「それじゃ、始めるぞ」
リボーンのその言葉で、京ちゃんとハルちゃんがワクワクした表情を見せている。
逆に俺は、本当に嫌そうな表情をしていたと思う。
「くじ引きでペアを決めるぞ。男女2組と言いてぇが、男が一人多いからな、ダメは女の方へ入れよ」
「ちょ、ちょっと待った!それだと計算が合わないんだけど……」
当然だと言うように言われたリボーンの言葉に、慌てて待ったを掛ける。
どう考えても2人組みのペアになるなら、一人余ってしまうのだ。
京ちゃんのお兄さんが来ていると思っていたのに、その姿が何処にも見えない。
だからこそ、恭弥さんを入れると、ペアにならないのだ。
「その事なら、心配ねぇぞ。ビアンキが人数に入るからな」
「リボーンにお願いされたから、私も参加させて貰うわ。本当は、リボーンと一緒に回りたかったんだけど……」
「げぇ、姉貴!」
俺の言葉に、あっさりとリボーンが口を開く。
その言葉と同時に、姿を見せたのは、紫色の生地に大輪のバラの模様がある浴衣を来たビアンキさんの姿。
その姿を見た瞬間、獄寺くんの表情が一気に悪くなった。
「隼人ったら、相変わらず、可笑しな子」
そんな獄寺くんに、ビアンキさんは楽しそうに笑っているけど、大丈夫なのかなぁ?
お腹を抱えて座り込んでしまった獄寺くんを心配気に見詰めていると、無常にもリボーンの声が聞こえて来た。
「それじゃ、同じ番号同士で組めよ」
「赤ん坊、僕は、あの子以外とは組む気はないって言ったはずだよ」
「勿論、くじでちゃんと当たれば、一緒に行けるぞ。くじ引きは公平だからな。お前が参加しない場合は、ビアンキが外れる事になっている」
リボーンの言葉に恭弥さんが不機嫌な声で言えば、当然だと言うようにリボーンが返す。
恭弥さんは、誰か組みたい人が居るんだなぁと思っていれば、隣でツナがボソリと呟く。
「絶対に組ませない」
えっと、ツナは、恭弥さんが誰と組みたいのか知ってるんだ。
チラリとツナを見れば、バッチリと目が合ってしまう。
「?」
「えっ、あの、一緒に組めるといいね」
目が合えば、不思議そうにツナが俺の名前を呼ぶので、慌てて誤魔化してみる。
「がそう思ってくれているのなら、大丈夫だよ」
誤魔化しで言った俺の言葉に、ツナが嬉しそうに笑って返してきた。
えっと、それって、どう言う意味なんだろう??
「お前ら、何ボーッとしてやがる、さっさとくじを引きやがれ!」
意味が分からなくて首を傾げた俺の耳に、不機嫌なリボーンの声が聞こえて来て視線をそちらへと向ければ、もう既にみんなはくじを引いたらしく、俺と綱吉だけが取り残されていた。
「ご、ごめん」
「ダメはこっちで、綱吉は、こっちだぞ」
そう言って、差し出された紙切れを受け取る。
紙は半分に折られていて、何が書かれているのか分からない。
「全員引いたな。なら中を確認しろ」
命令口調のリボーンに従って、折られている紙を開いていく。
中に書かれていたのは、数字の4。
「ほらね、が望んでくれれば、問題ないんだよ」
俺がそれを確認した瞬間、言われたその言葉に視線を向ければ、綱吉の手にも数字の4が書かれた紙。
「ってことは、俺のペアは、綱吉なんだ」
「みたいだね」
「……悪いけど、僕は抜けるよ」
「恭弥さん!」
嬉しそうなツナに笑顔を返した瞬間、聞こえて来た不機嫌な声に、思わずその名前を呼んでしまう。
呼び止めて如何なる訳でもないんだけど、思わず呼ばずにいられなかったのだ。
「何?」
「あ、あの、本当に参加されないんですか?」
俺の呼び掛けに、恭弥さんが振り返って聞き返してくるのに、恐る恐る質問する。
そんな事聞かなくても分かっているんだけど、折角ここに来ているのに不参加だなんて、寂しいと思う。
いや、出来れば、俺も参加したくないので、一緒にボイコットしませんか?
「僕は群れるのは嫌いだからね」
質問した俺のその言葉に返されたのは、恭弥さんらしいモノだったけど、でも、ここに来ている時点でそれが珍しいことだと思えるんですが、一体リボーンとどんな約束をしていらのだろう。
誰かと組みたかったみたいだけど、やっぱり学校一のアイドルって言われている京ちゃんと組みたかったんだろうか?
