渡された服は、どう見ても女物に見えるんですが、母さん貴方は時々俺の性別を忘れてるんじゃないんですか?

 本気で、そう質問したくなるような服でした。

 でも、着ないと母さんが悲しむのは目に見えている。
 着たくはないけど、母さんを悲しませたくもない。

 どっちらかを選ぶとすれば……着るしかないんだよな………本気で、拒絶したいんだけど……。






「きゃ〜!!やっぱり似合うわ!」

 嫌々服を着て部屋から出れば、待っていたのだろう母さんが手放しで喜んでくれた。
 いや、似合うって言われても嬉しくないです、本気で全く嬉しくないですから!

「相変わらず母さんのセンスはバッチリだね。に良く似合ってるよ」

 ニッコリと優しい笑顔で言われても、やっぱり嬉しくないです。

「母さん、これ女物…………」
「違うわよ!ちゃんに似合う物を買ってきたんだから、ちゃん物よ!」

 いや、それってどんな物ですか、お母様……xx
 ちゃん物って、普通に在り得ませんから!素直に、女物だと認めてください。

 確かに、俺の顔は貴方にそっくりですが、性別は違いますから、マジで!!

「母さん、自分が着れないからって、人に着せるのはやめてって言ってるのに……」

 マジで迷惑です、せめてもの救いとしては、一応スカートだけは選んで来ない事だろうか、それだけが唯一の救いと言える。

 いや、買ってこられても、絶対に着ないけどマジでそれだけは勘弁してください。

「そうなのよね、流石に母さんの年になると、可愛い服はちょっと……でも、ちゃんが着てくれると自分が着てるみたいな気分になれるでしょ?」

 いや、ならないで下さい!本気で、俺は悲しくなります。
 流石に男で可愛い服って言うのは恥ずかしいんですが………。

 ちなみに、俺の今日の服は3枚重ね着。
 一番下に着てるのが、オレンジのタンクトップ、その上になんて言うのか可愛い感じのふわっとした真っ白な薄いノースリーブのシャツなのか、これ?って言う服があって、更に肩がずり下がるようなかんじの半袖アミアミ服となっております。

 夏用の女の子の服って涼しそうだと思っていたけど、なんて言うのかそうでもなかったんだなぁと、今日シミジミと思いました。

 重ね着とかすると普通に暑いと思います、だって、身を持って体験してますから、俺。

 ズボンは、真っ白で俺の足にある傷がちゃんと隠れるギリギリの長さ。その辺の事はしっかりばっちり考えられてるって思うんだけど……。

ちゃん、頭もセットするから、ここに座ってくれる?」

 悲しくなっていた俺に、母さんがブラシを片手に手招き。
 いや、何もそこまでしなくっても………。

「ほら、ツっくんも獄寺くんも待ってるんだから、早く座る」

 そこで躊躇っている俺に、母さんが急かすように俺を無理矢理椅子に座らせる。
 いや、獄寺くんが本気で驚いてるんですけど……そう言えば、俺が獄寺くんと一緒に出掛けるのって、これが初めてか!

 私服姿ってあんまり見せてないかも……基本俺って、インドア派だし………。そうだよな、普通驚くよな!中学生男児が母親の選んだ女物の服着てるの見たら……。

 でも、ここでは普通なので諦めてください。
 だって、着ないと母さんがすごく悲しそうな顔するので、俺に拒否権は無いんです。

 って、俺ってもしかして、この家で一番立場弱いのか!ツナにも母さんにも頭が上がらないって………本気で最弱なんですけど………。

「出来た!どう、ツっくん」

 打ちひしがれている俺に、母さんの満足そうな声が聞えてきて現実へと引き戻されてしまう。

「うん、とっても似合ってるよ」

 出来栄えをツナに確認する母さんに、ツナは満足そうに頷いて何時もと同じ言葉をくれた。
 って、俺はツナからその言葉しか聞いた事ないんだけど……似合ってる以外には、何も言わない。

 だって、それは俺があの言葉を嫌っている事をツナは知っているから…………。

「そんな事言われても、嬉しくない……」
「でも、似合ってるから」

 ツナに似合ってるって言われるのは嬉しいけど、やっぱり素直に喜べない。
 だって、女物の服着て似合ってるって言われても、嬉しい訳ないだろう普通!

