|
「烈兄貴!」
何時ものように、大声で自分の名前を呼ぶその声に、呼ばれた人物は盛大なため息をつく。
「烈兄貴ってばよ!」
そして、再度。
そんな弟に、呆れながらその足を止めて振り返る。
「何だ、今回は地図はいらないぞ」
以前あった事を思い出して、しっかりとそう言えば、店の前で立ち止まっていた弟が目に入った。
「豪?」
「地図じゃねぇけどさぁ、これって珍しいモンじゃねぇの?」
真剣に見ているその姿を不思議に思ってきた道を戻りその名前を呼ぶ。
隣に並んだ事で、豪は自分が見ていたモノを指差した。
烈も、その指差されたモノを見る。
それは、一つの宝石。
かなり大きなそれは、真っ赤な血の色をしていて、その真中には見事な星の形をした光が宿っている。
「ああ、スタールビーだな…こんなに綺麗なのは、確かに珍しいけど、お前が宝石に興味を持つなんて、珍しいな」
綺麗なその宝石を見てから、烈が意外そうに呟く。
「そっかなぁ……でも、なんか、烈兄貴の瞳みたいだなぁって・……」
「……お前、そう言う事は好きな女が出来た時にでも言ってやるんだな……」
自分の言葉に言われたそれに、烈が呆れたようにため息をつく。
「な、なんだよ、その好きな女って!!」
「お前のそれは、口説き文句だ。男のましてや兄弟であるボクに言う言葉じゃないぞ」
「く、口説き文句って…違!俺は……」
盛大なため息と共に言われた言葉に、豪が真っ赤になって弁解しようと口を開くが、それは言葉にならない。
そんな弟を前に、烈は呆れたような視線を向ける。
「違うのは分かったから、早く行くぞ。こんな所で喚くのは店の人にも迷惑が掛かるからな。それに、仕事が待ってるぞ、豪くん」
「って、兄貴!」
言いながら先に歩き出す。その後に豪も慌てて歩き出した。
そんな弟の気配を後ろに感じながら、そっと小さく息を吐く。
「まぁ、ボクの瞳があの色に負けないってのは、認めるけど……決して、その言葉ではボクは口説けないよ……」
そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いて苦笑を零した。
「兄貴!!」
後ろから聞こえてくる賑やかな声を聞きながら、烈は複雑な表情で空を見上げた。
|