子供にスープを差し出したら、不思議そうな顔をして自分の事を見上げてきた。

「暫くは、これが君の夕飯だよ。ちゃんと飲んで」
「ゆう、はん?」

不思議そうに見詰めてくる子供に、そう言ってスープの入ったカップを渡す。
自分の言葉に、子供がまた分からないと言うように首を傾げた。

「そう、夕飯。人はね、一日3食ご飯を食べるんだよ」

不思議そうに自分を見詰めてくる子供に頷いて、説明をする。
自分のその言葉に、また子供がコテリと首を傾げた。

「さんしょくも?」

そして、聞かされた内容に対して質問してくる。

「そうだよ。朝食に昼食、それから夕食の3食が基本」
「ちょおしょく、ちゅうしょく、ゆうしょく」

自分に質問してくる子供に、精一杯の説明をして返す。
自分が言ったその言葉を、小さく呟いて子供は分かったと言うようにコクリと頷く。

子供のその反応にホッと安心して、小さくため息をついた。

正直言って、何も分からない子供に何かを教える事がこんなにも大変な事だとは思ってもいなかったのだ。
この子供の頭がいいからこそ、何とかなっているのかもしれない。

そう思うと、リボーンが家庭教師を名乗り出てくれた事はいい事だったのかもしれないと思い始めた。
自分がこの子供に教えるよりも、自分の元家庭教師であった彼に頼む事が一番良い案かもしれない。
もっとも、彼のスパルタを考えれば、手放しで喜ぶ事が出来ないのだが

「…でも……」

考えに沈んでいた自分の耳に、子供の躊躇いを含んだ声が聞こえてきて我に返る。

「何?」
「……しょくじ、しごと、しないとたべる、だめ……」

不安気に出されているスープを見詰めている子供に、問い掛ければ返されたのはあの場所では当然とされていたのだろう内容。
それは、暗に自分は仕事をしていないから、食べる事は許されないと言っているのだ。

子供にとっての仕事とは、昨夜自分が無理やり止めさせた行為のことだろう。
昨日、仕事をしなかったからこそ、子供は今日一日何も食べようとしなかったのだ。

「…君は、ちゃんと仕事をしているんだよ」

そんな子供に対して、綱吉は困ったような表情を見せながらも、そっと笑みを浮かべてみせる。

「…しごと、してない……」

だが、綱吉のその言葉に、フルフルと首を横に振って子供が否定の言葉を返した。

「違うよ。君の仕事は、ちゃんと食べて生きる事なんだから」

そんな子供に、綱吉は優しく笑って言葉を伝える。

「だから、しっかりと食べなきゃね」

笑いながら言われたその言葉に、子供は不思議そうに綱吉を見上げた。
言われた言葉の意味が、良く理解できないと言うように

ああ、あんな場所だけど、この子は間違いなくあの場所に育てられたのだ。
だからこそ、こんなにも何も知らない。

当たり前の事さえも……

それを、自分はちゃんと教えて上げられるのだろうか?