到着したのでまた休憩!。

 靴紐を締めなおして、どちらから降りるか検討する。右側のヌク沢を通らない道で下ることにし、10 時 55 分に歩き出す。気温が高くなっているためか“汗滝病”が再発している。水もがぶ飲み状態だが飲めばザックが軽くなる!?。展望が良いと書いてあったが、両側は林で全く展望がない。滑って落ちていってしまいそうな凄い下りで足がいっぱいだ。「ザックを投げ落として後で拾うというのはどうだろうか?」、と真面目に考えてしまった。左膝はストレッチをするといくらか良い。ストックを突きながら頑張って歩き、休憩中のカップルを抜く。アイゼンを着けていた若者と思われるが、彼女は手ぶらで楽そうだ。しかし、自分は人を抜いている場合ではなく、倒れてしまいそうだ。登りもそうだったが目印がないのであとどのくらいなのか見当がつかない。尾根伝いの道なのだが、両側とも果てしなく下の方まで林が続いている。何組かの登山者とすれ違うが、彼らは凄い登りに閉口し、挨拶も小声である。何とかザックを置かずに歩き続けていると、左手のずーっと下の方に白いものが見えた。良く目を凝らしてみるとそれは道路のようで、かなり距離があるが何とかなりそうだ。少し進むと前方が開けて明るくなった。

 12 時 45 分、とうとう麓の西沢山荘に到着。水はきっちり 1 リットル残している。観光客用の自動販売機があったので、いきなりコーラ、ファンタグレープ、コーラと立て続けに買って飲んでしまった。休憩の後、季節外れの猛暑の中、平坦な道路を駐車場に向かって歩く。西沢渓谷に向かう人、帰る人がぞろぞろと歩いている中を淡々とゆっくり歩く。13 時 35 分にデリスペくんに到着し、着替えもせずに乗り込んだ。下りはきついということを痛感させられた山行だった。

( 甲武信岳= 2,475.0 m 、木賊山= 2,469.0 m )


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