「お前、折角10代目が褒めて下さってるのに!」

 褒めて貰っても嬉しくないんだけど……それに、どうしてそこで獄寺くんに文句言われないといけないんだろう……。

 なら俺にどうしろと、『嬉しい』とでも言って、ツナに抱き付けば良いのか?
 いや、それはそれで、獄寺くんに対しての嫌がらせになる様な気がするんだけど……

 それに、俺はツナの彼女じゃないんだから、そんな風な喜びを表現するのもどうかと思うぞ。って、やれって言われた訳じゃないんだけどね。

「オレは気にしないよ。それより、眼鏡は外した方が良いんじゃない?」
「そうね、その格好だと、眼鏡は無い方がいいわね。ちゃん眼鏡取っちゃいましょう」

 獄寺くんの言葉にニッコリと笑顔を見せて、ツナが言えば獄寺くんはそれ以上何も言えなくなる。
 だけど、続けて言われたその言葉に、俺は一瞬意味が分からず首を傾げた。えっと、眼鏡を外せって言わなかったか?しかも、母さんまで一緒になって何言ってるんですか!

 そりゃ、確かに伊達眼鏡だから外しても全然問題ないんですけど、家族以外の前でコレを取るのはどうしても気が引けてしまうのだ。

「えっと、外すのは嫌、かな……」

 獄寺くんの前では、取りたくないです。

 いや、まぁ、委員長の前では取った事あるんだけど……そう言えば、委員長には何も言われなかったっけ……まぁ、良く見ないと分からないみたいだから、気付かれなかったものかもしれないけど……。

「いいから!」

 って、母さん、無理矢理人の眼鏡を取らないで下さい!!

「コレは、私が没収しておくわね」

 人から無理矢理眼鏡を取って、にっこりと母さんが笑顔。
 いや、なんで、没収って、訳分からないから!!

「母さん!」
ちゃんは、朝もお昼も食べてないから、ツっくん外で何か食べさせてあげてね」
「うん、分かってるよ」

 俺の抗議の声は完全スルーで、ツナと会話してる母さんが本気で恨めしいです。
 俺、眼鏡無しで外に出るの、とてつもなく久し振りなんですけど……。

「それじゃ行こうか」

 って、何か今気付いたんですけど、獄寺くん完全無視?

 何でこう言う時だけ、母さんとツナのタッグが組まれるんだろう?
 しかも、この二人が手を組むと最強……話を聞かない母さんと、自分の意志を通すツナ……正に、俺にとっては最低最悪のコンビだ。

「10代目!」

 俺の手を取って歩き出したツナに、我に返ったのだろう獄寺くんがツナを呼ぶ。

「獄寺、早く来ないと置いていくよ」

 って、俺がおまけだった筈なのに、言い出し人の獄寺くんを置いて行くってどうなんだろう、いや、多分ツナとしては居なくてもいいと言うぐらいの扱いかもしれないけど……。

 ちょっとだけ、獄寺くんが気の毒に思えました。えっと、同情は出来ないんだけどね。

「えっと、まずは何処かでお昼だよね。獄寺も、それで大丈夫?」

 出掛けに、俺は運動靴を履こうと思ったんですけど、やっぱり母さんが出て来て靴も服に似合うサンダルを渡されました。
 いや、うん、もう何も言いません。だって、俺が何言っても聞き入れてもらえないんだから……。

 出掛けの事を思い出して、思わず遠い目をしてしまう。
 そんな中、ツナが獄寺くんに質問。
 そう言えば、俺は朝も昼も食べてなかったんだっけ……いや、母さんがそう言ってたけど、あんまりお腹空いてないから忘れてた。

「はい!全然大丈夫です!!10代目もお昼召し上がってなかったんですか?」
「ううん、オレは朝御飯兼用のお昼を食べたよ。でも、食べられない程じゃないから」

 ツナの質問に丁寧に返してさらに質問。それに、ツナが答えているのを何となく一歩下がって話を聞く。
 ああ、ツナは俺と違って、ちゃんと御飯食べてるんだなぁ……。

 獄寺くんも、ツナと同じようにお昼兼用で食べているらしい。うん、皆ちゃんと食べてるんだなぁって、俺だけかよ、朝から何も食ってないのって!

