子供を一人引き取った。
それは、何の感情も映さない真っ赤な瞳を持った綺麗な顔の子供。

でも、何時か、その瞳に感情を見せて欲しいと思ったんだ。
それが、この子を引き取った一番の理由。





「つな、よし?」

目の前の子供が自分の名前を呼ぶ。
感情は何も映さない瞳ではあるが、不思議そうにその声が自分の名前を呼ぶ事に綱吉はニッコリと笑みを見せた。

「そう、綱吉だよ。あっちに居るのが、隼人」
「はや、と」

自分の後に続いて、子供が名前を口に出す。
それに、うんうんと満足そうに笑みを見せながら他の人間の名前も教えていく。

「で、あっちに居るのがリボーン」
「りぼーん」

チラリと視線をそちらへと向けながら、たどたどしく口にされる名前はそれでも間違う事なく、子供の中に入っていく。
その様子を見ながら、この子はかなり頭がいいのかもしれないとそう思わずには居られなかった。

一度言った言葉は、確実に覚えていくのだ。
一通りそこに居る守護者達の名前を教えてから、もう一度満足そうに笑みを見せる。

「それじゃ、質問、オレの名前は?」
「・・・・・・つな、よし」

自分を指差しながら質問すれば、子供が見上げるようにその赤い瞳を向けてくる。
それから少し考えるような素振りを見せてから、はっきりと自分の名前を口に出す子供に、うんうんと頷いて返す。

「それじゃ、あそこに居るのは?」
「りぼーん」

最後にみんなの名前を一通り呼ばせてから、しっかりと覚えている事を確認する。
たった一度だけで、そこに居る全員の名前を覚えてしまったのだから本当に、この子供は頭がいいのだと改めて思い知らされた。

「うん、みんなの名前は覚えたみたいだね。それじゃ、最後に質問。君は何て呼ばれていたの?」
「・・・・・・・・きみのわるい、ガキ」

そして、最後に質問すれば、返って来たのはとんでもない言葉だった。

「なっ、そんな言葉……」

まさか、そんな言葉が返されるなんて思ってもいなかった為に、言われた瞬間ショックを受ける。
でも、それがこの子供がずっと居た場所で言われていた言葉なのだ。

「つなよし?」

驚いて声を上げた自分に、分からないと言うように子供が名前を呼んでくる。
オレは、そんな子供をただ抱き締めた。

そんな言葉でしか呼ばれていなかったのだとしたら、何て悲しい事なのだろうか。

「他に、他には、呼ばれなかったの?」
「・・・・・・・・うさぎ・・・・・・・・」

ぎゅっと抱き締めて質問すれば、小さな小さな声が聞こえてきた。

……うさぎ?

うさぎって、あのピョンピョン跳ねて、寂しいと死んじゃうとか言われているあの小動物?
確かに、うさぎの中には真っ白な毛で真っ赤な瞳をしている種類も居るのは知っているが、この子供がまさかそんな風に呼ばれているとは予想もしていなかった。
あんな場所で、そんな可愛い名称が出てくるなど、どう考えても結びつかなかったのだ。

だが、確かにこの子供を見てそう思う人が出て来ても可笑しくはない。
そして、そう呼ぶ相手が居たという事は、この子供を誰か一人でも可愛いと思ったと言う事。

「君をそう呼んでくれたのは、誰?」
「・・・みんな、じゆうな、ともだち」

自分の質問に対して、子供は空を見上げて答える。


自由な友達?


言われた言葉の意味が分からずに、子供の視線に合わせて空を見れば見えたのは、自由に飛び回る鳥の姿。

「まさか、自由な友達って、あの鳥が……」

友達なのかと質問しようとしたその言葉は、途中で途切れてしまう。
子供が空を見上げたままその手をスッと前に出した瞬間、大量の鳥が部屋の中に飛び込んで来た。

「何だ?!」

突然の出来事に、流石のリボーンでさえも驚いたようで声を上げる。
部屋の中に居た守護者達もそれは同じようで、一斉に警戒態勢状態になった。

「みんな、ともだち」

そして、子供からもう一度言われた言葉が、全てを物語っていた。
この子供は、鳥と友達なのだと言っているのだ。

信じられない状況に、呆然としてしまうのは止められない。




ああ、確かにこの子は特別なのかもしれない。
もしかしたら、神様に愛された存在なのだろうか?