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空を見上げると、天気が良すぎるから余計に嫌な気分になる。
今日ばかりは、こんな天気なのが許せない。
空を見上げては、ついついため息を吐いてしまうのを止められず、気分は重くなるばかりである。
隣にある自分にとって一番の相棒は、今日のレースで傷だらけになってしまった。
そして、その傷を付けた原因は、自分にある。
それが分かっているから、何よりも自分の事が許せないのだ。
「……ごめんね、ソニック……」
泣くまいとしているのに、涙というものは勝手に流れてきてしまって止められない。
自分が悪いし、泣く事が一番の逃げであると分かっているのに、それでも涙は止まってくれず、自分の頬を濡らしてしまう。
救いなのは、回りに誰も人がいないという事だけ……。
泣いている所なんて、誰にも見られたくはない。
それも、自分が許せないのに、泣くなんて一番悔しい涙だと知っているから……。
出来るだけ、自分が泣いているという事が、分からないように両膝を抱えて顔を隠す。
誰も知ってい人が、自分を探しに来ない事を祈りながら、涙を止めようと目元を擦る。
きっともうすぐ、仲間達が自分の事を探しに来ると分かっているから、それまでにこの涙を止めたい。
「しっかりしろ……豪に、誤らなきゃいけないのに……」
自分で自分を叱咤しながら、目元を手で擦る。止まらない涙は、自分ではどうにも出来ない。
「レツ・セイバ?」
止まらない涙に本気で焦りだした自分の耳に、突然飛び込んで来た声に驚いて振り返った。
「……ブレットくん?」
止まらない涙をそのままに振り返ってから、はっと気が付いて慌てて顔を逸らす。
既に遅いと分かっていても、自分が泣いている所なんて、見せたいものではないだろう。
ましてや、相手はライバルチームのリーダーなのだから……。
「ゴー・セイバが探していたが……どうする?」
自分の涙に気付いている筈なのに、それに気付いていないように尋ねられた言葉に、首を振る事で答える。
「OK.こちらで伝えておこう……レツは当分ココに居るのか?」
今度の質問には首を縦に振って答え、相手がこの場から離れる事を待つ。
なのに、相手の気配は全く、その場を動く様子を見せない事に焦れて、ぐっと目元を拭い振り返えった。
「まだ、用事があるのかい? それとも、ボクの事を笑いにでも?」
「……どうして、笑うんだ?」
問いかけた言葉に、逆に問い掛けられ腹が立つ。
「そんなの! 決まってるだろう、ボク達のチームがボロ負けした……」
「それで、どうして笑ったり出来るんだ? お前達はガンバったんだろう? 俺は、ガンバった人間を笑ったりはしない」
言い掛けた言葉を途中で打ち切られて、言われた事に漸く止まった涙が復活してきてしまう。
「……どうして…そんな事を言うんだい? ボクの事なんて、君には関係無い筈なのに……」
「放って置けなかった。っと言っても、納得出来ないだろうな」
言ってから小さくため息を吐くと、数歩離れていた距離をゆっくりと埋めてから、烈の頭にぽんっと手を乗せ笑顔を見せる。
「それに、何よりもスキなヤツのナミダを見たいと思うヤツは存在しないだろう?」
優しく微笑まれて、驚いて両目を見開き、相手の顔を見上げてしまう。
「す、き?」
言われた言葉が、信じられない。だが、その顔を見てもその真意を掴む事が出来ずに、ただその顔を見詰めてしまう。
「信じられないかも知れないが、本当の事だ。お前達のチームメイトに知られたら、厄介かもしれないが……」
苦笑して、言われた言葉に首を傾げる。
「何が、厄介なんだい?」
本気で聞き返され、答えに困ってしまう。正直ここまで彼が鈍いとは、思っていなかったのである。
レースの中では、この小さな体からは想像もできないくらいのパワーが溢れ出している。
『ミニ四駆発祥の地』だからと言う訳ではないが、この日本にはそんなレーサーが多い。その中でも、目の前の彼は、兄弟で信じられないパワーを自分達に見せ付けているのだ。レース中に見せる彼の姿は、自分の目を引き付けて離さない。一見冷静に見えるのに、その実とても激しい一面をレース中で見せている。
「……それは……」
首を傾げて涙目で見詰めてくる相手に、どう答えを返すべきなのか、詰まってしまうのは許してもらえるだろうか?
