と言う訳で、俺達はお昼を無事に食べて隣町にある大きなデパートに来ました。
うん、ここに来るまでにも色々合ったんだけど、それはもう自分の為に忘れます。
だって、気にしてたらきっと強く生きていけないと思うから……。
「本当、久し振りだな」
外出自体が少ない俺にとって、隣町に来る事事態がかなり久し振りです。
なので、デパートに来たのは、えっと、半年振りぐらい?
「そうだろうね、はあんまり外出しないから」
俺の呟きに、ツナが感心したように口を開く。
うん、それは認める。だって、あんまり動きたくないから……。
そう言えば、今日は獄寺くんの歩く速度がすっごく遅い。いや、俺には調度いいんだけど、何時ものスピードの半分も出てないんじゃないだろうか……。
まぁ、獄寺くんが普段通りに歩いちゃうと俺は、あっという間に置いてけぼりなんだけどね。
きっと、ツナに言われたから、速度合わせてくれてるんだろうなぁ……やっぱり、俺が買い物に付き合ったのは失敗したかも……。
「そう言うツナだって、そんなに外出する方がないだろう!」
「まぁ、確かにオレも人の事言えないんだけど、よりは外出してると思うけど」
今日の獄寺くんにちょっとだけ感謝しながら、しっかりとツナが言ったそれに反論を返す事は忘れない。自分だって、外出する方じゃないくせに!!
そう思って言ったんだけど、やっぱり言い返されてしまった。
う〜っ、どうせ俺はインドア派ですから!だって、足を酷使するのは、どうしても避けてしまうのだ。だって、痛いのに慣れていると言っても、俺はマゾじゃないから、好きな訳じゃない。
「そいつが出掛けないのは知ってましたけど、10代目もお出掛けにならないんですか?」
楽しく会話していた中、獄寺くんが入り込んでくる。
うん、そいつって俺の事なのは分かるけど、あからさまな態度は本当に好きになれないんですけど……さっき折角心の中で感謝してたのに、取り消すぞ!
「う〜ん、小さい頃はどっちかと言うと外で遊ぶ方が多かったんだけどね、今は出掛けるのは少なくなったかな……」
獄寺くんの質問に、ツナが素直に返事を返す。
確かに昔のツナは家に戻って来ても直ぐに出掛けるような子供だった。
だけど、あの事故からそれは極端に変わってしまったのだ。
変えてしまったのは、俺の所為……。
「そうなんですか?それじゃ、家でゲームとかなさるんですか?」
「ないない!ゲームは嫌いじゃないんだけど、得意じゃないからね。どっちかと言うとオレも読書する方が好きだから」
ちょっとだけ、申し訳ない気持ちでツナの話を聞いていた俺は言われた最後の言葉に思わず遠い目をしてしまった。
読書が好きって、確かに本は読んでるかもしれないけど、ツナが読んでる本は全部医学書なんですけど!普通は、中学生が読む本じゃありませんから!!
「へぇ〜、10代目はどんな本がお好きなんです」
思わず心の中で突っ込んだ俺の心情など全く知らない獄寺くんが、ツナに再度質問する。
「うん、オレが読んでるのは医学書だよ。特に人体の仕組みとか勉強になるんだよね」
その質問に、ツナさんはニッコリと笑顔で答えていました。
「そ、そうなんですか?」
その爽やかな笑みに、獄寺くんは何と返していいのか分からなかったのだろう、疑問符で返している。
「うん、ここをこうすればこう言う効果が出るとか、簡単に人を倒す方法には役に立つよ」
って、そこはニッコリ笑顔で言う台詞じゃないですから!!!
「ああ、確かにそれは便利ですね」
って、獄寺くんは突っ込み無しで同意ですか?!
つ、付いて行けない……俺は、ここに居るべきじゃないんじゃないか?
