「金と紺のオッドアイ……」

 『昼』と呼ばれる猫の場所へと案内してもらっている中、星馬がポツリと呟いたその言葉に、苦笑を零す。
 今までは、暗くて、俺の瞳の色なんて分からなかったのだろう。公園に設置されている街灯で、初めて見た瞳の色に、ポツリと呟かれたのは、誰もが最初に目を引かれるもの。
 左は、紺色。そして、右目は、金色。普通の人間には、そう居えるとも思えない瞳の色。
 そして、この金色の瞳には、特殊な力まで備わっているのだ。

「ああ、これ?コンタクトじゃねぇぜ。ちゃんと物ホン」

「そうだろうね。コンタクトじゃ、そんな色出無いだろうし……不思議な色だね」

 じっと俺の瞳を見詰めてくる星馬の赤い瞳だって、十分不思議な色だと思うぞ。

「あんまりじっと見ない方がいいぜ。この瞳は、相手を従わせる事が出来るからな」

 真っ直ぐに見詰めて来る星馬に苦笑を零しながらも、冗談交じりにそう言えば、少し驚いたような表情を見せる。それでも、真っ直ぐに俺の瞳を見詰めてくるのは、負けず嫌いなのか、それとも、信じていないのか…。
 多分、後者だろうな。

「信じてないだろう?けど、本当の事だぜ。もっとも、意識しなきゃ出来ないけどな」

 ニッコリと笑顔で言えば、星馬が複雑な表情を見せた。
 相手を自分の意志で、逆らえないようにする事など、この瞳を持ってすれば、簡単な事。
 この瞳があるから、俺は、この仕事を簡単にこなしていると言ってもいい。
 人間だろうが、動物だろうが誰をも従わせることの出来るこの瞳。それは、人間外のモノにも、効果は絶大。
 『夜』が、何の疑問も持たずに、俺の言葉に素直に頷いたのが、いい例だ。もっとも、従わせるつもりは、無かったんだけどな、無意識に、力を使っていたのかも……。

「この瞳は、『魅惑の瞳』って言われている。誰をも、この瞳で従わせる事が出来るんだ。もっとも、面倒だから、あんまり使いたくねぇんだけどな」

「……面倒臭がりなんだなぁ……」

 ボソッと、星馬弟が呟いた事に、笑顔を見せる。本当の事だから、怒る必要はない。

「まぁ、誰かを従せるなんて、簡単にやっちまう訳には、いかねぇからな」

 これが、本音。誰かを簡単に従わせるなんて、本当はしたくは無い。
 もっとも、従わせた相手は、自分の意志だと思うみたいだけどな。

『……『昼』に、その瞳を使うのか?』

 俺の説明に、心配そうな『夜』の声が聞えて、俺は一瞬考えるような素振りを見せた。

「ん〜っ、出来れば、使いたくねぇなぁ。でも、『昼』は、多分簡単に俺に捕まってはくれねぇだろうから、使っちまってもいいか?」

 あくまでも、『夜』へと答えを委ねる。俺としては、使えば簡単に終るから、楽はしたいのが本音。
 だが、『使って欲しくない』と言われれば、その言葉に、従おう。人任せだと言われても、これが、多分『昼』にとってもいい選択だと思うから、答えを『夜』に、託す。

『……『昼』を、傷付けずにすむのなら……』

 ポツリと呟かれた答えに、俺は優しく微笑んで、その頭を少し乱暴に撫でた。

「了解、絶対に傷付けない。約束するな……と、ここまででいいぜ。『夜』のお陰で、『昼』の気配が読めた」

「分かるの?」

「ああ、あそこの祠に居るんだろう?えっと、あんたは、ここから一刻も早く離れな。『夜』が居たとしても、巻き込まれちまうぜ」

 星馬を指差してそう言えば、少しだけ驚いたような表情を見せる。
 いや、だて、さっきそんな会話していただろう。それに、俺みたいに小さい頃から修行させられているのならまだしも、霊感が強いだけの奴だと、命にまで関わる危険があるんだぞ。もっとも、そんなに弱そうには、見えないけどな。
 だが、例え、慣れている奴だとしても、普通の相手を危険だと分かっている場所に居させる訳には、いかないだろう。

「心配すんなって。俺は、約束は守るぜ。なんなら、この公園の入り口で、『夜』に結界でも張ってもらって、待っていろよ。『昼』を連れて行ってやるから」

「『夜』、お前、結界なんて、張れるのか?」

 にっと、笑顔を見せながら伝えたそれに、以外な言葉が返される。
 おいおい、知らなかったのか?その手の奴なら、大体そう言うことが出来るんだぜ。
 感心したように問い掛けられた星馬弟の言葉に、俺は呆れたように心の中で突っ込みを入れる。星馬も、知らなかったらしく、意外そうな表情をしていた。
 お前、『夜』の主人として、それで、いいのか……。

「なんにしてもだ!この場所から離れろ、『夜』、悪いが、後は頼むぞ。お前は、お前の主人をちゃんと守れ」

『……不本意だけど、その言葉、聞いてやるよ』

 俺の言葉に返されたそれは、不機嫌そうに呟かれた。って、やる気満々の癖して、素直じゃないぞ。
 見た目は、こんなに可愛い猫なのに、性格は、なかなか俺好み。うん、素直なのも、可愛いけど、やっぱり捻くれている方が、好きだな。その方が、可愛いし。って、これは、俺の好みの問題か……。
 俺の言葉に従って、星馬達が離れていくのを、そんな事を考えながら見送って、盛大なため息をつく。

「さて、と……まずは、ご挨拶に伺ってみるか」

 そして、その姿が見えなくなったのを確認してから、『昼』が居るであろう祠に向き直る。

「妖魔のくせに、祠に身を隠すなんて、なかなかいい性格しているようだ。なら、俺とも気が合いそうだな」


 さて、戦闘開始だな。