「ヒバリ、約束は守れよ」
「心配しなくても、許可は出してある。他の奴は乗り気だったみたいだから、せいぜい楽しみなよ」
リボーンの呼び掛けに返事を返してから、恭弥さんはさっさと行ってしまった。
その後姿を見送って、小さくため息をつく。
で、出来れば、俺も不参加になりたいんですけど……
「黒い人は、行ってしまわれたんですか?!」
「ああ、だから、ヒバリの相手だったハルは、獄寺と組む事になるんだぞ」
「なっ!オレがこのバカ女とですか?!」
「ハルだって、獄寺さんよりも、ツナさんと組みたかったです!!」
恭弥さんが行ってしまってから、ハルちゃんが驚きの声を上げる。
どうやら、ハルちゃんの相手は恭弥さんだったらしい。
なので、必然的にビアンキさんが外れて、ビアンキさんとペアだった獄寺くんと一緒になると……
えっと、獄寺くんは、その事実には気付かずに、ハルちゃんと言い合いを始めてしまった。
「楽しそうなペアなのな」
「本当だね、ハルちゃんも獄寺くんも楽しそう」
そんでもって、この二人は天然ペアだ。
京ちゃんと武が、ほのぼのとハルちゃんと獄寺くんを見ている。
「……なんだ、獄寺は、ビアンキと組みたかったのか?なら、ハルは、オレと組むか?」
「あ、姉貴と?!いえ、とんでもないです!!このバカ女で、構いません!!」
ギャーギャーと賑やかな二人に、リボーンが口を出せば、慌てて獄寺くんが言葉を返す。
「ハルは、バカなんかじゃありません!!」
そうすれば、またハルちゃんと獄寺くんが賑やかに言い合いを始めてしまった。
「こいつ等は3番だから、このまま放って置け。山本と京子が2番だからな、ヒバリが不参加になったから、お前らが一番だぞ」
「そうか、んじゃ、笹川、行くか?」
「うん。楽しそうだね」
そんな獄寺くんとハルちゃんは完全に無視して、リボーンが武と京ちゃんに声を掛ける。
声を掛けられた二人は、ニコニコと笑顔で言葉を交わす。
本当に、ほのぼのとしたペアだ。
「行く前に、簡単にルールを説明するぞ。玄関に居る風紀委員から用紙を受け取り、教室の中に置いてあるスタンプを集めるんだ」
校舎へと向かおうとした二人を引き止めて、リボーンが簡単な説明をする。
聞こえて来たその内容に、ぎょっとしてしまった。
「ちょっと待って!スタンプ集めるって、何処にそのスタンプ置いてあるの?!」
「何処の教室に置いてあるかは、教えねぇから、全部見て回る必要がある」
驚いて質問した俺に、リボーンが何でもないというようにあっさりとまたしてもとんでもない事を言ってくれる。
「へぇ、面白そうなのな」
「うん、本当だね」
武と京ちゃんは、それを聞いて楽しそうにしているけど、俺にとってはとんでもない内容だった。
それじゃなくても、夜の学校は怖いと言うのに、何処に置いてあるか分からないスタンプを探して学校の中を歩かなきゃいけないなんて
「そんなのヤダよ〜」
「」
そんな恐ろしい事を言われて、泣き言を口にしてしまった俺に、心配そうにツナが名前を呼ぶ。
だけど、俺はそれに返事を返す事が出来ないで、呆然とリボーンを見詰めてしまった。
「スタンプを集めてこなかった奴等には、オレからスペシャルな罰ゲームを用意しているからな」
「ば、罰ゲーム?!」
しかし、無常にもリボーンは罰ゲームまで準備していると言うのだ。
そうなると、集めなければ、確実に罰ゲームの餌食になってしまう。
「んじゃ、しっかり集めないとだな」
「そうだね、頑張らないとだね」
それを聞いて武と京ちゃんは、俺とは正反対にヤル気満々の様子だ。
「大変です、獄寺さん!言い争っている場合なんかじゃありません!!リボーンちゃんが重大な事をおっしゃっています!!」
「煩い!聞こえてんだよ!!オレが怖がる訳ねぇだろうが!!」
獄寺くんとハルちゃんは、聞こえて来たリボーンの説明に慌てたように口を開く、
ハルちゃんの言葉に、獄寺くんが怒鳴って返すけど、気の所為かなぁ、ちょっとだけ獄寺くんの足が震えているように見えたんだけど
「それじゃ、山本と京子、そろそろ始めるぞ」
「了解」
「うん、行って来るね」
ニコニコと楽しそうに、武と京ちゃんは校舎へ向けて歩き出す。
その足取りは、本当に軽くて楽しそうだ。
「10分後に獄寺とハルのペアが入れよ」
「りょ、了解いたしました!」
「はひ!楽しみです!」
校舎へと入ってくる二人を見送っていれば、リボーンが獄寺くんとハルちゃんに声を掛ける。
それに、獄寺くんはちょっとだけ顔を引き攣らせながら返事を返し、ハルちゃんは嬉しそうに返事を返す。
何で女の子達は、こんなに元気で楽しそうにしてるんだろう。
もしかして、俺だけが怖がりなの?!
