毎日が、地獄のような日々だった。
いや、そう思うのは本当に地獄のような世界へ行ってしまった子供達に申し訳ないかもしれない。
だって、ここに居ればまだ扱いがイイ方なのだから
「しっかり舌を使え、こんなんじゃ売り物にならねぇぞ」
醜い男のそれを口に銜えて、必死で口を動かす。
口の中に広がるのは、苦く青臭い味。
「うっ・・・ふぅ・・・・」
男のソレは、子供の口には大きく全てを銜える事が出来ずに息苦しそうにしながも、意味も分からず必死で言われた通りに舌を動かしていく。
こんな事が毎日当然のように行われているこの場所は、子供達を保護するはずの施設。
だがそれは表向きなだけで、実際この場所で行われているのは引き取られた子供を使っての競売施設。
ここに引き取られた子供は、10歳を過ぎると売りに出される。
年に一度開かれる競売で……
だから、ソレまでの間に奉仕の調教を受けるのだ。
相手を喜ばせる方法だけを、しっかりと叩き込まれる。
だがそんな事は、子供達にとってはまだ恐怖の対象ではなかった。
恐ろしい事は、売れ残った者の末路。
売れ残った子供達は、マフィアに売られ人体実験として使われる。
それは、生きたままに地獄を味わう事になるのだ。
そして、買われた者達もまた性奴隷扱いとなり壊れていくしか道は残されていない。
どちらにしても、競売にかけられれば、地獄が待っているだけである。
なら、ここに居て奉仕の調教を受ける方がずっとマシであり、まだ安心できるというもの。
「うっ」
男の呻き声と共に口の中に出されたドロリとした液に、子供はそれを飲み込む事が出来ずに激しく咳き込んでしまう。
毎晩のように続くその行為のはずなのに、慣れる事など決してない行為。
「たく、こんなんじゃ売り物になりゃしねぇ。見た目も相変わらず気味が悪いしよ……こんなヤツ買うのは、マニアぐらいだぜ」
「当たり前だろう、こいつはマニアには高く売れるぜ。ここまで見事なアルビノは滅多にお目にかかれねぇんだからな」
激しく咳き込んでいる子供を冷たく見下ろして、男が呆れたようにため息をつきながら文句を言えば、その言葉に続いて通りかかったのだろう別な男がニヤニヤと笑いながら今だに咳き込んでいる子供を見る。
それは、欲情している目ではなく、先の事を考えて満足しているような顔。
子供を見るその目は、明らかに金目のモノだという欲望を現したものだった。
「だから、傷付けんじゃねぇぞ、価値が下がっちまうからな」
「わーてるよ。まぁ、今度の競売で、漸くこいつともおさらば出来るんだから、ソレまでの辛抱だよな」
続けられる会話に、子供の肩があからさまに大きく震える。
だが、そんな事にさえ気付かず、男達は今度新しく入ったと言う子供の話をし始めた。
もう既に、そこにいる子供には興味ないと言うように、そのまま部屋から出て行ってしまう。
扉の閉まる音を聞いて、漸く子供はその顔を上げた。
「…きょうばい……うられる……」
今まで、何人もの子供達が同じように売られていったのを見てきた。
その番がとうとう自分にも回ってきたと言うのにも関わらず、ポツリと力なく呟かれた言葉は何の感情も浮かばない表情のままその口から紡がれる。
そして、何もない床にコロリと横になり、その体を小さく丸めると綺麗な赤い瞳をゆっくりと瞼の裏へと隠す。
ソレは、子供にとってその日の作業が終わりを告げ、一番安心できる休む為の行動。
この時だけは、子供の自由に出来る時間。
同じように続くこの閉じ込められた世界の中から、夢と言う世界へと逃げられる唯一の救いの時。
ここは、地獄。
自由も安らぎさえも殆どない、そんな場所。
そして、これから待っているのは、更なる地獄。
絶望だらけのこの場所に、光を望む事はいけない事なのだろうか?