ブラケットに包まっている子供を見てから、何故か10代目の表情が複雑なものになる。
どうして10代目がそんな表情をされるのかが分からなくて、もう一度眠っている子供へと視線を向けた。
銀髪であるオレの髪よりも、白銀と言ってもいいだろう頭がブラケットから少しだけ覗いている。
その顔は、ブラケットの中に隠されていて、今は見る事は出来ない。
あのルビーのような赤い瞳も、当然今は隠されている。
10代目のお邪魔になってはと思い、部屋に連れて行こうとしたが、首を振る事で拒否されてしまった。
無理強いする事は出来ないので、仕方なくその場に居る事を許していたのだが、このガキは本気で気配が薄く、存在を忘れる程大人しい。
オレが知っているガキと言えば、あのアホウシで、煩くてウザイとしか思えなかったが、このガキは大人し過ぎだ。
手伝いの書類を終わらせて顔を上げるまで、オレはその存在を忘れていたぐらいだ。
だから、ボンヤリと窓の外を見ている子供が目の前に居た時はかなり驚いたのは誰にも言えねぇ。
仕事柄、気配には敏感であると思える自分でさえも、目の前に居ると分かっているのにガキの気配はほとんど感じられない。
それは、あの腐りきった施設で、このガキが必死で生きて来た証だ。
出来るだけ息を殺して、腐った大人達からその身を守る術としていたのだろう。
床で寝る事を咎めても、聞き入れなかったのも同じだ。
こいつにとって床で寝るのは、それが当たり前の事なのだろう。
リボーンさんに『好きにさせろ』と言われたから、不本意ながらもガキが床で寝るのを許してしまったのはそんな当たり前の事に気付いたからだ。
だが、流石に空調管理がしっかりしているこの部屋でそのまま寝かして置く訳にはいかないと思い、ブラケットを掛けてやろうと近付けば目を覚まして警戒したように、見詰めてくる赤い瞳。
それにどうすればいいのか分からなくて距離を取れば、また子供は眠りに付く。
ブラケットを持ったまま困っていれば、リボーンさんがオレの代わりに子供にブラケットを掛けてくれた。
オレでは目を覚ましたがリボーンさんが近付いても、子供は起きる事はない。
オレには警戒しているのに、リボーンさんには心を許していると言う事だろうか?
「お前等勘違いしているようだから言って置くが、雪にオレが近付いても起きないのは警戒してないからじゃねぇぞ」
「えっ?」
オレが考えていた事に、リボーンさんが呆れたようにそれを否定する。
その言葉に、10代目が驚いたような表情でリボーンさんを見た。
「オレの気配を雪が認識出来てねぇんだ」
「リボーンの気配を、雪が認識出来てない?」
「そうだ。お前等が未熟なだけだな」
オレが入れたエスプレッソを飲みながら言われたその言葉が、グサリと刺さる。
リボーンさんが言っているのは、このガキにオレの気配を読まれているから警戒されると言っているのだ。
確かに、リボーンさんは世界一のヒットマン。
この子供に気配を悟られずに近付く事は容易いだろう。
だが、そう考えれば、オレの気配はこのガキに警戒を抱かせるほど駄々漏れと言う事になるのだ。
「ああ、そうか。そう言われれば、納得出来るね」
自分が未熟だと言われた事にショックを受けていたオレは、少しだけ明るい表情で言われた10代目の言葉に首を傾げてしまう。
「10代目?」
「いや、オレも、隼人と同じで、近付いたら警戒されていたからね」
不思議に思って声を掛ければ、苦笑交じりの言葉が返ってきた。
って事は、この子供は心配りをして下さっている10代目にさえ警戒していたって言うのか?!
あんなに、可愛がって頂いているのに、なんて恩知らずな奴だ!!!
「10代目に失礼な事をするなんて!このオレが許してはおけません!!」
「隼人、煩くすると雪が起きるから、静かにしてくれる?」
「は、はい!すみません!!」
眠っている子供を叩き起こすほどの勢いで言ったオレの言葉に、ニッコリと笑顔で言われた言葉に頭を下げて謝罪したのは、その笑顔が怖かったからじゃないからな!