「危ない!!」

 突然の声が聞こえて来て視線をそちらへと向ければ、信じられない事にランボを庇うように抱えている姿が目に飛び込んで来た。
 抱えているランボとのその前に向けられているのは、バズーカ。

!!!」

 それを確認し焦ってその名前を呼んだ瞬間、聞こえてきたのはドオンと言う爆発音。

!!!!!」

 信じられない目の前の光景に、声を張り上げてその名前を呼ぶ。
 覆いつくす白い煙に、オレはただ慌ててその場へと急いだ。

「思い出した!10年バズーカだ!!」
「えっ、あの、もしかして、?」

 そして聞こえて来た声に、信じられないと言うように問い掛けた。
 白い煙が晴れた先に見えたのは、栗色の髪を持つ一瞬女の人かと思えるぐらい可愛くって綺麗な人。

 一瞬見惚れてしまったその人が、聞こえて来た呻き声に反応する。

「ご、ごめん!」

 慌ててその場を離れて、下敷きにしてしまっていたらしいランボへと謝罪した。
 困惑していると分かるその顔は、やっぱり何処となく母さんに似ている。

「大丈夫?」

 下敷きにしてしまったランボを心配して声を掛ければ、そんな相手の顔を見上げてランボがその人に抱き付いて泣き出してしまう。

「おい、ランボ!その人から離れろよ!!」

 それにムッとして引き離そうと引っ張るが、首を振って一向に離れる気配はない。


 本気でムカつくんだけど、こいつ。


「いいよ、ツナ。ほら、ランボももう泣かない!潰しちゃった事は謝るけど、不可抗力だし、本当にごめんね……どっか痛い所とかある?」
「ラ、ランボさん、びっくりしただけだもんね、痛いから泣いてるんじゃないんだからな!!」

 そんなオレに、だろうと思われる人が苦笑を零しながら、泣き付いているランボを慰めようと優しく声を掛ける。
 それにランボは、泣きながらも返事を返した。

「そっか、びっくりさせちゃってごめんね。ちょうど良かった!確か……」

 自分の質問に答えたランボに、優しく笑って行き成りゴソゴソとポケットの中を探し出す。
 きっとランボにあげるアメでも探しているんだろうと分かるけど、本気でムカつくんだけど、このガキ!

「あった!ほら、ランボの好きなブドウの飴」
「アメ玉だもんね!!……そう言えば、お前ってば誰だってば?」
「ああ、そうだったね。俺はだよ。ランボの10年バズーカで撃たれて10年後の世界から来た、沢田

 目的のモノを探し出してランボに笑顔で渡してから、目の前の綺麗な人が自己紹介をする。

?」
「そうだよ」
「やっぱり、なの?!」

 ランボが不思議そうに見上げるのに、優しく微笑みながら返事を返すに、オレも驚いて聞き返す。
 そうだろうとは思っていたけど、本人から聞かされないと信じられなかったから

「うん、間違いなくだよ。って、言っても、10年後のだけどね……」

 オレの質問に、が振り返ってニッコリと笑顔で答えを返してくれる。
 それから、少しだけ驚いたようにその瞳がオレを見詰めてきた。

「もしかして、俺の方が背が高い?」
「えっ、あの……」
「ツナの嘘吐き!俺は、中学生のツナよりも身長低いなんて言いやがって!!俺の方が、ちゃんと高いじゃんか!!!」

 それから確認するように質問されたそれに、一瞬言葉に困ってしまう。
 それから文句を言うように続けられたその言葉に、何て返していいのか分からなかった。

 何て言うか、落ち着いて見えた今までの雰囲気を吹き飛ばして、子供っぽくって可愛いと思ってしまう。
 でも、喜んでいたと思ったら、落ち込んだような表情を見せたのに気付いて、そっと問い掛ける。

、どうしたの?」
「あっ、ごめん!ちょっと理不尽だなぁと考えてた」
「はぁ?」

 だけど、オレの質問に返ってきたのは訳の分からない言葉だった。
 あまりの内容に、思わず聞き返すような声が出てしまっても仕方ないだろう。

「深く考えなくてもいいよ……うん、なんていうか、中学生のツナと10cmも身長の差がない事にちょっとだけ悲しくなっていただけだから……」

 聞き返すように出たその声に、が何処か遠くを見ながら理由を話す。

 まぁ、確かに今のの身長は、そんなに高い方じゃない。
 170cm前後と言う所だろうか。
 身長が低い事を気にしているらしい反応と言ったらそれまでかもしれないけど、オレとしてはがそんなに大きくなってない事にかなり安心してるんだけど

「おい、ダメ!」
「……この姿でも、そう言われるのは慣れてるんだけど、10年前のリボーンにまでダメ呼ばわりされるなんて……」

 ショックで遠くを見ているに、リボーンが現実へと引き戻すように名前を呼ぶ。
 既に定着してしまっている呼び方にが、盛大なため息をついた。

「お前はダメで十分だぞ。そんな事よりも、お前の目……」
「俺の目?」

 傷付いているというような様子のに、更に酷い事を言いながらも驚いたように言われた言葉にオレもハッとして視線を向けた。
 言われてみれば、今のの瞳の色は、琥珀と金色のオッドアイ。

「そう言えば、瞳の色が……」

 それは、子供の頃と同じ色。
 一瞬で分かる程に、左右の色が違う。
 でも、それこそが目の前の相手がである事を示していると分かる証の色。

「うん、瞳の色はね、子供の頃の色に戻っちゃった……」

 しか持ち得ないその色は、子供の頃にはずっと見ていた大好きな色だ。
 だけど、今のの瞳の色は、若干ではあるがその金の色が薄くなってきて、ぱっと見ただけでは左右の色が違うのは分からないぐらいだったのに