正直な処、このまま抱き締めてしまいたいと思うのは罪になるのか、誰かに教えてもらいたい。
「それは……何?」
尚も聞き返して来る相手に、言葉に詰まる。
真っ直な瞳から、視線を逸らすことが出来なくて、暫くの間見詰め合う格好で時間が流れてしまう。
「烈兄貴!」
だが、そんな時間は突然の第三者の声で、遮られてしまった。
「豪が呼んでる……有難う、ブレットくん。お陰で涙止まったよ。ボクももう大丈夫だから、戻るね」
「レツ!」
自分の横を擦り抜けて行くその腕を慌てて掴んで、抱き寄せる。
「ブ、ブレットくん 」
突然の行動にどう反応していいのか分からず、真っ赤になったその顔がブレットの胸に包まれてしまった。
「こう言う意味だ。泣きたくなったら、いつでもこの胸をカスから言ってくれ、レツ」
すっと烈の顔を上向かせると、その頬に優しいキス一つ。
「ブレット、お前、人の兄貴に何て事してんだ!」
「ご、豪?」
怒鳴りながら近付いて来たと思ったら、ブレットの腕から引き離される。ここで、自分が怒るのなら分かるのだが、全く無関係の豪が自分以上に怒っているのに訳が分からない。
「お前、何怒ってんだ? アメリカじゃこんなの挨拶だろう」
自分が怒ろうとした事を棚に上げて、冷静に考えてみれば文化の違いというものを改めて思い出してしまい、逆に怒っている豪を叱咤してしまう。
「挨拶ねぇ……まっ、『当たらずとも遠からず』って、とこだな……」
烈の言葉に小さく呟いて、苦笑する。気付かぬのは本人ばかりとは、良く言ったものである。
ゴー・セイバは気付いてるみたいだってのに……
心の中でため息を吐きながら、目の前の兄弟を静かに見詰めた。
「……あっ、ごめんな…その、お前の事叩いて……お前をもっと信じれば……」
ブレットから守るように自分の前にいる豪の頬が少し赤い事で、自分がしてしまった過ちを思い出して胸が痛い。
「今更、何言ってんだよ。気にしてねぇって、兄貴の事だから、そのことで責任感じて一人で泣いてんじゃねぇかと思って捜してたんだぜ」
流石、兄弟。ビンゴってヤツだな。
心の中で、思わず褒めてしまう。
「だ、誰が泣くんだ!」
図星を刺されて思わず吃ってしまうが、それでも強気に出るのは兄貴としてのプライドである。
「兄貴に決まってんだろう」
「泣く訳ないだろう! 人の心配してないで、マグナムの事でも心配してろよな」
「そう、それだよ! ソニックもボロボロになっちまっただろう、だから兄貴の事放っておけねぇんだよ」
「それこそ、余計なお世話だ。これは、オレが招いた事、総てはオレの判断ミスが原因だろう。それに、みんなを巻込んだ……豪、お前を信じていれば、結果は違っていた筈だ」
自分で言いながら、自分自身を追い詰めていく。
烈の表情が、段々曇っていくのを感じて、二人が同時に口を開いた。
「関係ねぇって、言ってんだろう! 兄貴、俺の事まだ信用してねぇのかよ!」
「レツ、自分を追い詰めて楽しいのか?」
同時に言われた事に驚いて、顔を上げる。
目の前には怒ったような顔をした二人の視線が向けられていて、思わず視線を逸らしてしまった。
「目を逸らすなよ、兄貴。言っただろう、気にしてないって……それに、兄貴はちゃんと間違いを認めてる。それ以上、自分を傷付ける必要なんてねぇじゃんか! そんな事して、ソニックが喜ぶとでも思ってんのかよ!」
「ソニック……」
言われた言葉に、自分の手の中にあるマシーンを見る。
傷付きボロボロの姿を見ると、胸が痛くて瞳を逸らしてしまいたい。
「ゴーの言う通りだな。このままでは、次のレースでもイイ成績は残せないだろう」
「ブレットくん…」
