ずっと感じる不安。
だから、君が少しでも離れてしまう事が怖くって、だから縛り付けた。
「だから、理由を教えてよ!」
もう何度も聞いた台詞を、君が不機嫌な声で口にする。
それは、オレが何も君に教えられないから
だって、ただ漠然と不安なんだ。
「分からないけど、オレの傍に居て欲しいんだ」
だから、オレが返せる言葉も何時も同じ。
何度、こんな遣り取りを繰り返しているんだろう。
それでも、君をこの場所に引き止めようとオレは必死だ。
「それじゃ、理由になってない!!」
こんな遣り取りをもう3日も続けているから、我慢の限界が来ている事は直ぐに分かる。
それでも、オレの不安はまだ拭えないから、君を外に出す事は出来ない。
オレの仕事を手伝ってくれると言うけれどそれさえもさせていないのだから、かなりのストレスを感じている事は明白だ。
「ごめん、もう少しだけ、ここに居てくれる?」
必死に理由を聞いてくる君に、何も説明できない自分が恨めしい。
だけど、この不安は、君を失ってしまうのではなかと言う恐怖を言葉にして説明する事なんて出来るはずがないのだ。
それなら、恨まれてもいいから、ただこの場所に縛り付けて居たい。
「なら、せめて仕事を手伝わさせてよ!!」
「それはダメ!だって、は幹部じゃないから、書類を見せる訳にはいかないんだよ」
バンッと派手な音をさせてが目の前の机を叩いて訴えてきたそれに、キッパリと返事を返せば言葉に困った様子でオレの事を睨み付けてくる。
オレは、マフィアボンゴレ10代目としてここに居る。
だけどは、守護者ではあるけど幹部ではない。
他の者達からを幹部として認めろという事を何度も言われているけど、オレはずっとそれを拒絶している。
だって、オレは君をこの世界に引き入れたくないから……
でも、君を手放す事が出来なくって、ずっと縛り付けているんだから、ズルイよね。
「だったら、俺を幹部として認めてって何時も言ってるじゃんか!俺だって、守護者の一人なんだから、資格は十分にある筈だよ」
「何度も言ってる。それは絶対に認められない」
「ツナ!!」
本人からも何度も幹部にして欲しいと言われているけど、オレはずっとそれを拒んでいるのだ。
本当に、酷い事をしていると自分でも分かっている。
でも、君にはずっとそのままでいて欲しいと思っているから……
非難するように名前を呼ぶを、オレはただ真っ直ぐ見詰め返す。
見詰めていれば、その視線が逸らされてしまった。
「もう、知らない!俺は、勝手にするからな!!俺はツナの部下じゃないんだから、命令を聞く必要もないんだよね?」
「!」
逸らされる一瞬見えたのは、泣き出してしまいそうな瞳の色。
そして言われたその言葉に、オレは呼び止めるようにその名前を呼んだ。
その瞬間、ボフンと言う音と共にの周りを白い煙が覆い隠す。
「!!」
突然の事に驚いて必死でその名前を呼んだ。
「……い、生きてる?」
完全にの姿が煙で見えなくなった瞬間、その中からポツリと聞こえて来た声に驚いて瞳を見開いてしまう。
煙の間から見えたその姿は、懐かしいの姿。
「?」
漸く煙が晴れてきて、ハッキリとの姿が確認出来た事で、そっと名前を呼べば顔が自分の方へと向けられる。
それから、状況が分かっていないのだろう、不思議そうに辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「ツ、ツナ??」
懐かしい10年前のがそこには居て、驚いたようにオレの名前を呼ぶ。
茶色の髪に琥珀と薄い金色のオッドアイが、オレの事を不思議そうに見詰めてくる。
そこで漸く、自分の不安の理由が分かった気がした。
そう言えば、昔は10年バズーカに撃たれた事があった事を思い出す。
流石に、日にちまでは覚えてはいなかった自分を恨めしく思ってしまっても仕方ないだろう。
理由が分かっていれば、を怒らせる事もなかったのに……
「ああ、10年バスーカに撃たれたのって今日だったんだ」
「じゅ、10年バズーカ??」
不安気に自分の事を見詰めてくるに、少しだけ困ったような表情をしてしまいながら呟いたそれに、不思議そうにが聞き返して来る。
