オレが嬉しい事が嬉しいと言ってくれた雪に対して、礼を言えばじっと見詰めてくる瞳が向けられる。
真っ直ぐに見詰めてくる赤い瞳を、オレはやっぱり綺麗だと思った。
「オレもね、雪が嬉しいのが、嬉しいよ」
オレが嬉しい事が嬉しいと言ってくれたそれが、オレにはとても嬉しくて自然と笑顔になるのは止められない。
リボーンには、締りのない顔をするなって怒られそうだけど、今目の前に居る子供がこんなにも愛しいと感じている自分が居るから
「雪、抱き締めても、いい?」
だけど、気持ちのままに子供を抱き締める事は相手を怖がらせるだけだと分かっているから、そっと相手に確認をとる。
雪は、一瞬驚いたように瞳を見開いたけど、時間を置いてからコクリと頷いてくれた。
「有難う」
許可を貰えた事が嬉しくて、礼を言ってからそっとその体を抱き締める。
華奢な体は、オレが力を入れて抱き締めたら壊れてしまいそうで、細心の注意を払ってギュッと抱き締めた。
椅子に座っている雪を後ろから抱き締めるような形だけど、オレに抱き締められてじっと大人しくしている雪は、手に持っていたスプーンをテーブルに置いて手を握り締めている。
きっと、どうしていいのか分からないのだろう。
「有難う、雪」
困惑しているのが分かる雪に気付いて、オレはゆっくりとその体から離れた。
これ以上、雪を混乱させる訳にはいかないから
礼を言って離れたオレに、雪がフルフルと首を振って返してくる。
それだけで、オレの心がまた温かくなった。
マフィアのボスになってからは、感じた事のない温かな心。
この心は全部、この子供がオレに与えてくれているものだと分かる。
久し振りに感じた、愛しいと思う気持ち。
「・・・・・・・ありがとうは、じぶん、ことば・・・・・・つなよし、なまえ、ありがとう・・・・・だきしめて、ありがとう」
礼を言ったオレに、フルフルと首を振って返してきた雪が、必死に慣れない言葉を使って返事を返してくれた。
それは、多分、雪が言える精一杯の言葉だったのだろう。
上手く言葉にはなっていなかったけれど、十分に雪が何を言いたいのかは伝わってくる。
きっと、こんなにも言葉を口に出したのは初めてじゃないだろうか。
それが、自分に伝える為なのだと分かって、嬉しいかった。
そして、何よりも自分の気持ちを言葉にしてくれる事が本当に嬉しかったのだ。
「抱き締めたのは、オレが雪を愛しいと思ったからだよ。だから、お礼を言うのはオレの方」
だけど、最後に言われた礼の言葉に対して、その言葉は間違っていると言うように返せば、フルフルと首を振って返してくる。
「きみのわるいがき、だきしめる、つなよしだけ」
「違うよ!ここに居る皆は、君の事を・・・ううん、雪の事を気味が悪いなんて思っていないよ。皆、雪の事を綺麗だって、可愛いって言ってるんだからね」
そして続けて言われたその言葉に、今度はオレの方がそれを否定した。
そんな風に思っていたなんて、考えもしなかったのだ。
ずっと、あの施設で言われていた言葉は、雪の心を支配してしまっている。
それが、オレにとっては悲しかった。
そうじゃないのだと、言っても子供にとっては、言われ続けてきた言葉の方が確実に根付いてしまっているのだから
「オレも、武や雲雀さん、ここに居る皆、君の事を気味が悪いなんて思っていない。だって、雪の色は、綺麗な白と命の色なんだよ」
ギュッともう一度その体を抱き締めて、必死で根付いてしまったその言葉を否定する。
白は、何よりも一番に綺麗な色。
そして、赤は生きているモノにとって、なくてはならない色なのだから
「きれいな、しろ?いのちのいろ??」
オレがそう思う色のイメージ。
それは、間違いなく雪が持っている色。
そして、何よりもオレはこの色が好きだから