ソニックから目を逸らして、前に居るブレットに視線を向ける。
「ガンバって負けたのなら、マシーンは次こそその気持ちに答えてくれるんじゃないのか?」
「そうだぜ、兄貴! こいつの言う事は正しい! そりゃ、言ってる奴は気に食わねぇけど、ソニックの気持ちをちゃんと理解してやるのが、兄貴の役目じゃねぇのか?」
然り気無く、ブレットの事をどう思うのかも付け足しながらの言葉に烈は、真っ直に豪を見詰めた。
「ソニックの気持ち……?」
「そう、ソニックの気持ち、俺達は、ミニ四レーサーだろう? マシーンの気持ちを間違えずに分かってやる事が、一番大事なんじゃねぇのか? 俺達は、そうやって今までもレースしてきた。これからだって、変わちゃいけねぇ事だろう!」
ぐっと烈の肩を掴み、真っ直に向き合う。
見詰めて来る瞳を真っ直に見詰め返しながら、烈は小さく息を吐き出した。
「分かった……ソニックを信じる。そして豪、お前の事も信じるよ。もう、同じ過ちは繰り返さない」
「兄貴……」
烈の言葉に、パッと豪の表情が明るくなる。
それに釣られて、烈も笑顔を返した。
「レツ、今度の試合楽しみにしてるぜ。それまでに、ソニックを直してやるんだな」
「ああ、ブレットくん、負けないからね」
「覚悟しとくさ……じゃあ、今度泣くときは、声掛けてくれ、俺の胸はちゃんとレツ専用で空けとくからな」
「ブ、ブレットくん!」
片手を上げての去り際の言葉に、真っ赤になって烈が叫ぶ。
それを笑いながらかわし、ブレットは建物の中へと入って行く。
「烈兄貴! 先の台詞どう言う意味だよ!」
「別に、意味なんてある訳ないだろう! 何時もの冗談に決まってる」
真っ赤な顔のまま、それでも冷静を装うって返す。
だが、相手が悪い。そんな事で豪が納得するなど有得ない事である。
「んなので、納得するかよ! 絶対、下心があるに気まてんだろう!」
「下心なんて、ある訳ないだろう。お前の考え過ぎだ。大体、男に下心なんて持つ訳がないだろう」
「兄貴……どうして、こう言う事では、鈍いんだよ 俺は、心配だぜ。結構、兄貴の事狙ってる奴多いってのに……」
「何、馬鹿な事言ってんだ。ほら、みんなが待ってんだろう、行くぞ」
ため息を吐いて、先に歩き出す。
そんな烈の後を慌てて追い掛けながら、豪は烈の隣に並んで歩く。
「馬鹿な事じゃねぇぞ! 兄貴、約束しろよな、ブレットには、気を付けるって……」
「気を付けるも何も、向こうが勝手に近付いて来るんだから、仕方ないだろう」
「だから、それが下心があるって言うんだろ! 絶対、あいつ兄貴の事狙ってんだぜ」
「OK.分かった。気を付けるよ……それで、良いんだろう?」
投げやりな言い方に、豪が納得するはずがない。
「兄貴! 俺は、本気で心配してるんだぞ」
「……豪、お前の気持ちは嬉しいけど、無闇に人を疑うのは良くないぞ。それに、ブレットくんもオレの事を心配してくれたんだから、そんな事言ったら失礼だろう」
分かってない。
本気でそう思って、豪は思わず頭を抱えてしまった。
烈は、純粋にブレットの行為を受け止めているのだ。
それに裏があるなんて、これっぽっちも疑っていない。
心配、過ぎる。
思わず、実兄を心配するのは当然の事だろう。
今、各チームの中で、自分がどれだけの人間に目を付けられているのかという事を本人は全く知らないのである。
隙あらばと、考えている人間は、一人や二人ではないのだ。自分を含む、TRFのメンバーがその事に気を付けている事に、当人は全く気付いていないだけ、仲間達の努力は報われてない。
俺達の努力って……
思わず頭を抱えたくなるのは、許されるだろう。
他の事では鋭いのに、事恋愛……嫌、自分の事になると何故ここまで疎くなるのか謎である。