首を傾げてオレの事を見上げてくるその姿が可愛くって、思わず笑ってしまった。
「取り合えず床なんかに座ってないで、ソファに座った方がいいよ」
だけど、今だに床に座っているに気付いて、さり気なさを装うって抱き上げ近くのソファに座らせてから安心させるようにニッコリと笑って見せる。
昔のがすっごく軽い事に、ちょっとだけ驚いたんだけど……
それは、今でも、変わらないと言えば変わらないかもしれないけどね。
だって、って今だに小食なのは変わらないから
「あ、あの、10年バズーカって……」
「敬語で話さなくても大丈夫だよ、オレは、綱吉で間違ってないんだから」
ソファに座らせたオレに、が困惑したようにオズオズと質問してくる。
それに笑顔を見せて、オレが誰なのかをしっかりと説明。
だって、に他人行儀な態度をされるのは寂しいからね。
「いや、あのそうじゃなくって……」
きっと、必死で考えているんだろうに気付いて、思わず笑ってしまうのは止められない。
本当に、この頃のは全部顔に書いてあるから分かりやすい。
何時からだろう、の考えている事が分からなくなったのは……
「分かってるよ、時間もないから説明するとね、はランボの持っている10年バズーカに撃たれてここ、10年後の世界に来てるんだよ」
が何を言いたいのか分かっているので、オレは頷いて今の状況を簡単に説明した。
多分、はここに来る前に、何の説明もされていなかっただろうから
「って、10年後?!それじゃ、今のツナって23歳??」
「うん、勿論、もね」
オレの簡単な説明に、が驚いたように声を上げる。
それにオレはコクリと頷いて返した。
突拍子のない話に、が困惑しているのが分かるけど、こればっかりは信じてもらうしかない。
だって、嘘なんて一つも付いていないのだから……
必死で自分の中で考えていると分かるの様子を見守っていれば、漸く納得したのか、その顔を上げて今度は辺りをキョロキョロと何かを探すように見回し始める。
「、どうしたの?」
突然の行動に驚いて、そんなへと声を掛けた。
「だって、10年後なんだよね?だったら、10年後の俺もここに居るんだよね?」
オレの質問に、が当然だろうと言うように質問で返してきた。
ああ、は10年後の自分を探していたのか……
何となく、当然のように質問されたその内容がオレを嬉しくさせてくれる。
「う〜ん、残念だけど、10年後バズーカに撃たれた相手は、その10年後の自分と入れ替わってしまうんだ。だから、23歳のは、13歳のと入れ替わって10年前に行っちゃってるんだよ」
「そ、それって、大変な事なんじゃ……」
そう言えば、詳しい事を説明してなかったという事を思い出して、更に追加して10年バズーカの説明をすれば、焦ったようにがオレの事を見上げてきた。
まぁ、確かに普通に考えたら大変な事だよね。
オレも、10年前に23歳のに会った時は、本気で驚いたんだから……
「大丈夫だよ。10年前の方が今と違って平和だったからね。今日はを外に出さなくって正解だったよ。こう言う時、超直感力を有難いって思えるんだけど……お陰で、と喧嘩しちゃったんだけどね……」
「ツナ……」
心配そうにオレの事を見詰めてくるへと安心させるように言えば、思い出すのはと喧嘩してしまった時の事。
ああ、オレが今日の事をちゃんと覚えていれば、こんな事にはならなかったのに……
思い出して悔やんでも、もう遅いと分かっていても、悔やんでしまうのは止められない。
自分の勘には素直に感謝するけど中途半端な能力がこんなにも、悲しいなんて……
苦笑するように零したオレのそれに、が不安気にオレの名前を呼ぶ。
「心配しなくても、10年バズーカの威力は5分。直ぐに帰れるから」
そんなを安心させるように笑顔を見せて、不安を少しでも軽くしてあげるように言葉を伝えればの顔が更に泣きそうな表情になる。
でも、オレには何でがそんな表情をするのかが分からない。
「俺の事なんてどうでもいいよ!ツナ、ツナは今、好きな人と一緒に居るんじゃないの?!」
そして、続けて言われたその言葉に、オレは一瞬言葉に困ってしまった。
どうして、そう言う所は鋭いんだろうね。
好きな人とは、ずっと一緒に居るよ。
