STEP 205 強者どもが夢のあと(その1)
GT十週連続スタート! イーグル、ファイナルシーズンへ!!
セントライト記念――ちゅどーん!、毎日王冠――ぼむ!、京都新聞杯――平穏、デイリー杯3歳ステークス――無事……。
そして、GT十週連続のシーズンが始まった。
秋華賞――泰平ー。
この時期、例年なら渡会牧場はもっとも物騒になるが今年は違っていた。荒れ模様のレースが多く、十五倍を超える配当が何度も付いた。
放牧場の柵を背にして梅ちゃんが札束を数えていると、マユゲの濃い青年従業員が通りかかって冷やかした。
「梅さん、今年は迫力足らないんじゃない? いつもみたいに『ちゅどーん』てやってよ」
「なに言われても気にならへんよ。今のぼくは何でも許せる気分や」
マエガミの長い青年や紅一点のみっちゃんも寄ってきた。マユゲがふたりに話しかけた。
「そういえば、前にも梅さんが馬券当て続けたことがあったなー」
「そうそう、あのときは、イーグルが出走すらできなくてー」と、マエガミくん。
「おまけにー」と、みっちゃんが言いかけたところで、
「やめいっ!」と梅ちゃん。何でも許せるのではなかったのか?
四人が盛り上がっているところへ駿平とひびきがやって来た。ふと、梅ちゃんが思いだしたように言った。
「せや、さっき事務所で奥さんが話してるのを聞いたんやけど、今度の天皇賞、イーグルにはまた弓削が乗るらしいで」
やったー、とばかり集まっていた従業員は、諸手をあげて喜んだ。
「これでイーグルの馬券は真っ先に切れる……」そう言い終わらないうちに、梅ちゃんは周りから踏みつけにされていた。
「やったね、ひびきさん! イーグル、引退前にもうひとつGTの勲章が取れるかも知れないね!」
駿平はひびきの右手を両手でつかんで話しかけた。
「そんなこと走ってみなきゃわかんないべさ」
ひびきはそういいながら駿平の手に自分の左手を添えて、付け加えた。
「でも、弓削はイーグルを知っているから期待してもいいかもね」
イーグル――ストライクイーグルは、駿平が渡会牧場にやって来た初日に、初めてテレビで観た競走馬だ。スタートで出遅れたものの、ものすごい勢いで追い上げて最後の百メートルで先頭に立ち、そのまま一着となった。その迫力に心を奪われた瞬間、駿平の運命は決まったのかも知れない。
今、隣にいるひびきと出会ったのも、ちょうど同じ日だった。最初は不愛想な少女だったが、一緒になってストライクイーグルの勝敗に一喜一憂しながら、今ではいつでもそばにいる大切な人となった。
そのストライクイーグルも今年で七歳、年が明ければ八歳になる。競走馬としての盛りは過ぎようとしていた。天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念――この三レースを走り終わってストライクイーグルは、競馬場に別れを告げることになっている。
引退後のイーグルは種牡馬として生活することになるが競走馬としては「むらっ気」のある馬だからどのくらい引き合いがあるかは、わからない。
駿平は、「『引退』と言ったって、種牡馬として活躍するんだったら『現役』じゃないか。それにちょっと羨ましい」と、不謹慎なことを思うのだった。
「弓削、イーグル騎乗決定」のニュースに沸く従業員たちの様子を、制服姿のたづなが遠くから見ていた。たづなの瞳には手を取り合って喜ぶ駿平とひびきの姿が映っていた。
■イーグルに弓削騎乗が決定!! 期待が膨らむ。しかし、ツキまくる梅ちゃんがなんだか不気味!?
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