それだけに、どうやって対処すべきなのかも分からなくなってしまう。
「あ、兄貴……」
「どうした、豪? 早くしないと、みんなを待たせてるんじゃないのか?」
「えっ、ああ、そうだけど……」
「だったら、早く歩けよ。スピード落ちてるぞ」
立ち止まって、豪が自分の横に来るのを待ちながら、溜め息を付く。
「……わざわざ、呼びに来たのに、オレ一人で先に戻らせるつもりなのか?」
問い掛けて、苦笑する。
慌てて自分の隣に走って来る弟を見詰めながら、烈はその頭をぽんっと叩く。
「心配掛けて、悪かった。信じなくって、ごめんな」
「兄貴……」
言われた言葉に、相手を見た。
その表情は、自分が考えていたものとは違って、笑顔をである。
「オレは、お前の兄貴だろう? もうちょっと、オレの事も信用しろよ」
ウインク付きで言われた言葉に、苦笑してしまう。
俺の兄貴だから、心配するんだろう。
とは、口に出していえない。
本人が自覚していないのに、回りが何を言っても無駄と言うもの。
「兄貴って、罪作りだよな……」
「どう言う意味だよ、豪?」
「何でもねぇよ! それよっか、早く行こうぜ。俺、腹減った」
「お前なぁ〜 それしか、言えないのか?」
今までのシリアスな展開は、何処へやら……。
やれやれと言わんばかりに、烈は頭を抱え、先に走り出した豪の後を追って、走り出す。
今回の事は、自分にとって良い経験になったと思う。
仲間を信じることが、このレースで大事な事だと学んだ。
自分の弟を傷付けた上に、大切な相棒であるマシーンを壊してしまった事。
これを糧に先へと進み、世界グランプリをこの仲間達と勝ち取りたい。
「豪、絶対勝とうな!」
「たりめぇだろう! 負けるかよ!」
自分の言葉に即座に返された答えに、笑いを零す。
だから、今は信じよう。
この目の前の栄光を、手に入れるために……。
お・ま・け
「豪くん、烈くんは大丈夫だったんですか?」
戻って来て直ぐに土屋博士と話をしている烈を前に、こっそりと尋ねて来たJに豪は、ため息を吐いて見せる。
「俺が行った時には、烈兄貴、ブレッドと一緒でよ……何かあったらしいんだけど、兄貴はあの通りだから、聞き出せねぇんだよな……」
「……選りにも選って、ブレットくんですか?」
「ああ、あいつ、烈兄貴のほっぺにキスなんてして行きやがって……しかも、去り際の台詞が『俺の胸は、レツ専用に空けとくからな』だとよ」
「完全に、口説いてますね……」
豪の言葉を聞いて、Jも思わず頭を抱えてしまう。
「兄貴、こう言うのには鈍感で、ブレットの言葉も冗談だと思ってるしよ…放っとけねぇよな」
「ですね…僕達が、気を付けてるから今までは問題無かったんですけど、目を離すと心配だね」
「だろ! でも、付ききりって訳には、いかねぇだろう。一番良いのは、烈兄貴が自覚してくれるのが一番なんだけどな……。それは、期待出来ねぇし……」
腕を組んで、椅子に凭れ掛かると考えるように瞳を閉じる。
「だよね……烈くん、自分の事になると疎かになるから、誰かが面倒見ないと……それに、一番に厄介なのは、ブレットくんですね」
Jの言葉に、豪も大きく頷く。
「だろ、俺もそう思うぜ。要注意は、ブレットとエーリッヒだろう」
「そうだね。エッジくんも要注意だしロッソストラーダの人物は、全員危険だろうし……そう考えると、注意する人物だらけだね……」
「何を注意するんだい?」
ため息を吐きながらの言葉に聞き返されて、驚いて二人は声のした方を向く。
そこには、不思議そうに自分達を見詰めている、烈の姿があった。
