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「兄貴!」
知った声が大きな声で、自分を呼んでいるのが聞こえる。
その声で、一斉に自分へと向けられる人の視線。
何時だって、目立つなと耳たこ状態な程言って聞かせているというのに、あの弟は、どうしてそれが聞けないんだろう。
一層の事、雷でも降らせれば、その頭も使いモノになるかも知れない。
「兄貴!聞こえてねぇのかよ!!」
そんな事を考えている自分の耳に、もう一度声が掛けられる。
いや、聞こえない訳がない。
そんなに離れた距離でもないのに、そんな大声で呼ばれて、気付かないのは、耳の聞こえない相手だけだろう。
僕は、痛くなる頭を抱えて、そのままその声を無視して歩き出す。
「って、置いていくな!!」
無視して歩き出した僕に、豪の声が慌てているのが分かった。
確かに、久し振りの大きな町だから、騒ぎたくなる気持ちも分からなくない。
いや、どちらかと言うと、分かりたくないのだが……。
いい加減子供ではないので、落ち着いてもらいたいと思ってしまうのは、許される事だろうか?
「兄貴ってば!」
慌てて追いかけて来る声が、後ろから聞こえてくる。
「……うるさい!いい加減にしないと、その口塞ぐぞ!」
ぎゃーぎゃーと喚いている弟に、いい加減我慢の限界を感じて怒鳴りつける。
「う、うるさいって…俺は、兄貴に教えてやろうと思って……」
怒鳴りつけた僕に、豪が言い返してきた。
それに、不機嫌そのままに聞き返す。
「教える?何をだよ!」
「兄貴が欲しがってた地図、置いてるって……」
そして、返ってきたその言葉に、僕は一瞬目が点状態で、思考がフリーズした。
そして、取り戻した思考で、豪に怒鳴りつける。
「……どうして、そういう事は先に言わないんだ!!!!」
「だって、兄貴、俺の言った事、無視してたじゃん…俺、ちゃんと言ったかんな!」
「ああ、分かった。なら、さっさと買いに行くぞ!」
呆れながら、豪が先ほどまで立っていた店へと戻る為に引き返す。
時々思う、僕はどうしてこんな奴と、兄弟なんだろう。
そして、思う。
何時になったら、こいつは一人前になるんだろうと……。
なんにしても、それはまだまだ先な事だけは、間違い無いだろう。
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