買い物を終えて戻って来た屋敷の庭が綺麗で、それに誘われるようにその足が止まる。
「どうしたんだ?」
それに気付いた武が、同じように足を止めて振り返り不思議そうに質問してきた。
だが、その質問に対して、何も答える事が出来ない。
「何してやがる!10代目をお待たせするんじゃねぇぞ!!」
そんな二人に気付いた隼人が不機嫌な声を上げるが、やはり子供はその場から動こうとしない。
「何か気になる事でもあるのか?」
そんな子供に対して、更に武が問い掛けてきた内容に、漸く子供が小さく首を振って返した。
だが、その視線は庭の景色に向けられていて、動く事はない。
「おい、何やってるんだ、さっさと戻るぞ」
「まぁまぁ、この子は別に居なくても問題ないんじゃないのか?オレ達だけでツナに報告しようぜ」
イライラとしているのが良く分かる隼人のそれに、武が慰めるように口を開く。
子供が何かに興味を惹かれたのであれば、自由にさせてあげたいと思うのが武の考えだ。
それは多分、この子供を引き取ると言った自分達の上司も同じだと、そう思うから
「けどなぁ」
「ツナも、そんな事で怒らないだろうし、ここはボンゴレの庭なんだから、問題はねぇって!」
それでも、何かを言いかけた隼人の言葉を遮って武が笑みを浮かべる。
確かに、言われているそれらには納得できるが、だからと言って認める事が出来ないと言うような隼人に対して、武が強引にその腕を引っ張って屋敷の中へと連れて行く。
「おい、引っ張るんじゃねぇ!!」
それに対して文句を言う隼人の声が聞こえてきたが、子供はその場から動く事が出来なかった。
その視線は、目の前に広がっている景色に向けられている。
ここに連れてこられた時は、直ぐに通り過ぎてしまって何も見る事はできなかったけれど、子供にとってそこに広がっている景色は鳥達から聞かされてきた夢のような世界の一つに思えた。
花や緑が溢れている。
それは、あの狭い世界では決して見る事の出来なかった世界。
「・・・・・・きれい・・・・・・」
その景色を見ながら呟いたその言葉は、あの人が初めて自分を見た時に言った言葉。
その言葉が、自然と口の中から零れてきた。
そこで、初めてこの言葉の意味を知る。
でも、それは自分には似合わない言葉だ。
どうして、あの人が自分を見てそんな言葉を呟いたのかは分からない。
だけど、それは自分なんかに向けられるような言葉じゃないと言う事だけは分かった。
「・・・ここは、きれいな、ところ・・・・・・・」
綺麗な世界に、自分のように気味の悪いモノがいてもいいのだろうか。
こんな場所には、自分のような存在は不釣合いのように思える。
だけど、あの人は自分を見て言ってくれた。
『きれい』だと
自分の何を見て、そう呟いたのか分からない。
だけど、そう言ってくれたあの人の方こそが、自分には綺麗なのだとそう思える。
そんな事を考えながら、子供はただ広がる綺麗なモノから目を離すことができなかった。