何もかもが、初めての事だった。
誰かにキレイと言われたのも、抱き上げられたのも、ナマエを聞かれたのも教えてもらったのも。
買い物に行ったのも、何かを買ってもらったのも
何もかもが、初めての事だったから・・・・・・
見るもの全てが珍しくて、キョロキョロとしていた自分を武が優しく見守ってくれる。
隼人は、『早くしろ!』って怒鳴ってきたけど、その目は今まで自分に向けられていた人達とは違ってとても暖かい目をしていたから、怖くない。
「オレは、センスねぇから、獄寺が服を選んでくれるのな」
そう言って笑った武が言ったゴクデラと言う言葉の意味が分からなくて、首を傾げる。
「ああ、獄寺って言うのは、あいつの苗字な。オレは山本武、あっちは獄寺隼人。ツナが一番初めに言ってただろう?『自分は沢田綱吉』だって」
確認するように質問された内容に、コクリと頷く。
確かに、初めてあの人に抱き上げられた時、自分の事を『サワダツナヨシ』と言っていたから
「オレ達は日本人だからな、ファミリーネームが前に来るのな」
「タケシは、ヤマモト、タケシ?」
「おう、そうだぜ」
首を傾げた自分に、武が説明してくれたそれを口にする。
人には、苗字と言うものがあるのだとも教えてくれた。
それから、武達が日本人だと言う事も
日本と言うのが何処の事を言っているのかは分からなかったけれど、ここじゃない違う国なのだという事だけは分かったので、コクリと頷く。
「本当、こいつ頭いいのな、ツナが感心してたのが良く分かるぜ」
頷いた自分に、タケシが感心したようにまた頭を撫でてくれる。
だけど、少し乱暴に撫でられて、頭がグラグラしてしまった。
「おい、何乱暴に扱ってんだよ!こいつは、お前と違ってデリケートなんだぞ!!」
そんな自分に気付いてくれた隼人が、怒鳴るけど武は気にした様子もなく『そうか?わりぃな』と笑顔で謝ってくる。
そこからは、本当に悪いと思っているのかどうかは分からない。
「おい、さっさと買い物済ませて戻るぞ、10代目が心配なさるからな」
「そうだな、んじゃ、さっさと行っちまおうぜ。逸れないように気を付けるのな」
促すように言われた隼人の言葉に武も頷いて、声を掛けられた内容にコクリと頷いて返す。
だが、子供と大人の歩く速度ははっきり言ってかなり違うため、小走りで二人の後を付いていくのが精一杯な状態では、どう考えても逸れない様に付いて行くのはかなり困難だ。
しかも、こんなにも長い時間歩いた事のない子供にとって、それはかなりの体力を消耗させる事になる。
その為、子供との距離がどんどん引き離された事に気付いて、その足を先に止めたのは武の方だった。
「おーい、獄寺!子供の姿が見えないのな」
「何?!バカヤローなんでもっと早く気付かねぇんだよ、剣豪バカ!!」
「んな事言ってる場合じゃねぇのな、早く探さないと……」
それに気付いて、慌てて二人同時に引き返す。
だが、心配していたよりも早くに、子供を見付け事が出来た。
動けなくなったのだろう子供は、その場に蹲る状態で座り込んでいる。
「おい、大丈夫か?」
それに気付いて、先に声を掛けたのは隼人。
「・・・・・・ダイジョウブ・・・・・・・ごめん、なさい」
声を掛けられて、ビクリと大きく震えた子供が顔を上げて返事を返し、謝罪する。
だがどう見ても、子供の顔色は悪く大丈夫なようには見えなかった。
しかも、無理して立ち上がろうとするその体はフラフラで今にも倒れそうである。
「謝らなくてもいいんだぜ。オレ達が考えなしだったのな。今度は、置いていかないから、心配しなくていいぜ」
それに気付いて、武が子供を軽々と抱き上げた。
突然のことに驚いたのだろう、咄嗟に子供は服にしがみ付く。
「外に出るのも初めてだもんな、ツナには謝ってやっから、ゆっくり回ろうぜ」
ニッカリと笑ったその笑顔と、言われた内容に隼人も諦めたようにため息をつく。
確かに、自分達の速度に合わせて歩くのも子供にとっては大変だっただろう、それなのに子供は自分が悪いと言うように謝罪してきたのだ。
配慮が足りなかった自分達が、悪いというのに
「そうだな。お前はその馬鹿に運んでもらえ。そいつの取り得は体力と野球と剣術バカな所だからな」
「間違ってないけど、ひでーのな」
優しく言われたその言葉に、武が笑いながら口を開くが、怒っている様子は見られない。
だから、子供はコクリと頷いて、ピッタリと抱き上げいる武にその体を預ける。
それから、今度はゆっくりと抱き上げられた状態で物珍しそうに周りをキョロキョロと見始めた。
そんな子供の様子に、二人が顔を見合わせて笑った事など気付かずに