「夏だな」

「うん、そうだね」


 突然言われたその言葉に、意味が分からないながらも頷く。
 今の季節が、夏である事に間違いはないから


「夏といえば、なんだ?」


 頷いた自分に、満足そうな笑みを浮かべる目の前の相手が、質問を投げ掛けてきた。


「えっと、夏って言ったら……お祭りとか、花火とか、かな?」


 質問されたので、考えて一番無難そうな事を口に出す。
 本当は、夏休みとか言いたかったんだけど、それは流石に目の前の相手が望んでいる答えだとは思えなかったから


「まぁ、間違いじゃねーぞ」


 だが、どうやら望んでいた答えではなかったらしく、目の前の子供がニヤリと笑みを浮かべた。


「えっと、それじゃ、海とか……」

「それも、ちげーぞ」


 間違いじゃないと言われたけど、多分他の回答を待っているらしい相手に、慌てて考えて口を開けば、今度は違うと言われてしまう。
 えっと、他に夏と言って思い当たる事は……なんだろう?


「えっと、えっと、他に……カキ氷も違うだろうし、海が違うんならプールも違うよね?」

「ああ」


 思い付くモノを口に出して、確認するように言えば頷かれる。

 やっぱり、違うんだ……えっと、他に夏と言って思い出す事なんて、何かあったかなぁ??


「時間切れだぞ、ダメ


 必死で考える俺に、呆れたように言われた言葉。
 何時もの事だけど、ダメって……否定できないんだけど、ね……


「ごめん、全然思い付かないんだけど、他に何かある?」


 時間切れと言われて、困ったように問い掛ける。
 だって、本当に思い付かなかったから


「夏と言えば肝試しだろうが!」

「えっ?」


 だけど、質問した俺に返されたのは、一番避けたかった内容だった。
 いや、出来れば除外したかったと言った方がいいかもしれない。
 だって、ホラーは大の苦手なのだから


「聞えなかったのか?肝試しだぞ。今日の夜、並盛中で決行だからな!」


 聞き返すように口を開いた俺に、リボーンがニヤニヤ笑みを浮かべながらとんでもない事を言ってくださいました。
 いや、俺は、参加しないから!


「お、俺は、遠慮……」

「勿論ダメに拒否権はねぇぞ。態々ヒバリに頼んだんだからな」


 そんな事していただかなくても結構です!
 と言うよりも、本気で勘弁してください。俺は、ホラーは苦手なんだから

 そんな事を聞かされて、正直逃げ出したい気持ちがいっぱいだ。
 このまま出掛けて、家に居なければ参加は免れないかなぁ……その場合は、リボーンが怖いけど苦手なホラーからは逃げられる。
 いや、この場合、リボーンの方がもっと怖いかも……究極の選択だ。


ちゃん、今日はツっくん達と学校で肝試しするんでしょう?楽しそうでいいわね」


 そう思うのなら、変わってください。
 喜んで変わりますから!!

 真剣に考えている俺に、母さんが楽しそうに声を掛けてくる。
 それに、心の中で返事を返すが、口に出す勇気はない。


「お洋服、ちゃんと準備したから、着替えましょうか」


 そして、続けて言われた内容の意味が分からないんだけど、何でそれで服を着替えないといけないんだろう。
 中学校に行くんだから、制服で行くんじゃないのかな?


「か、母さん、何で服を着替えないと……学校なんだから、制服じゃないとまずいと言うか……」

「あら?リボーンくんから聞いてない?私服でいいみたいよ。だから、ちゃんの服は私がコーディネートしたのよ」


 いや、お母様、だからの括りが分かりません。
 何で、それで母さんが服のコーディネートしてるんですか?!
 俺は、制服の方が有難かったかもしれないんですが


「ほら、時間がないから、早く着替えちゃいましょう!」


 ブツブツと考えている俺に、母さんが明るく声を掛けてくる。

 いや、それをしたくないから、考えてるんですけど?!