「J君、次のレースまでには、全員のマシーンを直すのは難しいから、対策を考えたいんだけど……所で、何を注意するんだい?」
土屋博士と話していた事を伝えてから、それでも気になる事をちゃんともう一度聞く。
「……えっ、あの……そう、ロッソストラーダとのレースは、今度こそ気をつけないとって話していたんだよ」
引き釣笑いを浮かべながらも、豪もその言葉に大きく頷いて返す。
思わず二人とも、咄嗟の言い訳のうまさに胸を撫でおろした。
「ロッソストラーダ……今日みたいな事だけは、絶対にさせない」
力を込めて、拳を握り占める。
「そうだね、負けたくないからね……」
烈の言葉に答えながら、話しを胡麻かせた事に内心ほっとしてしまう。
「それで、土屋博士は何て言ってるんだい?」
「最善は、尽くしてくれるって言ってるんだけど……一番被害の少ないマグナムならともかく、他のマシーンは時間が掛かるそうなんだ」
言いながら、段々と烈の表情が曇っていく。
「兄貴、また詰まらねぇ事考えてんじゃねぇぞ! 今回のは、ぜーんぶ、あいつらが悪いんだぜ。兄貴が責任感じる事ねぇって」
その表情を読んで、豪が怒ったように言葉を返す。
「そうだよ、烈くん。今回の事は、僕達みんなの共同責任だ。烈くん一人が責任を感じる事なんて何も無いと思うけど」
「豪、J君も……ごめん……」
言われた事に気が付いて、誤る烈を前に、二人は顔を見合わせてため息を吐く。
こんな弱々しい態度を取られたら、嫌でも護ってやりたくなってしまうのだ。
放って置く事は簡単だが、それを実行出来ないのは、こんな姿を知っているから……。
「だから、放っておけないんですよね……」
「だよな……」
苦笑混じりに呟く。
「えっ、何? どうしたんだい、二人とも?」
突然言われた事に、意味が分からず首を傾げてしまう。
「何でもないよ。TRFリーダー烈くん、僕達は君が一番って事ですよ」
にっこりと笑顔で言われた言葉に、烈の顔が瞬時に真赤になる。
「そう言う事! だから、兄貴一人でなんでも解決すんなよな」
「僕達は、同じTRFのメンバーなんだよ。烈くんだけのレースじゃないから、大変だと思うけど僕達は支え合って行くべきじゃないのかな」
言われた言葉が、胸に染み込んでいく。
自分がしっかりしなければいけないと、がむしゃらになっていた心に、安堵の光が灯された。
「れ、烈くん 」
ぽたりと零れた涙に、Jが慌てて名前を呼ぶ。
「ごめん、本当に、ごめんね……」
「たく、泣き虫の兄貴だよな」
言いながら、豪がレツを抱き寄せる。
Jもそんな二人を前に、優しい瞳で見守っている。
「ブレットの胸なんか、借りねぇで、俺達に言えよ。何時でも支えてやっからさ」
烈の頭を撫でながら、言われた言葉。
それに、思わずJは苦笑してしまう。
余っ程、その台詞が気に入らなかったみたいだね。
思いながら、目の前の二人を見詰める。
確かに、豪では烈に胸を貸すなんて出来ないだろう。
ちょっとだけであるが、烈の方が身長が高いのだ。
もちろん、烈の方が年齢が上なのだから、当然と言えば当然なのだが…。
微笑ましいと言えば、そうなのだが、烈にとっては有難くない格好である。
「豪、もういいから、離せよ 」
二人の前で泣いてしまった事実が、余りにも恥ずかしい。
それでなくても、今日は色々な事が有り過ぎて頭のなかが整理されていないのだ。
正直に言うと、疲れているのが現状である。
だから、こんな恥ずかしい真似を曝してしまったのも、総てはそれが原因だと思いたい。
「本当に、兄貴だよな……」
しみじみと言われた言葉の意味が分からなくて、至近距離で豪を見詰める。
「確かに、烈くんが最強ですね」
Jまでも、意味の分からない事を言って笑う。