「、そんな所で止まってちゃダメだよ」
思わず現実逃避していた俺の耳に、ツナの声が聞えて来た。
ああ、俺は思わず歩みを止めていたんだ……ツナ達が、ちょっと離れた場所に居るのを見て、慌てて歩き出す。
「休みの日だから人が多いし、お願いだから迷子にならないでね」
急いで追付いた俺に、ツナが心配そうに俺を見詰めてくる。
認めたくないけど、俺は身長も低いからこの人ごみに紛れると、ツナ達を探す事はまず困難だろう。
「……迷子になった時は、一人で先に帰るから気にしなくっていいよ」
「あのね、そう言う問題じゃなくって!」
だから、その時はすっぱりと探すのは諦めて家に帰ろう。それが、確実だ。
知らない場所じゃないのだから、一人でも帰れるしな。
「えっ?そう言う問題じゃないの??」
真面目に言った俺に、ツナが呆れたようにため息をつく。
迷子の心配って、そう言う問題じゃないのか?
小さい子供じゃないんだから、逸れたらサクサクと一人で帰った方が楽じゃん。
「うん、にはそれを説明しても無駄そうだね……いい、もしも逸れたら、一人で帰るんじゃなくって、携帯で連絡してくれる?」
「ああ、そう言えばそんなモンも世の中にはあったな」
本気でツナが呆れてる理由が分からずに首を傾げた俺に、ツナが再度ため息をついて一つ確認してくる。
そう言えば、今の世の中便利になって携帯持ってるじゃん、俺も。すっかりその存在を忘れてたから、ツナは呆れたのだろうか?
「分かって貰えたみたいだね。いい、一人で帰るんじゃなくって、絶対に連絡するんだよ。何処に居たとしても、迎えに行くから」
携帯の存在を思い出した俺に、安心したようにツナが念を押すように真剣に言う。
それに俺はただ頷いて返した。
いや、そんなに念を押さなくっても、逸れなければいい事なのでは……。
とは思ってもそれを口に出す事は出来ない。なぜなら、それは超直感力が働いていた所為かもしれない。
そんな所で、ツナも直感能力使わなくっても、いいと思うんだけどね……。
「ツナ達、何処行ったんだろう??」
何十分か前に話した内容を思い出しながら、ポテポテと人込みの中を歩いて行く。
ちょっとだけ歩き過ぎて足が痛くなってきたけど、そんな事を気にしている場合じゃない。
「俺が迷子……それとも、この場合はツナ達が迷子になるんだろうか?」
なんて、ちょっと考えるが、どう考えても俺の方が迷子だろう、うん。
逸れた原因は分かっている。
ちょっとだけ目を引く商品があって立ち止まった所で、団体のおばさん連中にドンと突き飛ばされてしまった。
いや、突っ立っていた俺も悪かったんだけど、その時運悪く右足に全体重を掛けてしまって、その痛みに蹲ってしまったのが全ての原因だ。
お陰で、ツナと獄寺くんを見失ってしまいました。
なのでまだ右足がちょっと痛いんだけど、頑張ってツナ達を探し中。
そんなに離れてたとは思ってなかったんだけど、今だにその姿を見付ける事が出来ません。
「う〜ん、携帯で連絡したいんだけど、こんな所で立ち止まるのも……」
もしかしたら、俺が居ない事に気付いてツナから連絡がくるかもしれないけど……今の所その様子は見られない。
「……そりゃ、そうだ。携帯持っててもその携帯の電池が切れてるようじゃ、ただの飾りだな……」
ポケットから携帯を取り出して確認した瞬間思わずため息をついてしまう。
いや、だって、携帯なんて本気で必要性を感じてなかったから、充電するのも忘れてたんだよ!