 って、言っても問答無用で着替えさせられることになるのは目に見えている。
 目の前でニコニコ笑っている母さんを前に、俺は深く深くため息をついた。








 で、あれから、母さんに嬉々として着替えさせられた格好は、何故か浴衣だった。
 母さん曰く、『肝試しなら、やっぱり浴衣じゃないと!』、だそうだ。

 良く、分からない。

 しかも、これ、女物に見えるのは気の所為じゃないよね?
 黒色の生地に白いウサギとピンクの小花に同じくピンクの細い線の模様が入った浴衣に、帯はピンクに白の花柄。

 やっぱり、どう見ても女物……

 もう何を言っても、聞き入れてもらえない事は分かっているので、俺は諦めるためにため息をついた。


、準備出来た?」


 着付け終わって満足そうな母さんと、諦めの局地の俺に対して誰かの声が掛けられる。
 勿論、その声の主は俺の双子の兄である綱吉。


「ええ、バッチリよ!ツっくんも似合ってるわね」


 その声に返事を返したのは、俺じゃなくて満足そうな母さん。
 ニコニコと何時も以上に上機嫌な母さんは、そう返してから感心したように続けた。

 似合ってる?

 その言葉に疑問に思って振り返れば、黒地に灰色の縞柄の甚平を着ている綱吉が居た。


「有難う、も似合ってるね。流石、母さん」

「ふふ、そうでしょう」


 母さんに似合ってると言われて、綱吉がお礼を言ってそれから褒め返す。
 それに対して、母さんが満足そうに笑って返した。
 俺はと言えば、まさか綱吉が甚平を着ているとは思わなかったので、呆然としてしまっている。

 あれ?もしかしてみんな浴衣か甚平って決まっているんだろうか??


?」


 疑問に思ったことを考えていた俺に、ツナが心配そうに声を掛けてきた。


「ボーっとしているみたいだけど、大丈夫?」

「うん、もしかして、今日の肝試しって、浴衣か甚平って決まってるの?」

「まぁ、リボーンがまた無茶苦茶言ってきたからね。そう言う決まりらしいよ」


 続けて心配気に聞かれたそれに、頷いて返してから疑問に思ったことを質問すれば、ため息をつきながら返される言葉。

 ああ、決まりなんだね……、もしかして、その原因は、母さんだろうか?
 ……多分、間違いなく、そうだろう。


「それじゃ、ちょっと早いけど学校行こうか」


 にっこりと笑顔で言われたその言葉に、俺は今すぐ拒否したかった。
 だって、何をしにいくのか分かっているのに、喜んで行ける訳ない。

 何度も言うように、ホラーは苦手なのだから!!


が行かないと、奇数になるから誰かがあぶれちゃうんだけど」


 どうやって逃げ出すかを思案している俺に、ツナが困ったような表情を浮かべて呟かれた内容は、俺にとっては複雑なものだった。
 いや、俺が居ないと奇数って事は、誰かが一人で回るって事で、そんな怖い思いを自分がする事になったりするのを考えれば、逃げ出すなんて出来るわけもない。


「……い、行きたくないけど、誰かに迷惑が掛かるのだけは、嫌だ……」

「うん、もしオレが一人になったりしたら嫌だから、には参加してもらいたいな」


 しかも、止めとばかりに言われた内容に、俺はしぶしぶ頷く事しか出来なかった。
 なので、母さんがしっかりと準備してくれていた下駄を履いて、ツナと一緒にだんだんと暗くなり始めた空の下、中学校へと向かう。

 カラコロと下駄の音が鳴るのを聞きながら、俺の心は憂鬱だった。

 ホラーは苦手だと散々言っているのに、何で肝試しなんてするの?!
 折角夏休みが始まって、開放的な気分を味わっていたのに……


、大丈夫?」


 どんどん歩みが遅くなる俺に、ツナが心配そうに問い掛けて来た。


「…大丈夫、じゃない。このまま逃げ出したいんだけど……」

「う〜ん、オレとしても、面倒だからこのまま逃げ出したいんだけど、そうすると偽赤ん坊が何て言うか。あの、ヒバリさんが大好きな並盛中の使用を許可したのも、嫌な予感しかしないしね」


 ピタリと歩いていた足を止めた俺に合わせて、ツナもその場に立ち止まる。
 そして、泣き出しそうに訴えた俺の言葉に、ため息をつきながら返してくれた。

 確かにそうだ。
 あの学校大好きな恭弥さんが、許可を出したって事は、参加しなければただではすまないかもしれない。
 肝試しも怖くて嫌だが、そっちの方がもっと怖い事の様に思えてきた。


「うっうっ、頑張って参加しますぅ……」

「その方が賢明だね。、足は大丈夫?」


 考えたそれに、泣く泣く止めていた足を動かし始めれば、心配そうにツナが質問して来る。

 足?

