「ちゅな?」


 不安そうな瞳が、何かを探すように辺りを見回す。
 言われた言葉は、懐かしい昔の呼ばれ方。


?」


 恐る恐る目の前に居る小さな子供へと、問い掛けるようにその名前を呼ぶ。


「……だぁれ?……ちゅな?」


 名前を呼ばれた事で辺りを見回していた瞳が、真っ直ぐに向けられて、その頭がコテリと傾げられた。
 分からないと言うように質問された言葉の後に続いたのは、確認するような質問。


「分かるの?」
「ほんとに、ちゅななの?なんで、そんなにおっきいの?」


 舌っ足らずな言葉で必死に質問してくる瞳は、琥珀と金のオッドアイ。
 間違いなく昔ずっと見ていた、双子の片割れの幼き姿。


「オレは、綱吉で間違いないよ。はね、ちょっとした事故で、こんな事になっちゃったんだ」
「じこ?だから、ちゅなはおっきいの?」
「う〜ん、どっちかって言うと、の方が小さくなっちゃたのかな」


 自分の事を見上げてくる幼い子供に、そっとその体を抱き上げながら今こうなってしまった事を簡潔に説明する。
 いや、説明にもなってないかもしれないけどね。

 オレの言葉に、が不思議そうにまた首を傾げて、再度質問してくる。
 それに苦笑を零しながら返して、小さくため息をついた。


「よく、わかんないけど、ちゅながいるなら、ぼく大丈夫だってちゃんと知ってるよ」


 説明した内容に、必死で考えたけど結局答えが出なかったのだろう何処が困ったような表情をしていたが、最後にはニッコリと可愛らしい笑顔で言われたそれに、クラリとしてしまった。


 な、何でそんなに無条件でオレのこと信用してるんだろう。
 昔のって、こんなにも凶悪に可愛かったんだ。


「だってね、ちゅなは、ぼくのお兄ちゃんだから」


 思わずそれでいいのかを質問すれば、ほんわり笑顔で返されたそれに、幸せを感じてしまう。

 ああ、今始めてランボの壊れた十年バズーカに感謝の気持ちを持つ事が出来たかもしれない。
 こんなが見れるなんて、本気で嬉しいんだけど


「ちゅな、くるしい」


 感動状態だったオレは、腕の中から聞こえて来たその声に慌ててその力を緩めた。
 本気でが可愛過ぎて、力一杯抱き締めたらしい。


「ごめんね、。大丈夫だった?」
「うん、ぼくね、ちゅなにぎゅってしてもらうの大好きだから、大丈夫だよ」


 力を緩めて腕の中の存在に慌てて謝罪して質問すれば、ニッコリと笑顔で返された言葉に、もう一回抱き締めそうになっちゃったんだけど……


 何、この生き物、本気で可愛い。
 オレ、子供が大の苦手なのに、なら育ててもいいかもしれない。


「おい、そこの変態、何やってやがるんだ?」


 幸せを噛み締めていたオレの耳に、聞こえてきたのは姿だけ子供の偽赤ん坊。


「見て分からない。を愛でてるに決まってるでしょ」
「……どう見ても変態にしか見えねぇぞ」


 その声にそっけなく返して、を隠すようにリボーンに背を向ける。
 だけど、オレの言葉に返ってきたのは呆れたようなそれだった。


「だ〜れ?」


 言われた言葉にオレがリボーンを睨み付ければ、ヒョッコリとオレの肩越しに顔を覗かせたが不思議そうにコテンと首を傾げてリボーンへと問い掛ける。


「……10年バズーカがまた壊れてやがったのか……」


 顔を覗かせたに、深々とリボーンがため息をつく。

 確かに、こうなった原因は、全部ランボが持っている10年バズーカが壊れていた為だ。
 毎回毎回巻き込んでくれるあのバカ牛、本気でどうにかしたいんだけど


「じゅうねん、ばじゅーかぁ?」


 リボーンの呟きを聞いて、がまた不思議そうに首を傾げる。
 ああ、ちゃんと言えてはいないけど、聞き覚えられるんだね。


「何でもねぇぞ、ダメ、オレはリボーンだ」
「りぼーん?ぼくはだめじゃないもん!だもん!!」


 名前を名乗ったリボーンに、が頬を膨らませて抗議の声を上げる。
 それさえも可愛くって、オレ本気で犯罪者になりそうなんだけど


「……てめぇは、ダメで十分だ。綱吉、それ以上はただの変態だぞ」
「だめじゃないもん!」


 頬を膨らましての抗議に、リボーンは呆れた様にため息をついて、オレにしっかりと釘を刺す。
 そんなリボーンの言葉に、またが抗議の声を上げた。

 確かに、オレの思考だと犯罪になりかねない状態が起こってるけど、だからってこいつに言われたくないんだけど


「余計なお世話だよ。、あいつの事は気にしなくていいからね」


 リボーンにダメ扱いされて、傷付いているを片手で支えてその頭を撫でながらフォローを入れる。
 サラサラのの髪は、手触り抜群だ。


「ぼく、だめダメじゃないもん……ちゅなに比べたら、だめかもしれないけど、いっしょうけんめいやってるんだもん」


 だけど、オレのフォローは聞き入れてもらえずに、はリボーンに自分なりに頑張っている事を主張する。
 確かに、万能じゃないけど、は何でも一生懸命で頑張って苦手な事も逃げない。
 運動はどちらかと言えば苦手みたいだけど、それでも自分で出来る事は一生懸命こなしていた。