もそれで良いよね?」

 何処か二人の会話を遠くに聞いていた俺は突然話を振られて、意味が分からず首を傾げた。

「何が?」
「だから、まずお昼食べて、それから獄寺の買い物に付き合うって言う話だよ」

 あれ?二人ともお昼兼用で食べてるって話してなかったか?
 俺の気の所為か??

「えっと、二人ともお昼兼用で食べたって話してたよな?」
「うん、話してたけど、は朝もお昼もまだ食べてないからね」

 疑問に思った事を聞けば、ツナが当然と言うように返してくれる。

「えっと、別に俺に合わせなくっても、買い物先に行ってもいいけど……」
「却下!そう言ってると、は何も食べないで終わっちゃうからね」

 俺はただのおまけのはずだったんだけど、そう思って申し出た俺の言葉はツナさんに思いっ切り却下されてしまいました。

 いや、否定できないから、仕方ないんですけど、そんなにキッパリと言わなくってもいいと思うんですが……。
 少しだけ怒ったように俺を見詰めてくるツナに、シュンとしてしまうのは、何とも日頃の行いと言うべきなのだろうか……。

「えっと、お昼食べるので、全然問題ありません」

 だから、俺が返せる返事はそれぐらいしか思い付きませんでした。
 俺がそう返事をすれば、ツナさんが満足そうに頷く。

 う〜っ、本当に先に買い物行っても全然問題なかったのに……何か逆に買い物に付き合って申し訳ないような気がするんですけど……。

「それじゃ、10代目、どちらの方に行かれますか?」

 う〜っと、唸っている俺を無視して、獄寺くんがツナに話し掛けてくる。
 本当に、俺に対する態度とツナに対する態度が全然違うよなぁ、獄寺くんって……こうコロコロ変わる態度って、あんまりイイ印象じゃないと思うんだけど……。

「そうだね、そう言えば何が欲しいんだったっけ?」

 獄寺くんに話し掛けられて、ツナが疑問に思った事を素直に聞き返した。
 って、この二人行き先とか考えないでただ出てきてるんだ……。計画性を持った方がいいと思うんだけど……。

「オレは、その……アクセですかね」

「ああ、シルバーアクセ一杯付けてるもんね……なら、並盛商店街よりも、隣町のデパートの方がいいかな?」

 ツナの質問に、獄寺くんが一瞬考えて返事を返す。
 その間って、何ですか?絶対、今考えただろう、おい!

 ツナはそんな事気にした様子も無く、本気で行き先を考えているようだ。

「オレは、10代目とご一緒できれば、何処でもいいっす!」

 いやいや、それって君の買い物になってないと思うんですけど……。

 ああ、こうやって俺は心の中だけで突っ込みまくる癖が出来てしまいました。

は、行きたい所ある?」

 って、ツナさん獄寺くんの言葉は完全スルーですか?!

「俺は、別に……あっ!でも、久し振りに本屋に行きたいかも……」
「分かった。ならやっぱり隣町の方がいいね。駅の方に行けばファミレスもあるし、そこでまず御飯食べてから、バスで移動しようか」

 って、俺の一言で決まっちゃうんですね……ちょっと、獄寺くん可愛そうなんですけど……。
 にこやかに言われたツナの言葉に、獄寺くんが隣で泣きそうな表情しているのが、何とも気の毒でした。


 いや、ツナがスルーしたくなる気持ちは分からなく無いんだけどね、うん。