俺が携帯持ってる理由は、ツナに無理矢理持たされたからだ。だから、携帯で連絡する相手って言うと、家かツナの携帯しかない。
メモリの中にもそれしか登録されてないと言う、意味のない状態だ。
「……携帯使えないなら、公衆電話で掛けるしかないかな……」
と言っても、ここ最近公衆電話少ないんだよなぁ……本気で、どうしたものか……きっと、連絡せずに家に帰ったりしたら、ツナの説教が待っているんだろう。
う〜ん、一応不可抗力なんだけど、ツナは許してくれないだろうなぁ……。
「足、痛い……」
心の中でツナに怒られると思いながらも、かなり足が限界を訴えかけてくるので、出来るだけ邪魔にならない場所に寄ってその場所にしゃがみこんだ。
本当は椅子に座れれば一番良かったんだけど、近くに休めるスペースは見当たらない。
「ねぇ、そんな所で蹲って、気分でも悪いの?」
深々とため息をついた瞬間、誰かの声が聞えて思わず顔を上げる。
いや、多分、俺に声を掛けたんじゃないと思うんだけど、一応もしもって事があるし、こんな所で座り込んでるのなんて俺しか居ないから……。
顔を上げた先には、2人連れの青年が俺の事を見下ろしていた。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
顔を上げた俺に、心配そうに更に声が掛けられる。
「あっ、えっと、大丈夫です」
見ず知らずの俺なんかを心配している相手に、ちょっとだけ驚きながらも、返事を返す。
「本当?無理しない方がいいよ。休憩できる所まで、連れてってあげようか?」
大丈夫だと返したのにその二人の青年は、更に俺に近付いてきて心配そうに問い掛けてくる。
「いえ、本当に大丈夫ですから……心配してくれて、有難うございます」
親切にも休憩所まで送ってくれると言うのを、やんわりと断って、心配してくれた事にお礼を言う。
「遠慮なんかしなくていいんだよ。君みたいに可愛い子が困ってるんなら、手を貸すのが男として当然の事だからね」
親切な人達だなぁと、心の中で感心していた俺の耳に、遠慮なく言われたその言葉で、全てを理解しました。
この人達は、俺の性別を間違えている。確かに女物の服を着ている俺が悪いかもしれないんだけど、男か女かの区別ぐらいはキチンとして下さい。
しかも、俺にとって、一番言われたくない言葉を言ってくれちゃいましたね。
「遠慮じゃないですから、俺は、本当に大丈夫なんで!」
スクッと立ち上がって、二人から離れようと歩き出す。
俺って言ったから、これ以上付き纏われる事はないだろう。
「あれ?そんなに可愛いのに、『俺』なんて言ってるんだ。でも、それも可愛いね」
って、歩き出した俺に付いてきながら、またしても言われたその言葉。
何で付いて来るんだよ!!俺は、速く歩く事なんて出来ないから、二人を引き離す事は出来ない。
本当なら、走り出してしまいたいのに、俺の足ではそんな事出来るはずもなく、心の中で『誰が可愛いだぁ!!!』と文句を言っても、相手に聞えるはずもないだろう。
「残念だけど、俺は男なんで、そんな親切な押し売りしなくっても大丈夫だらか!」
だから、俺に言えるのは、それぐらいである。
ここまではっきり言えば、相手も諦めて離れてくれるだろうと思ったのに……。
「男でも、君ぐらい可愛ければ、OKだよ」
って、何がOKなんだ!!!!!!!
いや、全然OKじゃないから!マジで!!!
言いながら腕を捕まれて、ゾワリと鳥肌がたった。
本気で、気持ち悪い。両側から人の腕を掴んでいるこいつ等が、マジで気持ち悪くって俺は正直泣きそうになってしまった。
「!」
腕を振り解きたいのにそれも出来そうになくって、本気で泣き出してしまいそうになった瞬間、名前を呼ばれて腕を掴んでいた手が強引に離され、俺自身は誰かに抱き寄せられてしまう。
「何するんだ!」
「何するって言いたいのは、こっちの方だけど」
驚いて居る俺には気付かずに、俺の腕を掴んでいた二人が突然現れた相手に文句を言おうと睨み付けるが、それは、俺を抱き締めている相手に逆に睨まれて言葉をなくしてしまった。
相手を射抜くように睨み付けた上に、更に殺気まで相手に送って居るのだから、向けられた相手はたまったもんじゃない。一般人には、ツナの殺気は本気で恐ろしいものだ。
