誰も教えなかったのだから、知らなくて当然。
でもね、こんなに大変だなんて、子供の頃のランボ相手以上かもしれない。
確かに、教えた事は一度で理解してくれるし、ランボと比べれば手が掛からないと思えば楽なのかもしれないけど
だからと言って、こんなにも疲れるなんて思いもしなかった。
「疲れきってやがるな、ダメツナ」
執務室の自分の机でグッタリとしていたオレに、リボーンが楽しそうに声を掛けて来る。
ボスになった今でも自分の事は、ダメツナ呼び。
慣れているから、気にはならないんだけどね。
「その顔からして、予想は付いていたんだろ?」
「まーな。考えればすぐに分かるからな。で、奉仕はしてもらったのか?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているリボーンに質問すれば、質問で返される。
どう見ても楽しんでいるとしか思えないその言葉に、一瞬返答に困ってしまう。
いや、困る事はないかもしれないけど、あの時の事を考えると複雑な気持ちになってリまうのだ。
マフィアのボスとしては、本当に情けないと言ってもいいだろう。
だが、自分にとってはどうしてもそっち方面は何時までたっても慣れる事はない。
「ちゃんと止めたに決まってるだろう!なんで止められてるのか分からないって顔してたけど」
一気に言って、盛大なため息をつく。
本気で、昨日は色々大変だったのだから
お風呂で逆上せるは、ベッドでは寝ない。
挙句の果てには、近付く度に目を覚ますから、心配で殆ど眠れなかったんだけど
朝ご飯を食べる時にも、大変だった。
朝ご飯だと言って渡した食料は全然食べてくれなかったのだ。
だから、出来るだけ食べられるようにと、準備してもらったのはお粥。
卵粥にしてもらったそれに、不思議そうに首を傾げながらも何とか食べてくれた時には、本当に安心したんだけど
「まぁ、そうだろうな。今までして来た事を止められりゃ分からなくて当然だ。で、肝心の子供はどうした」
「武と隼人の二人に任せて服を買いに行かせた……流石に服がないと困るから」
子供が着ていた服は、薄いワンピースのようなそれ一着だけ。
流石にそれはパジャマにはなるかもしれないが、普段着としては役に立たない。
しかも、この屋敷には子供の服など置いていないので、早急に準備する必要があった。
始めは隼人一人に行かせようかとも思ったのだが、短気な隼人にはあの子の相手は無理と判断。
昨夜一晩過ごして思ったのだが、どちらかと言えばあの子はのんびり気質らしいから
だからこそ、武も一緒に行かせたのだが、あの二人でもかなり心配だ。
あの二人、喧嘩してなければいいんだけど
「ビアンキに頼んだ方が良かったんじゃねーのか?」
「それも考えたんだけど、オレが頼んでもビアンキは聞いてくれないだろう。お前から話すなんて事はしてくれないだろうからな」
綱吉の言葉に一瞬考えたリボーンが質問して来たその内容に、不機嫌そうな表情で返す。
一番いいのは、ビアンキに頼む事だったが、今でも彼女の一番は目の前の相手へと向けられているので、自分の言葉など聞き入れてくれないだろう。
それが分かっているからこそ、あの二人に頼んだのだ。
そのお陰で、こんなにもヤキモキしなければいけないのだから、不機嫌になっても当然である。
「確かに、聞く気はねぇな……追い討ちをかけるが、その書類今日中に終らせろよ、ダメツナ」
「って、ちょっと待って!これ全部??どう考えても無理だから!!」
そんな綱吉に楽しそうに笑って、更にトドメと言わんばかりに言われた内容に、綱吉が焦りの声を上げる。
机の上には、紙の束が大量に積み上げられているのだ。
どう考えても、この量を一日で終らせるのは難しいだろう。
「昨日少しでも、やってれば良かったのにな。頑張れよ!チャオ」
「ちょっ、リボーン!」
言う事は言ったというように、手を上げて部屋から出て行こうとしているリボーンを慌てて呼び止めるが、聞き入れられる事はなく無常にも扉はパタリと閉めらてしまう。
彼相手に何を言っても無駄だという事は、長い付き合いからいやと言うほど分かっているだけに、綱吉は目の前の書類を見て盛大なため息をつく。
そして、諦めたように少しでも終らせる為にそれに手を伸ばした。