外に視線を向けて、慌ててしまう。
そこに居たはずの子供の姿が、どこにも見当たらない。
「どこへ?!」
椅子から立ち上がり、窓の傍に移動して見える範囲はすべて見回すが、その姿を見付けることが出来なかった。
集中して、書類を片付けていた事が今更ながらに悔やまれる。
もしかしたら、武か隼人のどちらかが子供を屋敷の中に連れ戻したのかもしれないと考えるが、それなら自分の所に連れて来るはずだとその考えを消去した。
一瞬二人を呼んで確認しようかとも考えたのだが、事を大きくする訳にもいけないと、気持ちを落ち着かせる為に大きく息を吐き出す。
落ち着いた頭で考え付いたのは、ここで心配していても仕方ないと言う当然のものだった。
考え付いた内容に一人で頷いて、子供を捜す為に外に出ようと一歩踏み出した瞬間、ノックもなしにそのドアが誰かの手によって開かれる。
「ねぇ、引き取ったのなら、子供の面倒ぐらいちゃんと見なよ」
文句を言いながら部屋の中に入って来た相手は、守護者最強と謳われている雲の守護者・雲雀恭弥その人。
不機嫌な顔で入ってきたその人の手には、自分が探そうとしていた子供が抱えられている。
その子供を良く見れば、顔が真っ赤になっていて、呼吸も荒い。
「何があったんですか?!」
「軽い熱中症だよ。水分と塩分は取らせたから、後は体を冷やしてやるんだね」
それに気付いて、質問すれば状況の説明を簡潔に述べられる。
さらに、的確に処理した事を告げられて、ホッと息を吐いた。
「こんな炎天下に外に放置しておくなんて、監督不行き届きだよ」
ホッとした自分に対して、さらに雲雀が呆れたように続ける。
言われて始めて、気付いたそれに綱吉は改めて自分の愚かさを知った。
自分が居る部屋の中が涼しい為に、屋敷の外の温度などまったく気にもしていなかったのがすべての原因。
今の季節を考えれば、間単に分かる事なのに……
「すみません。確かにオレのミスです。雲雀さんが気付いて下さって助かりました」
珍しく雲雀からは慎重に、子供を引き渡されて慌ててソファへと寝かせる。
子供の顔は赤く、呼吸もまだ荒い。
そんな子供を心配そうに見詰めて、先程の雲雀の言葉を思い出して冷やす物を準備しようと立ち上がった瞬間、その考えを読んだかのようなタイミングで声が掛けられる。
「全部、哲に準備するように言ってあるから、すぐに持ってくると思うよ」
「……何から何まで、すみません」
「別に、君の為じゃない。僕は大人しい子供は嫌いじゃないからね」
自分がしようとしていたそれがしっかりと準備されている事に対して礼を言えば、少し照れているのか横を向きながら言葉が返された。
先程の優しい対応といい、どうやらこの子供は気難しいと言われている雲の守護者に気に入られているようだ。
ちょっとだけ驚かされたその事実を認めた瞬間、ノックの音が部屋の中に響き渡る。
それに対して慌てて返事を返せば、草壁が雲雀に言われたモノを手に部屋の中へと入って来た。
「草壁さん、ありがとうございます」
「いえ、恭さんに言われたものを準備しただけですから……その子は、大丈夫そうですか?」
持ってきたものを受け取って礼を言えば、心配そうに子供を見るリーゼントの男。
強面だが、この人が見た目よりもずっと優しいことを知っているからこそ、綱吉は思わず笑ってしまった。
「大丈夫だと思います。お風呂で逆上せて、同じような状態になったんですけど、直ぐに元に戻りましたから」
心配そうに質問されたそれに、昨日のことを思い出して問題ないだろうと判断を下す。
どうやら、暑いのに対しては体が慣れていないらしく、体温調節がうまく出来ないのだろう。
寒いのには慣れているのか、体を冷やしてあげれば直ぐに体温調節されるらしい。
それを証拠に、空調が整えられているこの部屋の中に入ってからは、子供の呼吸が少し落ち着いているのが分かる。
「恭さんが言うように、本当に白い子供ですね」
「ああ、雲雀さんから聞いてたんですか?」
氷水で冷やしたタオルを子供の首後ろに当てていた綱吉は、草壁の言葉に首を傾げた。
雲雀は、興味がないのか壁にその体を預けた状態で腕を組み、その目を閉じている。
「そうです。瞳の色が見られないのが残念ですね」
自分の問い掛けに残念そうに呟かれたそれに、思わず笑みをこぼす。
「ええ、本当に綺麗な瞳の色なんですよ」
「なにそこで親バカ炸裂しているの、哲、用事はすんだんだから戻るよ」
笑いながら自慢気に言われたその言葉に、興味なさそうだった雲雀が呆れたように会話に割り込んでくる。
「はい!では、沢田さん、今度からはちゃんと注意してあげて下さい」
「出来るだけ気を付けます。有難うございました」
そして、促すように草壁を呼び先に部屋から出て行く雲雀に、返事を返してから草壁も綱吉に声を掛けてその後を追うように部屋から出て行った。
そんな草壁の背中を見送ってから、思わず笑ってしまう。
「親バカ、かぁ……まさか雲雀さんに言われるとは思わなかった……」
言われた言葉を思い出して、眠っている子供の頭を優しく撫でる。
その時には、子供の呼吸がかなり落ち着いている事が分かって、ホッと息を吐き出した。
「君も、あんまり心配掛けないでね」
それを確認してからもう一度子供の頭を撫で、温まってしまっただろうタオルを冷やして今度は額に乗せる。
「さーてと、書類を進めないとリボーンに本気で殺されそうだな」
眠っている子供は大丈夫だと判断して、中断されてしまった仕事に戻る為に机へと向かった。