「うっうっ、このまま帰りたいよぉ」
リボーンの罰ゲームも怖いけど、肝試しよりかマシかもしれない。
本気でこのまま逃げちゃうのが、俺の為にはいいのかも……
「流石にリボーンの罰ゲームはしたくないから、帰らないでね」
走って逃げられる訳も無いけど、本気でこのまま帰ろうかと思い始めた俺に、ツナがニッコリと笑顔で言ってくる。
ツナにしたら、肝試しよりもリボーンの罰ゲームの方が厄介なのだろう。
「ツナ〜ぁ」
でも、俺にはどっちもどっちなのだ。
情けない声で名前を呼べば、ツナが優しい笑顔で俺の頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよ。オレが一緒なんだから」
いや、確かにそれは心強いんだけど、でも怖いものは怖いのだ。
こればっかりは、怖がりじゃない人には分からないだろう。
それに、ツナは知らないだろうけど、俺の目は……
「何があっても、はオレが守るよ。それに、どうしても見たくないなら、目を瞑っていても大丈夫だから」
「いや、流石にここで目を瞑って歩くのは、危険すぎると思うんですけど」
ツナが知らない自分の事を考えていれば、何時かのお化け屋敷に入った時と同じような事を言ってくれる。
確かに、目を瞑っていれば、嫌な物は見えなくなるけど、でも流石にそれを学校の中で実行するのは危険なような気がするんですが
「大丈夫。いざとなったら、はオレが抱えていってあげるからね」
……だ、大丈夫じゃないです!
何で、そこまでして肝試しをしなきゃいけないんですか?!
それならいっその事、俺の事を見逃して下さい、お願いします。
そう思っても、悲しいかな無常にも時間は過ぎて、最後の俺達の番になってしまう。
でも、先に中に入って行った京ちゃんや武はまだ出て来ない。
って、ことは、中で皆に会えるって事なのかなぁ?
それって、一緒に回ってもいいってことなの??
「ああ、いい忘れていたが、行動はペアでだからな。中で会っても別行動しろよ。スタンプの場所も聞くのはペナルティだからな」
今だに戻って来ない武達の事を考えていた俺に、何処からともなく現れたリボーンがしっかりと皆で行動するのはダメだと言ってくれる。
うん、しっかりと俺の心を読んでくれたみたいですね。
「時間だぞ、お前らの番だ」
打ちひしがれる思いに、追い討ちを掛けるようにリボーンが声を掛けてくる。
「、それじゃ行こうか」
リボーンの言葉にツナが笑顔で手を差し伸べてくるのに、俺は複雑な表情を浮かべてその手を取った。
京ちゃん達の悲鳴とか聞こえてこないから、そんなに怖くないって事なんだよね、きっと大丈夫だよね?
必死に自分に言い聞かせて、ツナと手をつないだ状態でゆっくりとした足取りで校舎の中へと入る。
「沢田」
校舎の中へと入った瞬間、呼ばれてツナと同時に声の方へと視線を向けた。
そこに立っていたのは、風紀副委員長の草壁さん。
「草壁さん」
「ルールを説明する。お前達はこの紙を持って6つのスタンプを集めろ。スタンプの置いてある場所はこの校舎の中と言う事しか教えられない。それから、教室の電気を点けるのはNGだ、明かりはこの懐中電灯のみを使用する事」
草壁さんの名前を呼べば、一枚の紙と懐中電灯を差し出してきた。
そして、言われたのは肝試しのルール。
渡された紙と懐中電灯は、ツナが受け取る。
その紙は、六枡に区切られていてその枡の中には数字が書かれていた。
どうやらその枡にスタンプを集めると言うのが、ルールらしい。
それは、リボーンが言っていたものと同じ内容。
「ふーん、6つのスタンプねぇ……しかも、校舎内の何処にあるのか分からないなら、20分経っても山本達が戻って来ない訳だ」
そのルールを聞いて、ツナも武達が戻ってこない事に納得したみたいだ。
確かに、6つのスタンプをこの広い校舎の中から探すのは大変だろう。
「それじゃ、頑張って探さないとだね」
草壁さんからルールを聞いたツナは楽しそうに言うけど、俺にとっては楽しくも何ともない内容なんだけど
だって、それって校舎の隅々まで探せって事なんだよね……正直言って嫌だ。
「沢田、気をつけて行けよ」
「はい、有難うございます」
草壁さんからルールを聞いて、歩き出した俺達に声を掛けてくれたので、ペコリと頭を下げる。
でも、気をつけるって、そんなに危ないの、この肝試しって?!
