また一つ、年を取る。
 そうして、どんどん大人へと近付いて行く。
 そう考えると、やっぱり何処か悲しいと感じてしまう自分が居る。
 昔は、あんなに早く大人になりたいと思っていたのに、今はそう思えない。
 見えない未来に、不安ばかりが大きくなる。


「星馬?」

 突然名前を呼ばれて顔を上げた。
 目の前には、自分の事を心配そうに見つめているがいる。

「調子悪いのか?」

 心配そうに尋ねてくるに、僕は首を振って返事を返す。

「そっか……新学期始まって直ぐだからな。ボーっとしたい気持ちも分かるんだが、仕事はしっかりしてくれよ、会長」

「うん、そうだね……」

 3年と言う最上級生になった自分達、新学期早々の大仕事である入学式も無事に終わったと言っても、新学期の今は何かと行事が多く、仕事が山積み状態となっている。
 明後日は、自分の誕生日だというのに、のんびりとしている場合じゃなくって、土日だろうと仕事の為に学校に来なければいけない状態。
 春休みも、何度も入学式の準備で借り出されていたというのに、生徒会の仕事は何時もながら雑用係でしかない。

「ああ、明後日は、誕生日だったな。今年は、生徒会のメンバーで祝ってやるから、楽しみにしとけ」

 仕事に取り掛かった僕に、が思い出したというように僕に笑顔を見せる。

「それじゃ、今年は猫被り状態で僕の誕生日を祝ってくれる訳だ」

「そっくりその言葉返すぜ。まぁ、大量に菓子を作っても、去年みたいな事にはなんねぇだろうから安心してくれ」

 クスクスと笑いながら言えば、その言葉を返されてしまった。

 確かに、僕もみんなの前では猫被っているから、人の事言えないけどね。
 それに、去年の事を思い出すと、確かに笑えないかも……。
 大量に作られた数々のお菓子。それを、僕達は4人で片付けた。
 いや、正確には、片付けられなくって、お持ち帰りしたぐらいだ。母さんが喜んで食べていたのは、まぁ良かったかもしれないけど、あれから暫くは、ケーキ類は食べられなかったのが正直な感想。
 の作ったお菓子は美味しいから、そこまでひどくはなかったって事だけが、救いかも……。

「なら、残念だけど、『夜』達は参加出来ないって事だね」

「だな……まぁ、あいつ等はそれで納得するだろう。『夜』用にお持ち帰り分作ってやるから、安心しろって!」

 にっこりと笑顔で言われた言葉に、思わず笑顔で返してしまう。
 本当に、こう言う所がらしいと言うか、尊敬出来るところ。

「んじゃ、今日もサクサク仕事終わらせるぜ。他のメンバー帰しちまったのは俺だけど、俺等だけの方が、気が楽だつーのが正直な所だ。んで、気が楽だっても、仕事しねぇ訳にはいかないから、頑張れ星馬」

「……、人の事言えるの?」

「おう、言えるぜ。俺の仕事は、後これだけだからな。これが終わったら、紅茶でも入れてやるよ」

 僕の言葉で見せられた書類は、多分なら5分も掛からないような量。
 本当に、何時もながら仕事が速い。そこも、尊敬出来るところだね、本当に。

「了解、これは僕の仕事だから、頑張るよ」

「頑張ってください、会長様」

 からかうように言われた言葉に、僕は苦笑を零して、意識を書類へと向けた。
 先程まで考えていた事が、すっかりと頭から離れている。
 本当、と話していると、下らない事を考えているのが、馬鹿馬鹿しくなって来るから不思議だ。
 そんな事を考えるよりも、今を精一杯頑張るのが、一番だと言われた気分。そんな事、一言も言われてないのに……。