 一瞬何を質問されたのか分からなかったけど、ツナが何を心配しているのかが分かって、頷いて返す。


「大丈夫だよ。確かに下駄はちょっと大変だけど、そこまで負担にはなってないから」


 下駄よりも、この格好の方が恥ずかしいんだけど……

 これって、完全に女装だよね。
 大体、こんな格好俺に似合うとは思えないし、京ちゃんとかハルちゃんは似合うかもしれないけど
 女顔と言っても、俺は男だから、場違いのような気がしてたまらない。

 そう思うと、肝試しも嫌だけど、この格好を誰かに見られるのも十分嫌だという事を思い出してしまった。
 いや、今までは肝試しの方がもっと嫌だったから、考えてなかったんだよ、俺の馬鹿!!


?」


 サーッと、自分でも顔色が悪くなったのが分かる。
 そんな俺に気付いたのだろうツナが、心配そうに名前を呼ぶ。
 頑張って学校に行く事を決意したのに、もう既にその決意はガラガラと音を立てて崩れてしまった気分だ。


「お、俺、やっぱり行かない!」


 人に迷惑掛けると分かっていても、こればかりは譲れない。


「急に、どうしたの?」

「こんな格好、みんなに見せられない!!」


 踵を返して家に帰ろうとした俺は、その瞬間ドンと誰かにぶつかってしまった。


「あ〜っ、それは無理そうだよ、……」


 後ろに人が居るなんて思っていなかった俺は、慌ててぶつかった人に謝罪しようと口を開きかけたその言葉は、ため息をつきながら言われた綱吉の言葉に遮られる。
 どう言う事かを訊ねようと思った瞬間、フワリとした浮遊感。


「わっ!何?」

「それはこっちの台詞だよ。こんな所で何をぐずぐずしているの?」


 突然の事に驚いて動揺して状況を確認しようとした俺の言葉に続いて、聞こえてきたのは呆れたような声。
 それは、俺のぶつかった相手で、今現在俺の事を抱き上げている人から聞こえて来た。


「きょ、恭弥さん!!」

「煩いよ、耳元で叫ばないでくれる」


 その相手を確認して名前を言えば、またため息を疲れてしまう。

 うっ、だって、突然抱き上げられたら、誰だって驚くと思うんですけど


「いい加減、不愉快なので、を放してくれませんか?」

「君が連れて行く気がないみたいだからね。僕が代わりに、貰っていくよ」


 いやいや、貰っていくとか、俺はモノじゃありませんから!?
 しかも、綱吉が殺気立っているし

 お願いですから、喧嘩するなら、俺を降ろしてからにしてください!!!


「おい、さっさと学校に行かねぇか!他の奴等はとっくに集まってんだぞ」

「リボーン!」


 恭弥さんに抱き上げられたままの状態で、どうすることも出来ず、睨み合いを始めた二人に心底困っていれば、呆れた声が聞こえて来た。
 救世主とばかりに、俺はリボーンの名前を呼ぶ。

 もう、この状況から開放されるのなら、何だって我慢する。
 一番苦手なモノでも、この姿を人に見られるのも、我慢するから!


「ダメも納得したみてぇだから、さっさとしやがれ」


 そんな俺の心を読んだように満足そうな笑みを浮かべて言われたリボーンの言葉に、嵌められたのだと理解してしまった。
 絶対、業と恭弥さんを巻き込んだんだ。


「はぁ、分かったよ。ヒバリさん、いい加減を降ろして下さい」

「やだ。何でボクが君の言う事を聞かなきゃいけないの。このままこの子は連れて行くよ」

「えっ、あの、恭弥さん?」


 言うが早いか、そのまま恭弥さんが俺を抱えたまま走り出す。
 突然の事に、俺は慌てて恭弥さんに抱き付いてしまった。


「そのまま捕まってなよ」


 俺が抱き付けば、満足そうな声が聞こえてきてそのまま恭弥さんの走るスピードが速くなる。

 って、何で綱吉といい恭弥さんといい、人を抱えあげてこんなスピードで走れるんですか?!
 この人達、絶対に人間じゃないから!