心配してくれた草壁さんに返事をして頭を下げたけれど、何て言うのか肝試しで気を付けなきゃいけないってどんななの?!
見送ってくれる草壁さんを残して、一階からゆっくりと回って行こうとツナが言うのに頷いて返した。
勿論、手は繋いだままの状態だ。
「大丈夫だよ、何があってもは、オレが守るからね」
ギュッとツナの手を強く握れば、それを握り返すようにしてから優しい笑顔と共に言われた言葉は、何時も言われているような内容。
でも、すごくツナが嬉しそうに見えるのは気の所為だろうか?
「手を繋ぐよりも、腕を組んで歩いた方がいいんじゃない?」
だけど、続けて言われた言葉に、『是非に!』とツナの腕に抱き付く。
ギュッとツナの腕を強く両手で抱え込んで、まずは玄関から一番近い俺達のクラスからスタンプを探す為に教室へと入った。
ガラリと音を立てて、扉を開き中へと入る。
教室の中は暗く、当然の事ながら誰も居ない。
い、居ないんだよね??
なのに、聞こえてくる声は、誰の声なの?
「うっうっうっ」
聞こえて来た声にビクリと肩が震える。
なんで、何で誰も居ないのに、声が聞こえてくるの?!しかも、それが呻き声って?!
「だ、誰か、居るの??!」
「まぁ、声が聞こえるってことは、誰か居るんだろうね。風紀委員が脅かし役らしいし」
ギュッとツナに縋って声を上げれば、冷静な返事が返される。
何でツナは、そんなに冷静なの?!
「そこに隠れている奴、それ以上を怖がらせるなら、容赦しないからね」
「す、すみませんでした!!」
ツナが冷静なだからこそ、俺も何とか冷静になる事ができた。
だけど、その後ツナが凄みのある声で脅しの言葉を口にしたその瞬間、教壇の下から風紀委員の人が直立不動で姿を見せて深々と頭を下げる。
あ、あれ?なんで、そんなに怯えているんだろう?
も、もしかして、ツナに怯えてる?
「ねっ、誰か居たでしょう」
そんな風紀委員の姿を見て、ニッコリと笑顔を見せてツナが言う。
いや、確かに人は居たけど、あれ?でも脅かし役を怯えさせてもいいものなのだろうか?
「どうやらこの教室にスタンプは無いみたいだね、次の教室へ向かおうか」
怯えて直立不動状態の風紀委員を完全に無視して教室の中を確認し終わったツナが、サクサクと教室を出る準備は進んでいた。
えっと、俺はただ呆然と見てただけだったんだけど
その後も、同じようなことを繰り返して、なんて言うか、怖がる暇が無かったと言うかなんと言うか……
風紀委員の人達は、皆が皆ツナに怯えて脅かす事を拒否するから、逆に申し訳なくなってしまった。
いや、怖くなかったのはいい事なのかもしれないんだけど
本当に、気の毒に思えるほど、風紀委員の人達がツナにぺこぺこと頭を下げているのだ。
あれかな、もしかして、恭弥さんと同等の扱いをされているんじゃないよね?
いや、でもツナは、風紀委員じゃないし……
「、後一つでスタンプ全部揃うから、帰れるよ」
「う、うん、そうだね……」
5つの枠の中に押されているスタンプを見せられて、笑顔で言われたその言葉に頷いて返す。
うん、なんて言うか、本当に思っていたよりも怖くないと思うのは、ツナが居てくれたからかなぁ?
「オレが一緒だから、怖くないよね?」
そんな事を考えた瞬間、言われた言葉に思わずツナの顔を見てしまう。
俺の考えている事、読まれてるのかなぁ?
「お姉ちゃん達」
嬉しそうに俺を見ているツナに頷いて帰そうとした瞬間、小さな子供の声が聞こえてくる。
えっと、お姉ちゃん達って聞こえたけど、今居るのは俺とツナだけだよね?
