こそこそするのは、趣味じゃない。
 人を騙すのは好きだが、こう言うことで騙すのは、やっぱり俺の趣味じゃないな。

「って、事は、正面から挨拶するか」

 祠へ向けて足取り軽く近付いていく。
 これで、俺の休日確保。休みに、温泉に行けるの決定だから、気分もいい。

「んな訳だから、『昼』さん、『昼』さん、緑人さんがお呼びです。至急祠から出てきましょう。繰り返しま……」

『煩い!そんな馬鹿みたいな声で、人の名前を連呼するな!!!』

 おや、繰り返し言ってないのに、簡単に出て来てくれたよ。ラッキーvv
 祠から出てきたのは、『夜』とは全く対照的な、真っ白な猫。うん、俺の探している奴に、間違い無しだな。

「煩いって、まだそんなに騒じゃいねぇよ。なんにしても、お前が出て来てくれれば、話は早い。なぁ、俺の所に来る気は、ないか?」

『……オレが、人間なんかに従うと思うのか?』

 俺の質問に、威嚇態度そのままに、聞き返される。
 まぁ、思うわけ無いよな、普通。しかも、そんな攻撃する気満々の態度見れば、『一目瞭然』だな……。

「う〜ん、出来れば、素直に従って欲しかったんだけど……。疲れるから、あんまりしたくなかったんだけど、遣わさせ貰うぜ」

『……お前、どうしてこの場所が分かったんだ?あいつ等が、お前に教えたのか?』

 って、今更それを聞いてどうするんだ!お前、人が珍しくも、やる気モード出しているって言うのに、水を注すな水を!!

「お前の事は、『夜』から頼まれた。だから、素直に従ってくれ。傷付けないって、約束したんでな」

『そうか……あいつは、そこまで、人間の味方をしてるんだ………』

 おや?何か、悲しそうに見えるのは、俺の気の所為か?
 『夜』の話からいくと、こいつ等って、兄弟なんだろうし、そりゃ、兄弟に売られちまったら、傷付いても仕方ないか……。
 まずい事、話したかも……。

「でもなぁ、お前、少し悪戯が過ぎたんだよ。俺が、動いているのが、いい証拠。だから、誰かに消されるよりか、俺みたいに、信頼できる奴に、お前を託したかったって言うのが、あいつの考えだと思うぜ」

 ニッと笑顔を見せながら言えば、少しだけ驚いたような表情で『昼』が俺を見上げてくる。
 うん、自分で、信頼できるなんて言う奴は、俺ぐらいだろうけど、間違いは言ってないから、問題無いよな。

『消される?』

「そう、俺みたいな払い屋に、命狙われるって事。でも、俺の使役になれば、そんな心配ないしな。あっ!勿論、食料にも困らないはずだぜ」

『なっ?!』

 そう言って、俺は自分の気を開放する。
 おびき寄せる為に分散させるんじゃなく、『昼』に俺の気を見せるために、集めるように気を流す。そして、手のひらに、自分の気を集めた。

「取り合えず、お近付きのしるしだ」

『……極上の、精気……あいつと同じ…それ以上の……』

「お前が言う、あいつって、星馬の事か?まぁ、確かにあいつより俺は、みっちりと修行させられている身だから、同じじゃ不味いだろう。確かに、あいつの気は、俺と同じみたいだったけどな」

『お前、あいつの事、知っているのか?』

「知っているさ。同じ学校のクラスメイトな上に、あいつは生徒会長で、俺は副会長なんて、やってるんだからな。もっとも、あっちは、俺の事に、気付いてないし、俺の事を教える訳にはいかないけどな」

 ウインク付きで説明した内容に、『昼』が、一瞬考えるような表情を見せる。
 う〜ん、これで断られたら、本気で、能力遣うしかないかなぁ……。
 出来れば、こいつの意思を尊重したいんだけど……。

『………よし、気に入った。今日から、お前に従ってやるよ。名前を呼べ、オレは『昼』だ』

 一瞬だけ考えるような素振りを見せて、言われた言葉に、俺は一瞬自分の耳を疑ってしまう。
 こんなに簡単にいって、いいのか?
 俺、まだ何にもしてないぞ。

『どうした?それとも、オレと勝負したいのか?』

「……いや、遠慮する。んじゃ、改めて契約する。『俺、日成緑人は、『昼』を、我使役として、契約となす』」

 印を組んで、札を持つ。
 あんまり使わない術だから、覚える必要ないと思ったけど、こんな所で、ちゃんと役に立つんだなぁ。

『了解した、これからは、お前が、オレの主人だ。宜しくな』

 俺の肩に乗っかって、ニッと笑顔見せながら言われたその言葉に、何故か複雑なものが隠せない。
 普通、使役は、勝負してから、相手を任せて、力とする。
 だけど、今回の場合、そんな手間はなく、俺としては楽だからいいんだけど、『昼』は、俺の使役になる事を、自分から望んでくれたのだ。

『あいつを出抜くのは、楽しそうだ。手伝ってやるよ、ご主人様』

「……お前、本当にいい性格しているみたいだな。まぁ、俺の使役としては、そうじゃなきゃ、使えないけど……」

 少しだけ呆れながらも、自分の相棒としては、申し分ない相手の言葉に、複雑な気持ちを隠せない。

『オレとしても、お前の右目を使われたら、嫌でも従うしかないからな。それなら、自分の意志で従っただけだ』

「お前、この瞳の能力知っていたのか?」

『オレは、『夜』と違って、自由に生きてきた。だから、『魅惑の瞳』の事も、噂で知っている。それが、今の日成家の孫に受け継がれた事もな』

 結構博学じゃんか、自由に何年生きてきたかしれないけど、やっぱり役に立つかも。

「なんにしてもだ、宜しくな、『昼』。俺の事は、でいいぜ」

『分かった。だな』

「それでだ、俺の事は、あいつ等には、内緒な。学校の俺は、この俺とは違うから、宜しく頼むぜ」

 ニッコリと笑って言えば、頷く『昼』の姿。
 それに満足気に微笑んで、待っているであろうあいつ等の処へと歩き出す。

 今日から出来た、俺の相棒。
 まぁ、性格は、ちょっと捻くれてるけど、俺とは、上手くやっていけそうだ。

 なんにしても、これから宜しく。