手渡されたスプーンと、目の前の顔を何度も見る。

仕事をしていない自分には、ご飯を食べる資格が無いと言ったら、目の前の人はご飯を食べる事が仕事だと言った。

でも、そうしたらやっぱり今日の自分は仕事をしていない事になるから、やっぱり食べちゃいけない事になる。
けど、食べる事が仕事なら、食べないとまた仕事をしない事になる訳で……悪循環。

どんなに考えても、正確な答えなんて出ない。

「たべる、しごと?」
「そうだよ。今日から、食べる事が君の仕事」

必死で考えて、確認するように恐る恐る口に出す。
そうすれば、目の前の人が笑ってもう一度同じ言葉を自分に返してくれた。

食べる事が、自分の仕事なのだと……

「でも、しごと、してない」
「違うよ、これを食べる事が今の君の仕事。だから、全部綺麗に食べようね」

だったらなおさら、自分は仕事をしてないと言うようにフルフルと首を振って言えば、優しい笑顔で返される。

それでも困惑して出されたスープに手を出せない状態の自分に、綱吉が先に動いた。

突然立ち上がって、自分の方へと近付いてくる。
それに、ビクリと無意識に体が震えた。

「焦らなくてもいいから、ゆっくりと食べてごらん」

だけど、身構えた程の衝撃はなく、逆に優しい手で頭を撫でられる。
一瞬何をされたのか分からずに、じっと目の前の人を見詰めた。

視線を向ければ、優しい笑顔が返される。

「ただし、残したら怒るからね」

そして続けられたのは、ウインク付きの言葉。
その顔からは怒ると言っているのに、優しい笑顔が絶えない。

だからこそ、おずおずとスープに手を伸ばした。
ちょっと冷めてしまったスープは薄味ながらもしっかりとした味で、心を暖かくしてくれる。

スープを飲んだ自分に、目の前の人がまたホッとしたように笑う。
安心したようなその顔を見て、漸く分かった。

ああ、この人は自分を心配してくれているのだと言う事を

「・・・・・・・ちゃんと、たべる、しごと、するから・・・・・・・」

それがわかったから、この優しい人を安心させるために精一杯の言葉を伝えた。
そうすれば、嬉しそうに笑ってくれる。

その笑顔は、いつも見ている空に似ているように思えた。
自由な友達が広いと言っていた、その大きな空に……

包んでくれるような、優しい大空だと、そう思えた。