まだ外は明るいが、もう直ぐ日も沈むだろう。
すっかり夏時間となってしまったそんな空を見て、綱吉はため息をつく。
自室に向かう自分の直ぐ傍を歩いているのは、小さな真っ白な髪と真っ赤な瞳を持つ子供。
チラリとそんな子供を見て、もう一度ため息をつく。
軽い気持ちで子供を引き取った訳じゃない。
ただ、この子供の赤い綺麗な瞳に、感情と言うものを写して欲しいとそう思ったのが一番の理由。
今も、子供の瞳は何も写さない。
それが悲しくて、また小さなため息が零れてしまった。
「ここが、オレの部屋。直ぐには他の部屋を準備できないから、暫くは一緒になるけど大丈夫?」
自室の扉を開いて、子供を中へと入れてから問い掛ける。
自分の問い掛けに対して、子供はやはり一瞬考えるようなしぐさを見せてから、コクリと小さく頷いて返した。
それにホッとしてから、流石に、薄汚れた今の格好では不味いと思って、子供にも着られそうな服を探す。
自分が服を探している間、子供はその場所から動かない。
「ソファに座っててもいいよ。君が着られそうな服を用意したら、お風呂に入るからね」
そんな子供に気付いて、綱吉が声を掛けるが、やはり子供は反応を返さない。
ボンヤリとしているように見える子供の視線は、真っ直ぐと窓の外へと向かっていた。
子供が見詰めているのは、空。
それは、まるで焦がれているかのようにその赤い瞳に空を写している。
「空は、好き?」
子供の視線に気付いて、綱吉は子供が着られそうなTシャツを取り出し手に持つと、子供の直ぐ傍に膝を付き様子を確認するように問い掛けた。
質問した瞬間、子供の視線が綱吉へと向けられ、不思議そうに首が傾げられる。
「スキ?」
そして、その口から出てきたのは問い掛けるように繰り返される言葉。
「そう、好き?」
「・・・・・・・・・そらは、じゆう・・・・みんなが、いる、せかい・・・・・」
聞き返されて、再度綱吉は問い掛ける。
それに子供はまた視線を空へと向けて、ポツリポツリと口を開いた。
だがそれは、自分の問い掛けに対しての答えではない。
それでも、子供が焦がれているものが分かって、綱吉はそれに納得したように頷いた。
「そうか……それじゃ、それは憧れなんだね」
「・・・あこがれ?」
言われた意味が分からないと言うように、子供が言葉を繰り返す。
その様子に、綱吉は優しく笑みを浮かべた。
「そう、憧れだよ。意味はね、君が強く心に惹かれているって事」
「・・・・・・ひか、れる?」
「そうだよ。自由に空を飛べる友達が、羨ましかったのかもしれないね」
「・・・うらやましかった・・・・・・うん、みんなみたいに、そと、とびまわりたかった」
言われたその言葉は、子供の本心。
だから、子供は外を見詰めているのだ。
自由に憧れて
「これからは、君も自由だよ。流石に空を飛ぶことはできないけどね」
そんな子供を、そっと抱き寄せる。
あの囚われていた屋敷の中で、子供はずっと自由に憧れていた。
だから、窓の外を見詰めるのが習慣になっているのだろう。
それは、本当に悲しい事。
当然のように外を行き来している自分には、分からない悲しみ。
「・・・・じゆうに、してくれたのは、つなよしやみんな、ありがとう・・・・・・」
自分の腕に抱き締められている中、子供が礼の言葉を口にする。
その言葉だけで、今日の強行手段に出た事に対して、報われた気がした。
そのお陰で、子供が自由になれたのだから