案の上、二人組みは本気で、情けないと言う程に一目散に逃げていく。
その後姿を見送って、俺は自分を抱き寄せて居る相手を見上げる。
「ツナ」
安心できる腕の中なのに、見上げた先には少し怒ったような視線がありました。
「何で直ぐに連絡しなかったの?!」
そして、予想通りの言葉が返って来る。
いや、連絡しようとしたんだけど、出来なかったんです。なんて、ツナ相手に言える筈もなく、俺は何も居えずに困ったようにツナを見た。
「電話しても、電源切られてるし……探し当てたと思ったら、予想通り絡まれてるし、本当に心配したんだからね!」
「う〜っ、ごめんなさい……」
その後も続けられる言葉に、俺は素直に謝罪する。
だって、心配掛けてしまった事は、本当に悪いと思うのだ。
「顔色悪いけど、何かあった?」
素直に謝罪した俺に、ツナはため息をつくと心配そうに俺を見ての質問。
ジッと見詰めてくるツナの視線を前に、俺は一瞬言葉に困った。
ここで正直に言おうものなら、長々と説教が待っているだろう。だが、嘘を言えば、バレてしまった時、もっと酷く怒られる。
2択を迫られて、俺は素直に理由を話す事を選択。だって、バレた時の方が、数倍も恐ろしいから……。
「……えっと、足を酷使しました…………」
それでも、言うのにはかなりの勇気を必要としました。だって、怒られるのは、分かっていたから……
「一体、何やってたの!!」
俺の言葉に返されたのは、ツナの絶叫でした。
その時、周りの視線が痛かったです。う〜っ、ここがデパートだって事、本気で忘れてませんか、お兄様。
「ツ、ツナ!説教は家に帰ってから聞くから、ここで言うのは止めて……」
周りの視線が痛くって、必死でツナに言えば、深々とため息をつかれてしまう。
「分かった。とりあえず、どっかで座らないとだね……獄寺には、後で連絡すればいいか……」
俺の必死の言葉にツナはため息一つで何とか許してくれました。そして、言われた言葉に、俺は辺りを見回す。
そう言えば、獄寺くんの姿が見えないんだけど……。
「ツナ、獄寺くんは?」
「が居ないのに気付いて、そのまま置いて来た」
って、貴方は、そのまま置いて来たんですか?いや、普通に獄寺くんが可愛そうなんですけど……逸れた俺が原因だから、本気で申し訳ないんですが………。
「ツ、ツナ……早く、連絡した方が……」
「その前に、どこかで休憩する方が先だよ」
きっと今頃ツナを探しているだろう獄寺くんが気の毒で、ツナに訴えれば、きっぱりと俺の休憩の方が優先されてしまいました。
うん、それは非常に有難いとは思うんだけど、移動中でもいいから連絡してあげてください、マジで!
「」
名前を呼ばれた瞬間、軽々と抱き上げられてしまう。
「うぎゃ〜っ、ちょ、ツ、ツナ!」
お姫様抱っこじゃないけど、コレはコレで恥ずかしい抱え上げ状態で歩き出したツナに、俺は思わず声を上げてしまった。
だって、こんな事予想してない行動だったから………。
「、耳元で叫ばないでね。あんまり離れてないところに喫茶店があったから、そこまでだよ」
って、そこまででもめちゃめちゃ恥ずかしいです!!周りの視線が集中してます。俺、小さい子供じゃないんですけど!!
「ツ、ツナ、俺、歩ける」
「聞く耳持たない。帰ってからオレの説教聞きたくなかったら、大人しくしててね」
必死で訴えた俺の言葉は、空しく却下されてしまった。しかも、説教を盾にされてしまえば、それ以上何も言える筈もないだろう。
俺に残されているのは、大人しくしている事ぐらいだ。
救いだったのはツナの言うように、喫茶店が近くにあった事。
これが、離れた所にあったとしたら、俺は羞恥でもう二度とここに来れなくなってしまうところだった。
喫茶店の中に入って、俺を椅子に座らせると、ツナは漸く携帯を取り出して、獄寺くんに電話を掛ける。
店の人がお水を持って来て注文を聞いてくるのに俺は『もう少し待ってください』と返せば、店員が頭を下げて離れていく。それをボンヤリと運ばれてきたお水を飲みながら、見送ってから、ツナへと視線を戻した。
ツナは獄寺くんに一言二言言ってから、そのまま電話を切ってしまう。
「もう、いいの?」
余りにも早いそれに俺が心配そうに聞き返せば、携帯をポケットに入れながらツナが俺を見た。
「うん、ここの場所は言ったから、直ぐ来ると思う」
