神様に愛された子供。
だからこそ、こんなにも惹かれたのかもしれない。

そして、出来ればその顔に笑顔を見てみたいとそう望んでしまったから






「言葉が、分かるの?」

部屋に飛び込んで来た鳥に驚いて子供に問えば、コクリと頷いて返される。
それは、今もこの子供には鳥の言葉が聞えているという事。

「……他のマフィアに知られたら脅威だったな」

頷いた子供に対して、リボーンが珍しくも心底感心したような声で呟く。

確かに、この力が他のマフィアに知られなくて良かったと言えば良かったのかもしれない。
この力は考えれようによっては、脅威になる。

流石に、鳥を警戒する人間は少ない。
それは即ち、簡単に敵の情報を手に入れる事が出来るという事に繋がるのだ。

使い方によっては、無敵の情報網を持つ事が出来るという事。

「……君を『うさぎ』って呼んだ子は、この中に居る?」

子供を『うさぎ』と呼んだのは、自由な友達だと言った。
なら、今ここに飛び込んで来た鳥の中に子供をそう呼んだものが居るかどうか疑問に思って質問する。
自分の質問に対して子供は、一瞬飛んでいる鳥達を見回した後、フルフルと首を横に振る事で返事を返してきた。

「そう……取り合えず、出て行ってもらうように、話してもらえるかな……流石に、この状況は、ね」

子供の返事から考えて、鳥達の区別が付いている事が分かり、内心で感心しながらも流石に部屋の中を飛び回られる状態が落ち着かなくて、苦笑を零しながらお願いしてみる。
本当に、子供が鳥と会話が出来るというのなら、是非出て行くようにお願いして貰いたい。

「・・・・・・パン、ある?」
「えっ?パン??」

自分の言葉に子供は一瞬考えるように飛び回っている鳥達を見上げてからポツリと小さな声で質問してきた。
それが余りにも突然だった為に、意味が理解出来ずに聞き返してしまう。
聞き返した自分に対して、子供が再度コクリと頷いて返した。

どうしてここで、パンが必要なのかが分からなかったが、その言葉を聞いて隼人に頼み食堂からパンを貰ってくるようにお願いする。

その間にも、子供は上を向き鳥へと視線を向けていた。
それはまるで、その目で会話しているかのようにも見える。

暫くすると一匹、また一匹と鳥が外へと出て行く。
全く躊躇う事も無く、開かれている窓から……

「10代目お持ちいたしました!」

突然の鳥達の行動は信じられないほどスムーズで、思わず呆然とその光景を見つめてしまう。
そんな中頼んでいた物を手に持って、隼人が部屋に戻って来た。

「あっ、有難う……なんか、信じられない物を見てる気分なんだけど……」

それに対して礼を言いながらも、その視線は信じられない光景から目が離せない。
鳥は、一切の迷いなど無く開かれている窓から外へと飛び出して行く。

それが、当然だと言うように


普通、部屋の中に飛び込んで来た鳥は外に出ようともがき壁や窓にぶつかっていくものだ。
なのに、部屋に入ってきた鳥は、どう考えてもちゃんと出口を知っているとしか思えない動きをしていた。

「パン、これで良かった?」

隼人から受け取ったパンを子供へと差し出し問い掛ければ、コクリと小さく子供が頷く。
それから差し出した一本のフランスパンを、子供の小さな手が受け取った。

その間に、最後の鳥が外へと飛び出て行くのが確認できる。
あっと言う間に、部屋の中に飛び込んできた鳥達は外へと出て行ってしまう。
それを見送ってから、子供が窓辺へと近付いて持ったパンを窓の外へと差し出す。

その瞬間、外へと出て行った鳥達がそのパンに群がって来た。

「な、なんか、襲われてるように見えるんだけど……」

その光景に、思わず呟いたそれに対して誰もが思わず頷いてしまう。
だがその目は、目の前の光景から逸らされる事はない。

あっと言う間に子供が持っていたパンが、綺麗になくなってしまった。

「アリガトウ、おいしい」

手に持っていたパンがなくなった瞬間、子供がお礼の言葉を口に出す。
片言で言われたその言葉に、誰もが漸く我に返った。

「おいしいって、もしかして鳥がそう言ってたの?」

子供の言葉に信じられないというように雲雀が質問するそれに、また子供がコクリと小さく頷く。
今も鳥の姿は、窓の外に異様なほどの数で確認出来る。

大量の鳥の姿は、一種のホラー映画を思い出させるのは気の所為ではないだろう。

「へぇ、すげーのな」

だがそんな状態なのにも関わらず、武が純粋に感心したように呟きの声を上げた。
誰もが、その意見には同意出来るのだが、今の状況を見ると素直に感心する事はできない。

本当にこのまま鳥に襲われてしまうのじゃないかと、不安になってしまう。
そんな事を子供が望んでいるとは思わないのだが、どうしてもそう考えてしまうのは、ホラー映画の見すぎかもしれない。



兎に角に、不思議な子供。
だけど、その瞳はこんな状態であっても、何も映さない。

だからこそ、その瞳が感情を表すそれを見て見たいと思ったのだ。