でも、心はもしかしたら誰よりも遠く離れているのかもしれない。
オレが、傷付いた顔をしていたから、はオレを心配して泣きそうな顔になっていたのだ。
誰よりも優しくって、人の心には敏感。
なのに、自分に向けられる感情にだけは、どうしてこんなにも鈍いんだろうね。
「……どうしてそういう所だけは鋭いんだろうね……居るよ。オレは、ずっと好きな人と一緒に居るよ」
「だったら、どうしてそんなに悲しい顔してるんだよ!幸せじゃないのか?」
「……幸せじゃないって言ったら嘘になるよ、だって、一番大切な人と一緒に居られるんだから、幸せじゃないなんて言えない……」
思わず小さくため息をつきながら言ってしまったオレの言葉に、が更に突っ込んでくる。
幸せ。
確かに、オレは幸せだよ。
だって、君がオレを一番に考えてくれている事だけは知っているから……
「ツナ、どうして、その人に好きって言ってないんだよ!」
「伝えているよ。だって、相手もオレを好きだって言ってくれているんだよ。それは、今も変わらない……でもね、それはオレの欲しい好きじゃないんだ」
ねぇ、何度君に好きだと伝えれば、オレのこの心が伝わるんだろう。
好きだと言えば、好きだと返してくれる。
それは、嬉しいけど、残酷な事。
君の好きとオレの好きでは、全く違うモノだから
愛してる。
その言葉を君に伝えてしまえれば、どんなに楽になれるだろうか?
だけど、それを言ってしまったら、君が離れていってしまうと分かっているから、臆病なオレはそれを伝える事はできないのだ。
「そろそろ時間だね、ほら、10年前のオレが待ってる世界へ」
「えっ、ツナ?」
チラリと時間を確認して、もう既にタイムリミットだと気付いて、最後に笑って君を送り返す。
突然のオレの言葉に意味が分からないと聞き返そうとしたその言葉はまた視界を遮る白い煙に消されてしまう。
「、オレが好きなのは、だけだよ……」
君に聞こえないと分かっていても、そう言わずには居られなかった。
オレには、君だけが大切で何者にも変え難い存在。
「!」
そして見慣れた姿を確認した瞬間、その名前を呼んで、ギュッとその体を抱き締める。
「ツナ」
大丈夫だと分かっていても、不安だったから
君が帰ってきた事をしっかりと確認するように、強く強く抱き締める。
「お帰り、」
「うん、ただいま……それから、ごめん、ツナ」
帰ってきてくれた事が嬉しくって、それを言葉にすれば返される返事と謝罪の言葉。
でも、それは君が謝る必要なんて何処にもないのに
「ううん、オレの方こそ、ごめん」
オレが言うべき言葉だからこそ、小さく首を振って謝罪する。
君が何を望んでいるかを知っているのに、オレは自分のエゴでそれを叶えて上げられない。
全部、オレの我侭。
それに、君を縛り付けている。
「には、この世界に染まって欲しくないから……これは、オレ我侭だって、分かってるけど……」
君をこの世界に引き入れたくないから、だから拒絶する。
それによって、君の心がオレから離れてしまうと分かっていても……
「ツナ、俺はね、どんな場所だとしても、ツナと一緒に居たいからここに居るんだよ。その覚悟だってちゃんと持ってる……でも、ツナに辛い顔させてまで、それ以上を望むつもりなんてないから……」
オレの言葉に、が何処か諦めたように言葉を口にする。
その言われた内容に、心臓が凍えた。
君が、オレの前から居なくなると考えただけで、こんなにも心が冷えていく。
「ダメだよ!がオレの傍から居なくなるのは、絶対に許さない!!」
が、オレから離れるなんて、絶対に許さない!!
そんな事になるぐらいなら、オレだけしか知らない場所に閉じ込めてしまうだろう。
「ツナ」
絶対に離さないと言うように、を強く強く抱き締める。
この温もりが、無くならない様に、無くさないように、ただ強く。
「ツナが、俺を必要としてくれるなら、俺はここに居るよ」
オレの名前を呼んで、が返してくれたその言葉に、ホッと安心した。
まだ、が自分の傍に居てくれる。
それだけで、ホッとした。
何時まで一緒に居られるかなんて分からない。
それでも、オレは君を手放す事なんて出来ないのだ。
君だけがオレにとっての唯一の存在。
それは、これから先も変わらない。