俺の質問に、ツナはあっさりと返事を返してくれる。その表情は、何て言うか、複雑そうだ。
きっと、獄寺くんに電話口で泣き付かれたのだろう、なので、急いで電話を切ったと言うところ……。きっと、直ぐに獄寺くんはここに飛び込んでくることだろう。
「、足見せて」
その状況がアリアリと想像出来てしまって思わず苦笑を零した俺に、ツナが隣の席に移動してきて言われた言葉に思わず慌ててしまった。
「ツ、ツナ、ここじゃ不味いって!」
「不味くないよ。今オレに見せた方が、楽になれるのは分かってるよね?」
本気で焦って居る俺とは反対に、ツナは至って冷静だ。
確かに、かなり痛む足だけど、マッサージをすれば確実にマシになる事は分かっている。
そんでもって、ツナのマッサージは適切で俺に合っているのだ。下手すりゃ、病院でマッサージしてもらうよりも、気持ちいい。
でも、だからって、喫茶店の中でマッサージしてもらうのもどうかと思うんですが……。
「えっと、取り合えず飲み物頼んで、ゆっくりすれば大丈夫だと思うんだけど……」
「それだけ顔色悪くして、何言ってるの!これ以上無茶したら、病院行きは確定だからね」
なので、俺に言えたのはそれぐらいなのに、キッパリとダメ出しを食らってしまいました。
う〜っ、否定出来ないんだけど、ここで恥ずかしい思いをするよりは、病院行く方がマシだと言ったら、ツナに怒られそうなんですけど
「10代目!」
本気で困っていた俺の耳に、最近嫌って程聞きなれてしまった声が聞えてきて、そちらへと顔を向ける。
「えっと、獄寺くんも来たから、ここは大人しくお茶しようよ」
「ダメ!獄寺、飲み物の注文お願いしてもいい?オレは、アイスコーヒーではアイスミルクティ」
「はい、分かりました!」
やっぱり、ダメだしを食らってしまいました。そして、来た早々に獄寺くんは使われちゃってます。
まぁ、ツナに使われるのは嬉しそうなので別にいいかもしれないんだけど……。獄寺くん、自分の分の注文忘れちゃいそうだよね……。
「」
なんて、ちょっとだけ現実逃避していた俺の耳に、真剣に名前を呼ぶツナの声が聞えてきて視線をそちらへと向ける。
向けてちょっとだけ後悔してしまった、ジッと俺を見詰めるツナの瞳を見てしまうと逆らう事なんて出来る筈がない。
「……分かった!でも、そんなに酷くないんだからな!」
自分なりの強がりの言葉を伝えて、素直にツナの方に向きを変え右足をツナの膝の上に乗せる。
精一杯の強がりに、優しく微笑んでツナがしっかりと俺の足を両手で支えた。
「分かってるよ。でも、痛いのを我慢しなくっていいんだって、何時も言ってるよね?」
「うっ、だからそれは!つっ!!」
支えながら優しく俺の足を撫でて確認するように言われたそれに言葉を返そうとした瞬間、足に激痛が走って言葉を続ける事が出来なくなる。
絶対、分かっててやってるんだ、ツナの場合。
「ほら、静かにしないとまた注目の的になっちゃうよ」
言いながら、ツナの手がゆっくりと俺の足を擦っていく。
うっ、本気で気持ちいいんですけど……何で、こんなにマッサージ旨くなっちゃたんですか、ツナさん!
「10代目、注文の商品お持ちしました!って、何やってるんですか?!」
ツナのマッサージを受けて、少しだけトローンとしていた意識が、戻って来た獄寺くんの声で引き戻される。
って、何で獄寺くんが運んでくるんだ?
「何って、マッサージしてるんだよ。が右足弱いのは知ってるよね?ちょっと無理したみたいだから応急処置」
驚いて居る獄寺くんに、全く興味なさそうに、ツナの手は全然止まりません。
う〜っ、優しく擦られるその手が、気持ちいいと思ってしまうのは、俺ってばやばいのか?
「って、何で10代目が!」
うん、俺もそう思う。自分でも出来ない事はない筈なんですが、ツナさんに逆らうことが出来ませんでした。
って、心の中で獄寺くんに答えてみても、聞えるはずはない。
でも、口に出して言う事なんて出来ないのは、ツナさんが恐いから……
「オレがしたいからに決まってるでしょう」
って、決まってるんですか?!
キッパリと返された言葉に、思いっ切り突っ込んでしまいました。
いや、だって、自分がしたいからって、そんな理由……。
面倒だろうし、俺の足なんて触ってもなんもいい事なんてないと思うんですが?
