この世界にあるのは、暗い部屋と窓から見える僅かな空だけ
自由なんてなく、ただ自由にあこがれてその空を見ることしか自分には出来ない。


こんな自分が、望んではダメですか?

外の風を全身で感じたいと……

そう望むのは、いけない事でしょうか?







一年に一度、行われる競売。
今日は、それが行われる日。

朝から施設とは名ばかりの建物の中は、忙しない状態が続いている。
そんな状況を、子供はやはり何も映さない赤い瞳で見詰めていた。
自分も、今回の競売で売られるのは分かっているはずなのに、その表情には何の感情も表してはいない。

「たく、本当に気味の悪いガキだぜ」

そんな子供を見て、漸く売りに出されて清々するとぼやいていた男が、顔を顰めながら吐き捨てるようにそれを口にした。

元々この男にとっては、銀色の髪に赤い瞳を持つアルビノと呼ばれるこの子供が好きにはなれなかったからだ。
だからこそ、その姿を見るたびに眉間に皺を寄せ、『気味が悪い』と口に出す。

だがそんな反応を見せるのは、この男だけではない。
現に、この子供は、アルビノであるが為に親に見捨てられてここに売られて来たのだから

だが、一般では薄気味悪がられるアルビノなのだが、希少価値は高く瞳の色が赤ければ赤いほどマニアの間では高く売れる。

この施設でも、それが分かっているからこそこの子供をここまで育ててきたのだ。
しかも、この子供は顔も整っている上に、その瞳の色は最高級のルビーと見紛う程の色を持つ事からも、かなりの高額で取引されるだろうと予想されていた。

ただ問題があるとすれば、全く表情と言うものを持っていないと言うところだろうか。
それでも、その容姿だけでも十分に宝石としての価値を持っている、アルビノの子供。

睨み付けるように自分を見詰めてくる男に気付いていながらも、その子供の表情はやはり変わらない。
何処を見ているのか分からない、虚ろな瞳だけがこの少年の中で確かな色を持っていた。

「おい、さっさと準備しろよ。そいつは最後だから、そのまま置いとけ」
「ああ、分かっている」

忌々しいと言うように子供を見ていた男に、別な者が声を掛ければまた忙しなく周りの時間が動き始める。

目の前から男の姿が居なくなってからも、子供の表情は何も変わらない。
それはまるで、子供の大きさをした人形があると言われても納得できそうなほどだ。

暫く子供は動かずただボンヤリとしていたが、ピクリと小さく反応してそこで初めて動きを見せた。

「かぜ、よかん、くる?」

そして、ポツリと高い声が片言で言葉を口にする。
表情は変わる事はなかったが、確かに分からないと言うように子供が小さく首を傾げて窓の外を見詰めた。

窓の外に広がるのは、何処までも青い大空と風に流れる白い雲。
そして、自分と違って自由に飛び回っているモノの姿。

「・・・・・・・・ぼんごれ・・・?」

そんな空を見詰めながら、呟かれた言葉は誰の耳にも届かずにただ窓から入る風によって流されていった。


そして、その言葉を呟いてからも、子供はその場から動かない。
もう、その表情は何も映さない瞳が、そこに在るだけだった。