「ねぇ、そこで何してるの?」

買い物から戻って来て、綺麗な庭から動けなくなった自分に、誰かの声が掛けられて顔を上げる。
聞えて来た声は、自分の後ろから

声の方へと振り返って、首を傾げる。

「聞えなかったの?そこで、何してるの?」

首を傾げた事で、質問を聞き逃したのだと取ったのだろう相手が、再度不機嫌そうな声で質問してきた。

「なに、してる・・・・・・・・なにも、ただ、みてた・・・・・ここは、たくさんの、いろ、ある・・・・・・」

不機嫌な声が再度質問してきた内容を繰り返して、子供は一瞬考えるようにしてからまた視線を庭へと戻し、途切れ途切れの言葉で口を開く。

「…そう……でも、そんなところに突っ立っていたら熱中症になるよ」
「ねっちゅう、しょう?」

自分の質問に答えた子供に、声を掛けてきた男は小さくため息をつくと子供の顔にそっとその手を伸ばす。
聞いた事もない言葉に、子供が不思議そうにその言葉を繰り返す。

「顔が赤い。こんな炎天下に外に突っ立っているなんて、バカのする事だよ」
「・・・・ばか?・・・・・・えん、てんか・・・・・キョウヤ、すごいね」

赤くなっている子供の頬に手を伸ばして、呆れたように言われた言葉の後、子供が感心したように口を開く。
そして言われたのは、自分の名前。

それは、昨日綱吉が説明したからこそ知っているのだろう自分の名前だ。

だが、それをこの子供が覚えている事に驚きを隠せなかった。
一度の自己紹介で覚えているのだから、確かに、この子供は綱吉が言うように頭がいいのだろう。

「…すごくないよ。ほら、もう見るのはやめて屋敷に入りな。これ以上ここに居るのは体に良くないからね」
「・・・・・・ここ、いる、だめ?」

自分の何が凄いのか分からないが、それを否定してから子供に屋敷の中へと入るように促す。
だが返されたのは、否の言葉。

真っ直ぐに子供の赤い瞳が、恭弥を見詰めてくる。

その顔には感情と言うものは無い。

だが、子供が何を望んでいるのかは直ぐに分かった。

「ダメだよ。君、顔が赤くなってる。熱中症になりかかってる可能性が高いからね」
「・・・・・なんかね、ぽかぽか、してるの。きのう、つなよしと、おふろ、はいったときみたい・・・・・・キョウヤのて、きもちいいね」

自分を見上げて質問してきた子供の願いをあっさりと拒否して、ため息をつく。
それは、真っ赤な顔をしている子供を心配しての事。
だからこそ、言ったその言葉に対して、子供からとんでもない言葉が聞えてきた。
最後に言われた言葉は、頬に添えられている自分の手の感想。

「ちょっと!」

聞えてきた子供の言葉にギョッとした瞬間、クラリと子供の体が傾く。
それに気付いて、慌てて恭弥はその体を支えた。
支えた体は、自分が考えた以上に熱を持っているようだ。
一体、何時からこの炎天下の中立っていたと言うのだろうか

「…本当に、バカな子……」

荒い呼吸をしている子供に、呆れたように呟いて、その体を抱き上げ盛大なため息をつく。
抱き上げた体は、本当に軽くて、さらにため息が出てしまう。

ざっと子供の状態を確認して、軽い熱中症だと判断してから、そのまま子供を抱き上げた状態で屋敷の中へと入った。

今は、少しでも子供を冷やしてやるのが先決だと考えて