「えっと、10代目…」
「もう少しで終わるから、待ててくれる?」
それでも何とか言葉を続けようとする獄寺くんに、ツナがさり気無く口を開くけど、俺には『邪魔するな!』って、聞えたんですけど……。
ツナにそう言われて、獄寺くんは何も言えなくなって、口を噤んでしまう。
うん、それが賢明な判断だと思います。
「マッサージされてる時のって、本当に可愛いよね」
俺も大人しくツナのマッサージが終わるのをジッと待つ。でも、やっぱり気持ち良くって、眠くなって来るんだよな、ツナのマッサージって……。
ボンヤリとツナの手の動きを見ていた俺の耳に、ツナが何かを言ったのが聞えて思わず首を傾げた。
ボンヤリしていたのと、ツナの呟きが余りにも小さかったから
「ツナ?何か言った?」
「うん、の眼鏡の外してる姿って久し振りに見たなぁって……やっぱりオレは、眼鏡外してる方が好きだよって言ったんだよ」
って、そんなに長かったか??もうちょっと短かったような気がするんだけど……。
「俺が眼鏡してる理由知ってるのに、そんな事言うな!」
「知ってるからこそ、外して欲しいな」
「絶対ヤダ!」
キッパリと返事を返した俺に、ツナが苦笑を零す。
「って、こいつが眼鏡してる理由って、目が悪いからじゃないんですか?」
俺とツナの会話を聞いて、獄寺くんがここで話しに加わってくる。
って、獄寺くん朝の会話聞いてなかったのか?俺の眼鏡は伊達眼鏡って言ったはずなんだけど……。
「はい、取り合えずお仕舞い。後は、家に戻ってからだね」
「あっ、うん、有難う、ツナ」
獄寺くんの質問を無視して、ツナが俺の右足をゆっくりと下に下ろす。
そして、言われたその言葉に、俺は素直にお礼を言った。
ああ、かなり右足の痛みが引いているのが良く分かる。
「えっと、の眼鏡の話だったよね。朝も言ったけど、の眼鏡は伊達だよ」
お礼の言葉に『どう致しまして』と返してから、ツナが獄寺くんに向き直って、質問に答えた。
「ああ、そう言えばそんな事言ってたような……」
って、一応は記憶にはあるんだ。
大体、目が悪い人間が眼鏡無しでここまで来る方が可笑しいと思うんだけど……
「はね、良く見ると右眼と左眼の色が左右で違うんだよ」
って、何優雅にコーヒー飲みながら人が気にしてる事をサラッとばらしちゃってるんですか、あんたは!!
「ツナ!」
言われたくない事を口にしたツナに、俺は咎めるようにその名前を呼ぶ。
「は気にし過ぎるんだよ。オレはの目好きなのに……」
「ツナが好きでも、俺は好きじゃないんだよ!」
この眼のお陰で、小さい頃は良く苛められた。
勿論、そんな相手はツナが逆に返り討ちにしてくれたけど、それは俺にとって2つ目のトラウマになっている。
「そう、だったんですか……でも、そんな風には見えないんですけど…」
ツナの説明に、じーっと俺を見詰めてくる獄寺くんの視線から逃れるように下を向く。
「理由は話しても、獄寺にを見られるのは嫌だな」
下を向いた俺に、ツナが横から俺の頭を抱き込んできた。
「ツ、ツナ!」
突然の事にそのままツナの腕に頭を抱え込まれてしまう。
でも、これなら、獄寺くんに俺の顔は見られない。
「10代目〜っ」
そんなツナに獄寺くんの情けない声が聞えてきて、思わずちょっとだけ笑ってしまった。
ああ、そうか、ツナは獄寺くんを信じて俺の事を話たんだろう。そうじゃなきゃ、絶対に俺の気にしている事を口にする事はないから……。
確かに、俺は気にし過ぎかもしれない。だって、獄寺くんはツナを慕っている相手なのだから、俺を傷付ける事はしない、と思う……うん、自信ないけど、嫌がらせとかされた事はないから、きっと大丈夫だろう。
こうして、例え少ない人だとしても、俺の事を知ってくれる人がどんどん増えていけば、眼鏡無しで居られるようになるかもしれない。
「おまえら、何こんな所で寛いでやがる」
ちょっとだけ自分に自信を持ちかけていた俺の耳に、信じられない声が聞えてきて、思わずツナから慌てて離れた。
「リボーン!」
「オレの分のコーヒーも頼んで来い、獄寺」
「はい!」
ツナから離れたオレが見たのは、獄寺くんの隣の席に当たり前のように座っているリボーンの姿。
リボーンに命令されて、獄寺くんが慌てて立ち上がり厨房の方へと走っていく。
「何で、リボーンがここに?」
確か、俺の部屋で昼寝してるんじゃなかったっけ?