「その色が、お前の元々の色なのか?」
「う〜ん、元々の色かどうかは分からないけど、小さい子供の頃は間違いなくこの色だったよね、ツナ」
「確かに、そうだけど……色が元に戻るなんて……」

 質問するリボーンのそれにが答えて、オレに同意を求めるように名前を呼ぶ。
 それに、オレは頷いての瞳を覗き込んだ。

 綺麗な金色の瞳が、オレを映す。
 だけど、その瞳が何処か寂し気に細められたのに気付いた。

「ツナ、俺は大丈夫だから、あんまり俺ばっかりに構っていたらダメだよ。俺はね、ツナに幸せになってもらいたいんだ……ツナの好きな人と……応援するから、だから遠慮しなくってもいいんだからね」
?」
「そろそろ時間みたいだ。さっきの事、絶対に忘れないで」

 そして、そっと告げられる言葉。
 まるでこれから先の事を案じる様に紡がれた言葉に、意味が分からずに問い掛けるように名前を呼べば目の前をまたあの白い煙が遮った。

 どうしてそんな事を言うの?
 だって、オレが好きな相手は…… 

!!」

 また煙に包まれた、たった一つの大切な存在に焦ってその名前を呼び手を伸ばす。

「ツナ……俺……」
「10年バズーカで、10年後のと入れ替わっちゃったんだよ。ランボは大丈夫なんだから、庇おうとしないで!!」

 そして手を伸ばした先に捕まえたのは、見慣れたの姿。
 何処か信じられないというようにオレを見上げてくるに、ホッとしながらもしっかりと叱っておく事は忘れない。

 勿論、怪我がない事をザッと確認しながら

「……ここには10年後の俺が来てたの?」

 叱っているというのに、状況を理解できていないらしいが、恐る恐る質問してくる。
 ああ、そう言えばここに10年後のが来ていたって事は、今のは10年後の世界に行ってたんだよね?

「確かに、居たんだけど……そう言えばは、10年後のオレに会って来たって事だよね?」
「うん、10年後のツナに会って来たよ。すごくカッコよかった!」

 の質問に答えてから、逆に質問すれば勢い良く返事が返ってきた。

「そ、そう、なんだ……」

 力説するにちょっとだけビックリして頷けば、オレのそれにが何度もうんうんと頷いて返してくる。
 まぁ、からカッコ良かったと言われて、嬉しくない訳はないけど、そんなに力説するぐらいって、10年後のオレってどうなってるんだろう。

「なぁ、なぁ、10年後の俺もカッコよかった?」
「………」

 のそんな態度にちょっとだけ考えてしまったオレの耳に、わくわくと言った様子でが質問してくる。
 期待の篭ったその視線に、オレはそっと視線をから逸らす事しか出来ない。

「カッコいいとはちょっと言い難いぞ、どちらかと言えば、か……」
「リボーン!!」

 だけど、答える返事と言うように視線を逸らしたオレに代わってリボーンが口を開いたのに、慌ててその名前を呼んで先を遮る。

 は、『可愛い』って言う言葉を毛嫌いしているから、そんな事言ったら怒り出してしまうのは簡単に想像できてしまう。

 名前を呼んで言葉を遮ったオレに、リボーンは涼しい顔で見詰めて来る。

「何で、教えてやらねぇんだ?」
「教えなくってもいいんだよ!そんな事よりも、何であんな無茶な事したの!!」

 更に、楽しそうに質問して来たそれに、不機嫌そのままに言葉を返した。
 確かに、10年後のは可愛くって、綺麗になっていたのは否定しないけど、そんな事本人には絶対に言えるはずがない。

 大体、10年後だから仕方ないかもしれないけど、の方が身長高かったのって、すっごく悔しいんだけど……

「ツナ?」

 思い出した事に、一気に不機嫌になってしまうのは止められない。
 そんなオレに気付いて、が恐る恐る名前を呼んでくる。

「何であんな無茶な事したの?!」

 だから話を誤魔化すように、へと説教を始める。
 だって、あんな無茶な事をしたんだから、叱って置く事はオレの勤めだ。

「聞いてるの、!」
「き、聞いてます!!」

 長々と文句をいっている中、何処か上の空で聞いているに気付いて大声で名前を呼ぶ。
 そうすれば、ビシリと姿勢を正して返事を返してくるに、更に説教を続けた。

 きっと、こんな事言っても、には無駄だって分かってるけど、言わずには居られない。


 だって、オレにとっては……

「お願いだから、無茶だけはしないで……オレには、だけが大切なんだから……」

 大切な大切な存在だから


 その存在を確かめるように、ギュッとその体を抱き締める。
 離してしまったら、消えてしまうんじゃないかと思えるから、無くさない様にギュッと強く。

「ごめん、ツナ……本当に、心配掛けてごめんね」

 何時も、無茶をする君にオレが最後に言う言葉。
 そうすれば、必ず返されるのは謝罪の言葉だ。
 そんな言葉、オレは聞きたくない。


 オレが欲しいのは

「謝らなくっていいから、無茶な事だけはしないでよ!」

 無茶をしないと言う約束。


 無駄だと分かっていても、何時もと同じ言葉を返せば、何処か楽しそうに君が笑う。



 最後に聞こえてきたのは、君の願い。

 ねぇ、でもオレにとって、君だけが大切で愛おしいと思える存在なのに、他の誰を好きになるって言うの?

 君が居なければ、幸せになんてなれない。
 オレが願うのは、君と言う存在だけ……

 他には、何もいらない。
 君だけが居れば、何も……

 きっと、君は気付いてくれないだろう、オレのたった一つの願い。