 余りのスピードに、振り下ろされないように、ぎゅっと恭弥さんに抱き付く腕の力が強くなる。
 それと同時にギュッと目を瞑ってしまうのは、自己防衛本能だと思う。
 怖いと思うと、人間どうしても目を閉じちゃうのは仕方ないよね。


「あっ!くん!!」


 次に聞こえてきたのは、最近ではすっかり聞き慣れてきた明るい声。
 ゆっくりと目を開けば、もう既に学校に辿り着いていました。
 目を開けた先で、京ちゃんが大きく手を振っているのが見える。

 えっ、何でこんなに早いの?!

 学校に着いたら、恭弥さんは俺をゆっくりと降ろしてくれた。


「あ、あの、有難うございます?」

「何で疑問系なの?」


 降ろしてくれた恭弥さんに、素直に感謝するべきなのか疑問に思いながらも口に出したそれに対して、呆れたように聞き返えされる。


「……すみません、素直に感謝できないと言うか、なんと言うか……」


 出来れば、来たくはなかったと思うのが、正直な気持ちなので、素直に感謝できないんです。


!!」


 恭弥さんに、謝罪しながら自分が思った事をそのまま素直に口に出す。
 その後聞こえてきて来たのは、ツナの声。


「ツナ」

「大丈夫!ヒバリさんに、何もされなかった?!」


 俺の名前を呼ぶツナに返事を返せば、勢い良く肩を掴まれて真剣に質問される。


「普通に、学校まで運んで貰ったと言うか……ツナも、見てたんじゃ……」

「見ていたとしても、心配なんだよ!」


 いや、何が心配なのか……もしかして、俺が恭弥さんに振り落とされないかの心配?!
 流石に、それはちょっと嫌かも……


「僕が、この子を落とす訳ないよ」

「絶対とは、言えないじゃないですか!!」

「何、僕をその辺の草食動物なんかと一緒にしないでくれる」

「オレにとっては、同じようなものです!!」


 ああ、折角収まっていたのに、またツナと恭弥さんの喧嘩が始まってしまった。


「ふふ、ツナくんも委員長さんも、楽しそうだね」


 巻き込まれないように、そろそろと二人から距離を取った俺の耳に、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
 そして、なんて言うか、信じられない言葉が聞こえてきたのは、きっと気の所為だよね?


「京ちゃん、今、何て……」

「えっ?うん、ツナくんも委員長さんも、楽しそうだよね」


 聞こえて来た言葉が信じられなくて、恐る恐る近くに居る京ちゃんへと声を掛ける。
 そうすれば、返ってきたのは聞き間違いだと思っていた言葉がそのまま戻ってきた。

 いやいや、何処をどう見れば、楽しそうなんだ?!


くんも、そう思うよね?」

「えっ、いや、俺は……」

「あっ!さんです!!お待ちしていましたよ」


 ニッコリと笑顔で聞き返してきた京ちゃんに、言葉に困っていた俺に、さらに元気な声が聞こえて来た、ほっと息を吐き出す。

 よ、良かった、流石に俺には、京ちゃんに同意できなかったから、本気で助かった。


さん、浴衣すっごく似合っています!!」

「あ、有難う。京ちゃんもハルちゃんも、俺より似合ってるよ」


 視線を向ければ、ハルちゃんが俺の方へと歩いて来ている姿があって、ニコニコと嬉しそうに言われたその言葉に、俺は困ったような笑みを浮かべて、返事を返す。
 京ちゃんとハルちゃんも勿論浴衣姿で、とっても可愛い。

 京ちゃんは、ピンクのグラデーションの入った生地に桜の花の模様が入った浴衣で、ハルちゃんは水色の薄い色にアジサイの模様が入った浴衣を着ていた。


「そんな事ないよ!くん、すっごく似合ってるよ!」


 困ったように返した俺に、京ちゃんが力強く返してくれる。

 いや、似合ってても、嬉しくないんです、俺。

 キラキラした目で言われた言葉に、苦笑を零す事しか出来ない。


「よっ!遅かったな。ツナは一緒じゃないのな」

「お前、10代目を置いてきたんじゃねぇだろうな!」


 力なくため息をついた俺に、今度は獄寺くんと武が声を掛けてくる。


「遅くなって、ごめん。ツナなら、あそこで恭弥さんと睨み合ってるよ」


 遅いと言われたので素直に謝罪して、噛み付くように言われた獄寺くんの言葉に、小さくため息をついてその方向を指差す。
 ちらりと視線を向ければ、睨み合いはとっくの昔にバトルへとレベルアップしていた。


