「って事で、無事に入学式も乗り越えられた事に、乾杯かな?」

 目の前に並ぶケーキやクッキーなどのお菓子を前に、少し戸惑いながらも言われた言葉。
 本当に、何時もながらその演技には舌を巻く。

「あら?今日は、会長の誕生日を祝うんじゃなかったのかしら?」

 の言葉に、女子副会長が不思議そうに首を傾げた。

「そうですね、会長の誕生日に、副会長がこんなにも沢山のお菓子を作ってくるんだから、すごいですよね」

 興奮気味に言われた言葉に、思わず苦笑。
 本当、今回も大量に持って来られたお菓子を前に、僕は複雑な気持ちを隠せない。
 これだけの量を作るのも大変だろうけど、ここに持って来るのだって大変だと思うんだけど……。

「私、今期の生徒会に入れて、本当に嬉しかったです。だって、副会長のお菓子って、その辺で売っているのより美味しいからvv」

 そして続けて言われた女子書記の言葉に、もう一度苦笑。
 否定できないけど、そんな理由で喜ばれるのも……。

「そうね、私もその意見には賛成。それに、この二人がほとんど仕事してくれたから、かなり楽だったわ」

 女子副会長も同意。
 そうだね、僕も実際にが居てくれてかなり楽をさせてもらったって言うのが本音。
 だって、は先回りして仕事を片付けてくれるから……。

「って、まだ今期は終了してないんだけど……」

 言われる言葉は、まるで最後のお疲れ会状態。そんな状態に、が苦笑する。

「でも、後もう少しで、ボク達も受験や就職活動に忙しくなってくる。だから、それまでは、しっかりと君達を教育しなきゃいけないんだよね」

「って、やっぱり、俺達が次の生徒会メンバー決定なんですか?」

 にっこりと笑顔で言われたの言葉に、今年2年生になったメンバー全員が質問してくる。

「この学校は、珍しく生徒ではなく先生が生徒会メンバーを決定するからね。多分、君達が選ばれるのは予想される事だよ」

 それに、今度は僕が口を開いた。
 本当に、この学校の変わったシステム。
 普通は、生徒の中で生徒会メンバーが決められるのに、この学校では人気やテストの順位で生徒会メンバーが決められるのだ。
 勿論、指名されたら半強制なのでよっぽどな理由がない限り辞退は許されない。

「普通は、目立ちたがりやが喜んでやってくれそうなのに、この学校のそのシステムだけは、困ったものだわ。そのお陰で成績が下がってしまうかもしれないって、心配だったのよね」

 女子副会長がため息をつきながら、の作ったケーキを食べる。
 本当にね。普通の生徒なら、勉強が遅れてしまうだろう。だが現実は、自分の能力を買われているのだから、その期待を裏切らないためにも、嫌でも成績が上がる。
 生徒の向上心を煽る為のシステムかもしれない。

「先輩達はいいかもしれませんけど、俺達は、そんなに頭良くないんですよ!!」

 副会長の言葉に、会計の男子が声を上げる。
 まぁ、今回は僕達3年が何かと下級生の面倒を見ていたのは否定しない。そのお陰で、彼等は成績を下げるどころか、上げているのが事実だ。
 その事実があるからこそ、彼等の心配はもっともだろう。

「大丈夫だよ。実は、今年は辞退してるんだけど、毎年生徒会に選ばれたメンバーのみ、顧問が勉強会を開いてくれるって言うシステムがあるんだ」

「って、くん、僕もそのシステム初めて聞いたんだけど……」

 そんな彼等に、にっこりと言葉を継げたに、僕は引き攣った笑顔を浮かべてしまった。
 だって、そんな話会長の僕でさえも、一度も聞いた事がないよ!

「あれ?ボク、星馬くんに話していたと思うけど……知っていたから、勉強会を進んでしてくれたのかと……」

 なんて、とぼけた顔で言ってくれるに、僕はこっそりとため息をつく。
 まぁ、知っていたとしても、辞退していたのは同じ。
 だって、そんなに先生なんかと一緒に勉強しても、僕達は変わらないから……。

「そうだったの?でも、私達には、先生よりも、頼りになる副会長と会長が居てくれたから、助かったわね。私も、あなた達と一緒に勉強した方が、成績向上したもの」

 女子副会長も知らなかったのだろう。の言葉に驚いているが、それでも断っていた事に何も文句がないようだ。
 本当に、そう言う所は、が居てくれて助かっている。
 実際僕も、と勉強する方が、結果的に良かったと言えるのだから……。

、分かっていて、わざと僕に話さなかったんだろう?』

『さぁな……』

 こっそりと問い掛けた言葉に、ふっと笑顔を見せて、自分で入れた紅茶を飲む。
 本当に、そんな所がすごいと思うんだから、僕としてもかなりに毒されてきているかも……。

「ところで、今日は会長の誕生日なんですよね。それじゃ、今更何ですけど……」

「誕生日、おめでとうございます!!」

 考えた事に小さくため息をついた瞬間、言われた言葉に思わず驚いて顔を上げる。
 ああ、そう言えば、今日は僕の誕生日で、このお菓子は僕の為にが作ってくれたモノなんだっけ……。

「あ、有難う……」

「うん、星馬くん、誕生日おめでとう」

 にっこりと笑顔で言われる言葉に、もう一度小さくお礼の言葉。
 

 今日、また一つ年を取った。
 一歩一歩、また大人へと近付いている。
 だけど、今日この日を迎えられた事に、心から感謝しよう。

 今、親友と呼べる相手を手に入れた。
 だからこそ、感謝しよう。
 今日、君に祝ってもらった事を……。