「そうだね、はダメなんかじゃないよ。オレはちゃんと知ってるから……何時だって、が一生懸命だって事」
「ちゅな?」


 だからこ、この頃オレと比べられて、が傷付いていた事を知っている。
 それでも、オレや母さんの前では何時も笑ってた。

 こんな子供の頃から我慢ばっかりしてたんだよね、


「リボーン」


 だからそんなを落ち込ませてしまった原因を作ったリボーンを睨み付ける。
 泣き出さないように必死でガマンしてるも可愛いけど、泣いている姿は好きじゃないから


「………失言だったぞ、お前はダメなんかじゃねぇ」


 オレに睨まれた事と、が本気で泣き出しそうなのに気付いて、リボーンが帽子で顔を隠しながら謝罪の言葉を口する。
 リボーンが素直に謝罪したその言葉に、一瞬驚いたような表情を見せて、でも言われたその言葉にパッとの顔が明るくなった。


「ぼく、ダメじゃない?」
「ああ、ダメじゃねぇぞ」


 それから恐る恐るリボーンへと質問。
 それに、リボーンは頷いて返した。その瞬間、ふんわりとが笑顔を作る。


「ありがとう、りぼーん」


 それからその笑顔を向けて、リボーンへとお礼の言葉を口にした。


 その笑顔が本気で可愛いんだけど……何、なんでそんなに可愛いの!


「……お前じゃなくって、こいつの方がダメダメだぞ」



 そんなオレの思考を読んだのだろうリボーンが呆れたように盛大なため息をつく。
 だけど、突然に言われたその言葉に、が意味が分からないと言うようにコトンと首を傾げた。


「ちゅなが、だめだめなの?」
「ああ、そうだ」
「ちゅなはね、だめだめじゃないよ。だってね、ぼくのお兄ちゃんだから、すごいんだよ」


 不思議そうに質問したにリボーンが、当然のように返事を返すけど、それにが否定の言葉を返す。
 いや、の兄だからって言う理由で凄いって言われるのは、意味が分からないんだけど


 本気で、可愛過ぎるんだけど、10年前の!!


「ちゅな、どうしたの?」


 の可愛さに悶えていれば、そんなオレを心配そうに覗き込んでくる。


「おい、そいつに近付くんじゃねぇぞ、危険人物だからな」
「うっ?きけん、じんぶちゅなの、ちゅな?」


 そんなを、リボーンが慌ててオレの腕から引き離す。


 誰が、危険人物だよ、誰が!


 でも、リボーンに言われたそれに、が不思議そうに質問してきた。
 ああ、つがちゃんと言えないんだ、この頃のって、だからオレの事も、ちゅなだったんだぁ……なんて、思わずそんなことで納得してしまった。


「危険じゃないからね!リボーン、オレからを取り上げないでよ」
「今のお前はどう見ても危険人物だぞ」


 の質問にキッパリと返事を返して、オレからを取り上げたリボーンに文句を言えば、冷たい目で返された。
 まぁ、今の思考を考えたら、否定できない気はしないでもないけど、それも全部が可愛いからいけないんだよね。


「ちゅな?」


 返されたそれに、苦笑を零してしまったオレに、が心配そうに声を掛けてくる。


「大丈夫だよ、ねぇ、、オレと約束してくれるかな?」


 そんなを前に、オレは笑顔を見せて、ある一つの事を考え付いた。

 だって、今のはまだあの事故に遭う前のなのだ。
 だったら、オレが今から忠告しておけば、あの事故は起こらないんじゃないかって……


「なぁに?」
「あのね」
「ダメツナ、それ以上言うのは許さねぇぞ。誰にも過去を変える事はできねぇんだぞ」


 オレの問い掛けに首を傾げて質問してくるに、フッと笑みを浮かべて口を開きかけたその言葉をリボーンが遮る。


「何、邪魔しないでくれる?」
「お前、分かってるのか?そんな事をしたら……」
「過去が変わるなら、変えた方が……」
「かこはね、かえちゃダメなんだよ。だって、みらいが、かわちゃうから……だからね、もし、ぼくのことで、ちゅなが、かえたいかこがあっても、かえちゃだめなんだよ」
?」


 オレの事を遮ったリボーンに不機嫌な声を掛けた瞬間、今度はその言葉を遮ったのはだった。
 言われたその言葉が信じられなくって、を見る。


「ぼくね、どんなみらいでも、ちゃんとだいじょうぶだから、しんぱいしないで」


 驚いた表情をしてを見たオレに、ニッコリと笑顔で言われたそれ。

 もしかしたら、何か気付いているのかもしれない。
 だって、は誰よりも鋭い勘を持っているから


「だってね、ちゅなは、ずっとどんなことがあっても、ぼくの……」
!」


 信じられなくって、ずっとを見詰めていれば、そのの姿が煙に包まれる。
 その瞬間、ボワンと言う音と共に、現れたのは今の


「あ、あれ?小さなツナは??」


 戻ってきたは、状況が理解できないのか、キョロキョロと辺りを見ましている。
 そんなをオレはギュッと抱き閉めた。


「ツ、ツナ、何かあったのか?」


 突然抱きついたオレに、が驚いたように質問してくる。


 ねぇ、君はさっき何を言おうとしていたの?
 今となっては、それは分からないけど、君がくれた言葉は、確かにオレの心に届いたから


「おかえり、


 そうだね、過去を変えることはできない。
 だって、あの事故があったからこそ、オレはこんなにも君の事が大切で愛しいと思えるんだから……

 もう、君以外にこの気持ちを向けるなんて、そんな事考えられない。


「えっと、良く分からないんだけど、ただいま、ツナ」


 オレの言葉に、笑顔で返事を返してくれる君が、何よりも大切。

 ただ、残念なのは、10年前の幼い君ともうちょっとだけ一緒に居たかったと思うのは、贅沢な事なのかな?