「あ〜っ、ヒバリの奴も一緒だったんだな」

「あのやろう!また10代目に喧嘩売りやがったのか?!」


 あ〜っ、獄寺くん、ごめん。
 今日は、ツナの方から喧嘩売ったから……


「ツナさんも、黒い人もとっても楽しそうですね」


 複雑な気持ちで、ツナと恭弥さんを見ていれば、ハルちゃんからも、とんでもない内容の声が聞こえて来た。

 えっ?女の子の感覚って、俺達と違うの?!


「バカ女!何処をどう見れば、10代目が楽しそうに見えるんだ」

「見えるじゃないですか!とっても、生き生きされていますよ、今のツナさん」

「そうだよね。委員長さんも、楽しそうだよね」


 ハルちゃんをバカにしたように獄寺くんが言えば、ハルちゃんが、それに反論するように返して続いて京ちゃんまでもがニコニコと笑顔で続ける。

 やっぱり、女の子の感覚が、良く分からないんだけど……


「確かにそうだな。二人とも、生き生きしてるつーのは間違ってねぇと思うのな」


 女の子二人の意見に疑問を感じていれば、武までもが同意見だと言う。

 なら、女の子の捉え方が違う訳じゃないのかな??

 じっと綱吉と恭弥さんを見るけど、俺にはやっぱり良く分からない。
 恭弥さんは、確かに生き生きしているけど、ツナは珍しく本気で怒っているみたいな?


「おめぇら、集まっているな」

 武の言葉で、二人を観察していれば、新たな声が聞こえて来る。
 それに視線を向ければ……


「うわっ!!」

!」


 思わず、悲鳴を上げてしまった。
 俺が悲鳴を上げた瞬間、即効でツナが駆け寄ってくる。

 悲鳴を上げた理由は、リボーンがお化けの格好をしていたからだ。
 一瞬見たら、宙に浮いているし(良く見ればピアノ線が見えた)、周りには人魂らしきものまで纏っているから、かなり驚いたんだけど


「リ、リボーン、お願いだから、驚かせないで……」

「これぐらいで、情けねぇぞ」


 ドキドキとしている心臓を落ち着かせながら、リボーンに文句を言えばため息をついて返された。

 し、仕方ないじゃん、ホラーは苦手だって、何度も言っているんだから許して欲しい。


、大丈夫?」


 涙目状態の俺を、ツナが心配してくれる。
 いや、何かがあった訳じゃないから、大丈夫なんだけど、こんなんじゃ、心臓が持たないかも……

 京ちゃんとハルちゃんは、お化けスタイルのリボーン相手でも、まったく動じることなく楽しそうだ。

 も、もしかして、ホラーがダメなのって、俺だけなんだろうか??


「……もう、帰りたい……」


 心配そうに見詰めてくるツナに、今の自分の気持ちを素直に口に出して伝える。


「そんなの許される訳ないでしょ。時間も、ちょうどいいし、始めるよ」


 ツナは俺の言葉に苦笑を零すだけだったけど、不機嫌そうな声が宣言した。

 えっと、始めるって、何をでしょうか??

 恭弥さんの言葉に、逃げ出したい気持ちが一杯になる。


「ちなみに、脅かし役は風紀委員が担当しているから、楽しめよ」


 更に追い討ちを掛けるように言われた言葉に、泣きたくなった。

 なんで、脅かし役まで準備してるの?!!
 そうじゃなくても、夜の学校なんて怖いだけなのに……


「……夏なんて、大嫌いだ……」


 楽しみだと笑っている女の子二人の後ろで、俺がボソリと呟いた言葉に、ただツナだけが困ったような笑みを浮かべる。


 その後、俺にとっては、楽しくともなんともない、肝試しが始まった。

 だから、俺は、ホラーは苦手なんだよ!!!