リボーンに(セツ)を取り上げられたくないからと、黙々と書類を片付ける事に専念していた。
なのに、すっかり忘れていたのだ、取り上げたくないと思ったその存在を……

「終わった」

最後の書類を束の一番上に乗せて、大きく伸びをする。
今日中に終わらせるのは無理だろうと思っていた書類は、リボーンと隼人に手伝ってもらったお陰で何とかなった。

これで溜まっていた書類は全て片付いたので、明日からは通常の書類量に戻るだろう。

まぁ、書類が溜まったのは、自分の所為でも在るから、誰にも文句は言えないけどね。
でも、そのお陰で、オレは雪を助ける事だ出来たのだから、意味はあるだろう。

「漸く終わったのか?」

オレが呟いたその言葉に、呆れたような声が聞こえてくる。
その声に視線を向ければ、優雅にエスプレッソを飲むリボーンの姿が……

てっきり書類を片付けるのを手伝ってくれているものだと思っていたのに、どうやらかなり前にそれは放棄されていたらしい。

「リボーン、手伝ってくれてたんじゃなかったのか?」
「手伝ってやったぞ。勿論な」

それに対してオレが文句を言えば、興味がないと言うような返事が返ってくる。
確かに、手伝っていたのかもしれないが、それは最初だけだったんじゃないだろうかと思えるのは、仕方ないだろう。

「10代目、お疲れ様です」

腑に落ちないリボーンの言葉に、相手を睨んでいると隼人がお茶を準備して運んできた。
隼人の姿が見当たらなかったのは、そんな理由からだろう。

最後に残っていたのは、ボスである自分にしか確認できないような書類なのだから、手伝うのが無理だと言うのは分かっているのだが、人が頑張って仕事している傍で寛いでいたのかと思うと、面白くないと思うのは仕方ないだろう。

「有難う」

それでも、何とか自分の気持ちを落ち着かせて、隼人が持ってきてくれた紅茶を貰う。
砂糖とミルクの入ったそれは、疲れた心に染み渡った。

紅茶のお陰で一息ついたオレは、そこで漸く雪の存在を思い出す。

「そう言えば、雪は?」

書類に集中する前まで居た場所へと視線を向けるが、その姿を見付ける事が出来なくて、質問する。

「雪なら、そこに居るぞ」

オレの質問に対して、リボーンが指を挿した方へと視線を向ければ、床に小さな白い塊を見付けた。

「止めたんですけど、聞かなくて……すみません、一応ブラケットは掛けておいたんですが……」

白い塊は、ブラケットに丸まるように床で眠っている、雪。
それをちょっと驚いた表情で見ているオレに気付いた隼人が、申し訳なさそうに謝罪してくるのに、首を振って返す。

「昨日も、床で寝ていたから、今更驚かないよ。それにしても、良くブラケットに大人しく納まったね」
「あっ、それはリボーンさんが……」

昨夜も、床に寝ていたから、それに対しては驚いたりはしないのだが、シーツを掛けても、こんな風に包まったりはしなかった。
なのに、今は白いブラケットにその身を包んで眠っている。

「何だ、そのまま放置した方が良かったのか?」

どこか警戒心が解けているように見えるその姿を見て、複雑な表情をしたオレに気付いたのだろうリボーンがからかうように質問してくる。

「そんな事思う訳ないだろう……ただ……」

自分にはあんなにも警戒していたのに、リボーンに対して気を許していた事が、気に入らないだけだ。
そう続きそうになったその言葉を、オレはただ黙って飲み込む。

それを口に出しても、今のオレには、どうしてそう思ったのかが、分からなかったから