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「お姉ちゃん、本当は知っているんでしょ?」
ダイニングでお茶を飲みながら、たづながあぶみに訊いた。たづなの目の前には夏休みの宿題が広げてある。ひづめは宿題が済んでいるのかいないのか、友だちの家へ遊びに行っていた。もうすぐ新学期が始まる。
引き戸を隔てたリビングルームから、駿平の声が聞こえていた。
「仕事を放ったらかして東京に帰っちゃったことは謝ります! もう一度働かせてください!!」
――甘い父・健吾と厳しい母・千草。ふたりはどこまで「知って」いるのだろう――あぶみはそんなことを考えながら隣室でのやりとりを聞いていた。
「あの日、ひびきちゃん、東京に行っていたんでしょ?」
たづなは重ねて問い掛けた。あぶみは「知って」いた。駿平がひびきに告白したものの、ひびきの対応を誤解し、いたたまれなくなって飛び出したこと。そして、今、目の前で詰問しているたづなは駿平のことが好きだということ。
しかし、「知って」いるからといって、それを話していいはずはない。ひびきや駿平にとって、他の人に知られたくない出来事であろうことは想像できた。
かといって、全てを隠すこともできなかった。たづなが駿平を想っているのなら、何が起きたのか知りたがるのは当然だった。
「ひびきちゃんはね、駿平くんを迎えに行っていたのよ」
「えー、なんで!? あいつなら、電話で『戻ってこないとヒコが処分される』って言えば、飛んで帰って来るっしょー!! それを、なんでわざわざ飯能くんだりまで迎えに行かなきゃいけないのよ」
「『くんだり』ってことはないでしょ。一応、東京なんだから……」
「飯能って埼玉県じゃない。それに、きっと東京から一時間半以上はかかるわ。そんなことくらい、地図見りゃすぐわかるわよ。」
――やれやれ、こんな頭のいい子がライバルじゃ、ひびきちゃんも大変ね――あぶみは内心ひびきに同情していた。
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