思わず辺りをキョロキョロと見回してしまうが、やっぱり俺達以外の人間は誰も居ない。
もしかしたら、ハルちゃんとか京ちゃんが近くに居るのかと思ったけど、結局一度も会う事は無かったんだよね。
でも、確かに子供の声が聞こえてきた。
お姉ちゃんって言われたのは、きっと俺のこの格好の所為だろう、どう見ても女の子の格好なんだから……
お姉ちゃんと言われて、悲しくなりながらも、返事を返さない訳にはいかないので声のした方へと視線を向ける。
そこに居たのは、おかっぱ頭の赤い着物を着た女の子。
「俺達の事、呼んだ?」
俺の事を見上げてくる子供に、そっと問い掛ければ、コクリと頷いて返される。
「何してるの?」
「えっと、俺達は、肝試し中でね、スタンプを集めてるんだ」
そして、質問された言葉に、ありのままの説明をした。
きっと、この子は誰かの妹さんなのだろう、お兄ちゃんに無理やりついて来たのだと思う。
それで、隠れているのに飽きたかなんかで、ここまで来てしまったのだろうと、勝手な憶測。
「スタンプ?」
「うん、数字の6が書かれているスタンプなんだけど……」
「それなら、知ってる。あの部屋にあるの!」
俺が説明した内容に、子供が不思議そうに首を傾げるので、自分達が探しているスタンプの説明を知れば、嬉しそうに女の子が教えてくれた。
指差されたその先にあるのは、応接室。
「そうっか、教えてくれて有難う。君も一緒に行く?一人は、怖い……あれ?」
指差された方を確認して、それを教えてくれた事にお礼を言う。
そして、改めて子供に声を掛けたんだけど、その姿が何処にも見当たらない。
「、どうしたの?」
「どうしたって、この子が……」
「この子って、ずっとは一人だったけど?行き成り立ち止まって誰かに話し掛けるから、驚いたんだけど」
キョロキョロと辺りを見回して子供の姿を探してみるけど、やはりその姿を見つける事ができなかった。
そんな俺に、ツナが不思議そうに質問してくる。
だけど、それに返した俺の言葉に戻ってきたそれが、俺に恐怖を与えてくれた。
だって、さっきまで確かに女の子が俺の目の前に居たんだよ!
しかも、スタンプの場所も教えてくれたのに、でも、ツナには誰の姿も見えなかったって……
な、なら、俺が話していた相手は
「ツ、ツナ、早くスタンプ押して、校舎から出よう」
「それは、いいけど、まだスタンプの場所が……」
「応接室!」
「えっ?」
「応接室にあるから、早く押して帰ろう!!」
間違いなく、あの子は俺の左目が見せたモノ。
何も、こんな時に発動しなくてもいいじゃないかぁ!!
泣きそうになる気持ちを必死に抑えて、ツナと一緒に女の子が教えてくれた応接室へと向かう。
教えてくれた通り、恭弥さんの仕事机の上に最後のスタンプが置いてあったので、それを押してこれで終了。
「は、早く外に出よう、ツナ」
「そ、それはいいんだけど、行き成りどうしたの?」
先を急かす俺に、ツナが不思議そうに質問してくる。
だけど、理由を教えてもきっとツナには分からないだろう。
「あ、足がね、疲れちゃったから……」
「そう言う事は、もっと早く言ってよね!」
だからこそ、苦し紛れに言った俺の言葉に反応したツナの行動は、本当に早かった。
さっと俺を抱き上げて、直ぐに校舎を出る。
「ツナさん!さん!」
校舎を出れば、武達が皆で俺達を待っていてくれた。
ハルちゃんが俺達の姿を見つけて、嬉しそうに手を振ってくる。
だけど、俺はそれに返事も返す事ができなかった。
先ほどの事を考えると、顔が青くなるのは仕方ないだろう。
「どうかしたのか?」
ツナに抱えられて戻って来た俺に、武が心配そうに声を掛けてくる。
「足に負担が掛かったみたいだから、オレ達は先に帰るよ」
「えっ、くん大丈夫なの?」
「あっ、うん……」
「確かに顔色悪いみたいだな……」
武の質問にツナが言葉を返せば、京ちゃんが心配そうに質問してくるのに、何とか頷いて返した。
だけど、そんな俺を見て、武が心配そうに口を開く。
うん、顔色が悪いのは、足の所為じゃなくて、さっきの女の子の所為なんだけどね。
折角、怖くないと安心していたのに、最後の最後で本物が出てこなくてもいいじゃんかぁ!!
泣きそうになりながらも、ツナに抱き上げられたままで家に帰って、その日は勿論ツナと一緒に寝ました。
だから、ホラーは苦手なんだからなぁ!!!