一人だけのけ者にされたみたいで、何だか気に入らない。
「豪! J君、一体何なんだい?」
「何でもねぇよ。ただ、俺達は兄貴の事が大好きだって事だろう。なぁ、J」
「そうだよ、烈くん。僕達は、君の事を見てるって事だよ」
「……からかわれてるとしか、思えないんだけど……」
「深く考え過ぎだよ。もう少しリラックスしなくちゃね」
「リラックスねぇ……豪ほどリラックスするのも、どうかと思うんだけどね…」
ため息を吐いて、ぽつりと呟く。
目の前の豪には、その言葉が、はっきりと聞こえていた。
「どう言う意味だよ、兄貴!」
「言葉通りだよ。お前は、考えが無さ過ぎる」
「兄貴には、言われたくねぇよな! 俺よりも、考えてねぇんだから」
「オレの何処が考えてないんだ! お前なんかより、頭は使ってるぞ」
突如始まった兄弟喧嘩を目前に、Jは苦笑してしまう。
仲が良いのか悪いのか……。
良過ぎるから、衝突してしまう兄弟。
この兄弟によって、自分は間違いに気付き、仲間として一緒にレース出来るようになったのだ。
その事には、言葉に出来ないほど感謝している。
「……要するに、二人ともが最強なんでしょうね…」
「…何か、言ったかい、J君?」
エスカレートしそうになった喧嘩が、Jの呟きにピタリと止まった。
「いいえ、何も……」
言いながら笑顔。
「笑ってねぇで、さっさと止めろよな!」
「折角のスキンシップを邪魔するのは、豪くんに悪いからね」
ウインクで返した言葉は、豪には図星を刺されたらしい、何も返さずダンマリを決めてしまう。
もう一方の烈は意味が分からなかったらしく、首を傾げている。
「豪くんのスキンシップが、終わったみたいだから、烈くん、メンテナンス始めようか?」
「あっ、そうだったね……土屋博士も待たせたままだったや 」
言われて思い出したように、烈が慌て出す。
それを見ながら、Jは苦笑してしまった。
「J、兄貴にはバラすなよな!」
「言ったりしないよ。もっとも、言った処で、烈くんには通じないだろうからね」
Jの言葉に、豪がため息を吐く。
「だよな……本当、兄貴って最強だよな」
「……ですよね…」
二人同時に呟きながら、慌てて走り回っている烈を見た。
「恋愛に疎くて、責任感が強い」
「自分を追い詰めて、傷付く事なんてまったく気にしねぇしよ……そのクセ、マシーンの事になると人一倍熱くなる」
「でも、そこが、烈くんだよね…」
豪の言葉に笑顔を見せ、机に両肘を付く。
豪も、苦笑すると頷いた
「だな…俺の兄貴で、誰よりも放って置けねぇよな」
その言葉には、Jも笑いを零すだけで返す。
そして、走り回っている烈を手伝うために、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
忙しく走り回りながら、密かに考える。
今日の出来事を胸に、自分は強くなれたと思うのだ。
一人ではないということが、自分をこんなにも強くさせるのだと知ったから……。
人を信じる事、そして、何よりも自分自身を信じる事を教えてくれた今日のレース。
だから、どんな事があっても大丈夫だと自分に言い聞かせる事が出来る。
そう、誰よりも君こそが、一番だから……。
すこぶる昔の作品。
ワープロの方から引っ張り出してきました。
なんていいましょうか、昔の作品は全部が全部、豪x烈←ブレットなんですよね。
ブレさん好きだけど、豪烈の方が好きだったと言う事だろう。
何にしても、懐かしい作品です。
そして、そんな恥ずかしいモノをUPしてる自分って……。
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