隼人と武は、もう部屋には居ない。
だけど、綱吉は先ほどの自分の気持ちを考えていた。
子供を可愛いと言った武の言葉に、モヤモヤとした自分の気持ちが理解できない。
「おい、ダメツナ!」
ボンヤリとしていたそんな中で、不機嫌な声に名前を呼ばれて我に返る。
視線を向けた先に立っているのは、不機嫌な表情をした自分の元家庭教師。
「リボーン」
「終ってねぇのに、なにのんびりしてやがるんだ?」
その相手の名前を呼べば、不機嫌な声が更に問い掛けてくる。
言われた内容に、ハッとすれば確かに隼人と武が戻ってきてからは全く書類の片付けが進んでいない状態。
「あっ!」
それに気付いて、綱吉は慌てて書類を手に取って作業を再開する。
「何だ?気になる事でもあったのか?」
そんな綱吉に対して、リボーンが珍しく心配そうな声で質問してくる。
まぁ、内心では、ソッチに気を取られて仕事がはかどらないのは困るというのが本音だろうが
「別に、何か気になる訳じゃ……」
だが綱吉は、そんなリボーンの問い掛けに、小さくため息をついて窓の外へと視線を向けた。
その視線の先にあるのは、今だ庭に立っている子供の姿。
「あのガキの事か?」
「いや、多分、気の所為だよ……ちゃんと仕事するから、心配しなくて大丈夫」
その視線に気付いたリボーンが再度問い掛けるが、それに対して小さく首を振ってから、また手元の書類へと視線を戻す。
そして、言われた言葉はまるで自分に言い聞かせるようなモノだったことに、きっとそれを呟いた本人は気付いていないだろう。
そんな綱吉に対して、リボーンは一瞬何かを考えるような素振りを見せる。
「ダメツナ」
そして、考えてから綱吉へと声を掛けた。
「何?」
「あいつの名前は考えたのか?」
名前を呼ばれた事で、綱吉は返事を返すもののその手は作業を続けている。
そして、質問されたそれに、視線を書類から外して小さくため息をついた。
「………まだ、だよ…流石に、人の名前になるんだから、安易には付けられないからね。もう少し考えてから付ける事にするよ」
それから、正直に今の状況を口に出す。
予想通りの答えだったのだろう、リボーンは素直に頷いた。
「…そうか……んじゃ、あいつの教育はオレに任せとけ」
「んっ、分かった……………って、何言ってるの?!そんな事許せる訳ないだろう!」
頷いた後にサラリと続けられたその言葉に、あっさりと頷いて綱吉は作業に戻ったが直ぐに言われた内容を理解して大声を上げてしまったのは仕方ないだろう。
「分かったんじゃねぇのか?」
「そんなの許可できる訳ないだろう!」
大声を上げた綱吉に対して、リボーンが不機嫌な声で問い掛けるが、それに対してキッパリと言葉を返してきた綱吉に対して、チッと舌打。
「だが、誰かが教育しねぇとダメだろうが、今のあいつは字も読めねぇし、言葉が少ないのも知らないからだぞ」
「分かってるよ。だけど、お前が教えなくても、オレが教えればいい事だろう」
「お前にそんな時間があるのか?ボンゴレ・10代目ボス」
だがそれだけでは諦めずに、更に言葉を続ける。
それに対して返してきた綱吉の言葉に、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたリボーンのそれにぐっと言葉を詰まらせたのは仕方ない事だろう。
確かに、今の綱吉には、あの子供に勉強を教えてやれるほどの時間など殆どない。
だが、自分とは反対に目の前のヒットマンはほぼフリーで行動している。
それは即ち、好きなように、時間を作る事が出来るという事なのだ。
「…………………無茶な教え方はしない。それが条件だから」
「了解、ボス」
こんな時だけ、ボスと呼ぶリボーンに対して、複雑な気持ちを拭えない。
これからの事を考えて、綱吉は深くため息をついた。
正直言って、面白くないと思うのは仕方ないだろう。
それは、先程武に対して感じたものに似ているかもしれない。
だが、その理由が分からずに、綱吉は考えを放棄すると仕事を再開した。