「アレからどれぐらいの時間が過ぎてると思ってんだ。だから、お前はダメダメなんだぞ」
「いや、それ、質問に答えてないから!」
確かに、心の中の質問には答えてるけど、口に出した質問に答えてないです!
俺がダメダメなのは認めるけど……。
「目が覚めたら、おまえ達が居なかったからな、暇だったから探してやったんだぞ」
って、暇だったから探してたんですか?
そんでもって、ここが分かったのが凄いんですけど……まぁ、それはリボーンだから納得できるんだけどね。
何時ものように心の中で突っ込んで、でも結局リボーンだからと言う理由で納得して俺は獄寺くんが運んでくれたアイスミルクティを口にした。
ああ、冷たい潤いが……一口飲んで、自分の喉が乾いていたのだと初めて気付く。
「で、本当の理由は?」
「なんのことだ」
ほっと息をついた瞬間、ツナが訝しげな視線をリボーンへと向けて質問。それにリボーンは惚けたように返事を返した。
えっと、暇だからここに来たって先言ってたと思うんですけど、どうやらツナはその言葉では納得出来ないようだ。
「お、お待たせしました、リボーンさん!」
ツナがリボーンを睨みつける中、またしても店員じゃなく獄寺くんが直接リボーンの注文品を持ってくる。
えっと、獄寺くん自分の分は?
獄寺くんが持ってきたそれを当然のように受け取って、リボーンが一息つく。
「ご、獄寺くん、自分の分は?」
そんなリボーンを横目に、リボーンの隣に恐る恐る座った獄寺くんにこっそりと質問。
だって、走ったりしてたんだから、喉か乾いてると思うんだけど……。
「俺は、別にいいんだよ!そんな事より、10代目にご迷惑掛けないようにお前はしっかりと休んどけよ!」
心配して言ったのに、冷たく返されてしまいました。
でもそんな言い方しているけど、俺の事を心配してくれてるのだと言う事だけは分かる。
だって、獄寺くんの顔がちょっとだけ赤くなっていたから……。
こうして、俺は誰かの優しい気持ちを知る事が出来るようになった。
きっと、ツナだけに依存していた時には気付けなかっただろう。
「うん、有難う」
だから、素直にお礼が言える。
「お前の為じゃねーかんな!」
「うん、分かってるけどね。心配してくれたから……」
心配されるのは、好きじゃなかった。
だけど、それは、自分の事を大切だと思っている事を知ったから、素直にその心を受け取る事が出来る。
「……獄寺も、要注意だね……」
ボソリと隣で呟かれた言葉が聞えなくって、思わず隣に居るツナへと視線を向ければ、何故か獄寺くんを睨んでました。
えっと、何で、ツナは獄寺くんの事を睨んでいるんだ?
「10代目、これはその、違うんです!」
ツナに睨まれて、獄寺くんは弁解するように否定する。って、獄寺くんにはツナが何を言ったのか聞えたのか?隣に居た俺には聞えなかったのに……。
「何が、違うんだ?」
「ん〜っ、には分からない事だよ……それじゃ、ここでもう少し休憩したら、どうする?」
「疲れたから、帰りたい…」
久し振りに出掛けて、本気で疲れた。
知らない奴には絡まれるし、右足は酷使しちゃうしで、イイ事無しだ。
「そう、それじゃもう帰ろうか」
俺の言葉に、ツナが同意してくれる。
でも、獄寺くんの買い物って終わってるのか?ここに来て、何か買ってたの見てないんですけど……
「でも、獄寺くんの買い物……」
「それはまた今度でいいんじゃない。その時は、山本も一緒に。それでいいよね、獄寺」
にっこりと笑顔で聞いているのに、否と言えない迫力があるように思えるのは気の所為でしょうか?
