「手伝ってもらって、ごめんね」
「いえ、10代目のお役に立てる事がオレの喜びですから!」
リボーンに言われて早速隼人を呼び出して書類整理を手伝ってもらう。
呼び出した事に対して謝罪すれば、満面の笑みで返される言葉。
本当に、こう言う所は、昔から全く変わっていない。
「んな事言ってねぇで、手を動かしやがれ!」
そんな隼人に思わず笑ってしまった自分に、リボーンの厳しい言葉が投げ掛けられる。
そう言うリボーンは、その手をしっかりと動かしているのだから、文句も言えない。
「はいはい……」
素直に返事を返して、小さくため息をつく。
雪が居たあの名ばかりの施設を襲撃するに当たって、書類が溜まってしまった事は否めない。
無理を言って押し切った襲撃だった。
だが、それが間違っていなかったと、そう思いたい。
素直に手を動かしながら、ふと視線を雪へと向けた。
隼人が部屋に入ってきた事で、少しだけ緊張していたようだが、今はそれも落ち着いたのか何時ものように視線を窓の外へと向けている。
やはり、その顔に表情と呼べるモノはない。
「そう言えば、あいつの名前は決まったのですか?」
オレの視線に気付いたのか、隼人が質問してきたそれに、視線を雪から隼人へと移す。
「うん、決まったよ。雪って書いて『セツ』って言うんだ」
そして、ニッコリと笑顔で自分が決めた名前を隼人に教える。
自分で考えた名前だが、かなりいい名前を付けられたと思うのだ。
「雪ですか?さすが10代目!素敵な名前ですね」
満足気に言ったオレに、隼人が何時ものように感心したように返してくる。
こう言う所も変わらないよね、隼人は
そんな事を思いながら、もう一度雪に視線を向ける。
きっと窓の外を見ているんだろうと思っていたのだが、予想外な事に雪はこちらを見ていた。
何も写さない瞳が、真っ直ぐに自分を見詰めてくる。
それは、綺麗なルビーのような瞳。
自分を見詰めているその瞳に、オレはニッコリと笑顔を向けた。
笑みを見せれば、雪が分からないと言うように、コテリと首を傾げる。
それが微笑ましくて、また笑みが浮ぶ。
「10代目?」
ニコニコとした表情で雪を見ているオレに、隼人が不思議そうに声を掛けてくる。
雪も、オレが笑顔を浮かべて見ているから、視線を逸らさずにずっとこっちを見ている、余計に嬉しく思えてしまう。
「ダメツナ、さっさと仕事しやがれ!じゃねぇと、雪を取り上げるぞ」
そんな事を続けていたオレに、またしてもリボーンから厳しい言葉が掛けられた。
流石はオレの家庭教師と言うところか、雪を見る事でほのぼのとしていた気持ちは、しっかりと見透かされているようだ。
「はいはい、雪を取り上げられたくないから、しっかりと働くよ」
だからこそ、素直にそれに返事をして真剣に仕事を終わらせる為に手を動かす。
人に手伝ってもらっているのに、オレが怠ける訳にもいかないからね。
少しの間だけ、ほのぼのから程遠い殺伐とした書類を片付ける為に、意識を集中される。
この時、雪の事をそのまま執務室に置いていたのは、間違いだったのかもしれない。