ああ、本当に俺が一緒に来たばっかりに、獄寺くんに悪い事したかも……ごめんなさい。
ツナの言葉に大きく頷く獄寺くんの姿を見て、心の中で謝る。
「なんだ、もう帰るのか?だったら、デパートの前の公園を見て行け、面白いモノが見れるぞ」
帰る事が決まったら、リボーンがニヤリと笑って一つの提案。
えっと、デパートの前の公園って、何かやってたっけ?そんなお知らせ見なかったんだけど……。
「なるほどね……お前が来た理由分かったよ」
それは、どう言う意味ですか?
リボーンの言葉に納得しているツナが居るけど、俺にはさっぱり分かりません。
お願いだから、二人で分かり合うのは止めてください。師と弟子だからって、何でそんなに心が通じ合ってるんですか、あなた達は!
「それじゃ、折角だからそれを見て帰ろうか」
って、爽やかな笑顔で言われたそれに、俺はただコクコクと頷いて返す事しか出来なかった。
だって、どう見ても問いただせる雰囲気ではなかったから……
それから、言われた通り公園に行った俺達が見たのは、どこかで見た事があるような二人の青年がパフォーマンスしている姿でした。
えっと、でもあのパフォーマンスって、一歩間違うと危ないと思うんだけど……。
「人のモノに手を出すから、そんな目に合うんだよ」
必死の形相のパフォーマンスを見せている二人に、ツナが冷たく言い放った言葉の意味が分かりません。
何だか、やりたくないって言うような顔だけが印象的なパフォーマンスは、周りの人達もハラハラと見守っている。
「まぁ、馴れ馴れしくした報いだな」
って、リボーンまでも意味の分からない事を言ってるんですが、誰か止めてあげる人は居ないんだろうか?
涙目になってるんだけど、二人とも……。
「行こうか、」
本気で心配してそれを見ていた俺に、ニッコリと笑顔でツナが手を差し延べてきた。
「えっと、あれって……」
「が気にする事ないよ。止めたかったら、自分達で止めるだろうしね」
いや、どう見ても本人達だけじゃ止められそうにないと思うんだけど……。
ちょっとでも動いたら、ナイフが顔に落ちてきそうだぞ、あれって!
「心配する必要はねーぞ。その内警察が来て止めさせるだろうからな」
まぁ、確かに危険だから、誰かが通報しそうだよな。それにしても、何であんな危険なパフォーマンスを……。
「あ、あれって、もしかして……」
「言うんじゃねーぞ、バカ寺!」
って、何か声が聞こえてきたんだけど、何のことだろう?
「それじゃ、早く帰ってちゃんとのマッサージしてあげるからね」
「って、何でそんなに嬉しそうなの?!」
意味が分からずに首を傾げていた俺の耳に、そっと顔を近付けてボソリと言われた言葉に顔が真っ赤になって声を荒げて返してしまう。
「そんなの、の足に触れるからに決まってるよ」
いや、ちょっと待ってください、何でそんな理由で喜ぶんですか?
何か、変態臭いんですけど……
俺の足触っても何もイイ事ありませんから!
「それにね、マッサージしてる時のの顔が好きだから……」
って、さり気に何言っちゃってるんですか、お兄様!!
「ツナ!」
「本当、のトラウマ全部消えちゃえばいいのにね。そしたら、幾らでもオレが思ってる事をに言えるのに……」
俺のトラウマ?
「ツナ?」
文句を言うように名前を言えば、何処か寂しそうなツナの表情があって、俺はそっとツナの名前を呼ぶ。
それに、ツナはただ優しく微笑んだ。
「何でもないよ。でもね、心の中では、ずっと言い続けてるから……が素直に、その言葉を聞けるようになるまで、後ちょとだろうしね」
満足そうに言われる言葉の意味が分かりません。
えっと、一体ツナは俺に何て言いたいんだろう?
俺が、トラウマになってる事はって言えば、『可愛い』と言われる事と、自分の目の事……。
実は、自分で気付いてないだけで他にもあるのだろうか?
「だから、早く認めて……自分の心を……」
ギュッと握っていた手に力が込められる。そして、祈るように言われた言葉。
認める?俺の心を??
「何の事……」
「今はまだ分からないかもしれないけど、遠くない未来に……」
先を見詰めるツナの瞳に、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。
俺の心の中にある思い。
それは、まだまだ無自覚なものだった。
ツナの言う通り、俺はその心を認める事になる。
遠くない未来に………